第68話四の君と呪いのアイテム
四の君が陰陽寮からくすねてきた(よく持ってこれたね)呪いのアイテムを手に部屋の隅で作業を始めてしまった。
ヤバい。
どう見ても黒魔術の一種だ。
人型?みたいな物を片手にブツブツと呟いている姿が異様過ぎる。
兄上は困った妹を見るかのように微笑んでいるけど、これってヤバいよ。どう見てもヤバすぎる呪いの案件だ。
「四の君、その呪い絶対にヤバいよ。犬神なんて目じゃないくらいの暗黒さが既に滲み出てる……危ない事は止めよう。『人を呪わば穴二つ』という言葉もあるよ。もっと穏便な手段にしよう……」
訴えかけて暫くすると我に返ったのか、
「そうね、
と、言って思い留まってくれた。
けど、成功率低すぎない?
何その成功率の低さ。
「犬神の方が良かったんじゃない?」
「……それではダメよ」
「何かあるの?」
「妙な気配を感じる女なの。この呪いでなければ始末出来ないような気がして……」
何とも言い難い表情をする四の君は非常に口ごもっている。珍しい。たぶん説明するのが難しいんだろう。何となく嫌な気配のする女だから難易度の高い呪詛を使用しないといけない、というものだもんね。曖昧過ぎる。白黒はっきりしている四の君自身も戸惑っていて上手く説明できないんだろう。
世の中、
時代のせいか幽霊騒ぎも頻発に起きているしね。霊感ゼロでも生霊を見た例は枚挙にいとまがない。先祖の霊が守っているって例もある位だ。
じゃあどうするのか、と振り出しに戻ってしまったけど呪うよりかはマシかと思い「うわなりうちは?」と提案してみたら、兄上も四の君も「?」で首を傾げた。
あれ?『うわなりうち』ってこの時代になかった?
北条政子が夫の愛人に仕出かした事だから、てっきり平安時代にはあると思ってたけど……違ったのかな?
「それは何なの?」
四の君が食いついてきた。
「え~とね。先妻が後妻に対して『うちの夫を横取りしやがったな!』と言って仕返しすることかな?まあ、四の君の場合は
「仕返しといっても何をすればいいの?」
「う~~ん。使用人を引き連れて屋敷を襲撃するとか?」
「「……」」
あれ?
兄上も四の君も黙っちゃった。
間違えた?
でも、
江戸時代じゃ一種の文化にまで発展してたような。
あっ!
ルールがあった!
「勿論、無差別に破壊するなんて乱暴な事はしないよ!一定の礼儀作法に則って行うんだ!
その一、『後妻(愛人)への事前通告』。先妻(本妻)が後妻のところへ使者を派遣し、日時と武器を伝達する。いつ、どんな武器で決行されるかを、相手に通告するんだ。
その二、『人』に武器を向けたり暴行の類は絶対にしない。流血沙汰になったら四の君が罪に問われちゃうからね。
その三、帝の許可を得る。責任問題に発展しないためにも、一番上の人の許可を取って正式にものにしよう。
その四、襲撃時刻は深夜。皆が寝静まった頃を見計らって決行」
その三と四は僕の独断の考えだけど、なにかあった時の対処法は必要だ。四の君が罪の問われないようにしとかなくっちゃね!
「いい考えだわ!」
四の君は『うわなりうち』を物凄く気に入ってくれたようだ。よかったよかった。
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