第37話拾われた更衣


桐壺の更衣の御懐妊ニュースの数週間後、内裏に激震が起きた。


元後涼殿の更衣の懐妊である。




が懐妊…?…まことか……」


父帝はムッチャ驚いてた。

予期せぬ事態とでも思ってんだろうけど、てめーの胸に手を当てて考えろ!思い当たること満載だろうに、まったく!


でも気になる事が。


「おひろいってなに?(訳:お拾いってなに?)」


何かの暗号かな?『拾う』って何を?


「元後涼殿の更衣様の事でございます」


大弐の乳母が教えてくれた。

『お拾い』の意味と共に。


「更衣様は『後涼殿』を追われた後、局を転々となさいました。

それというのも、ここ数年の間に入内される方が多かった事が原因でございます。

本来なら、入内する事に躊躇するであろう身分の方々まで入内なさっているのですので、それも致し方ない事ですが……。

更衣様は権大納言の姫君でいらっしゃいまいたが、入内後に父君が亡くなられ、御兄弟は皆さま幼い方ばかり。

一番歳の近い弟君は十八歳に御成りですが、衛門の佐の御身分で、とても更衣様の後ろ盾にはなれません。かといって、他にこれといって頼りになれる親族もいらっしゃらいため、『後涼殿』を追い出されてしまわれると、他の身分の低い更衣様方にも軽く見られてしまい、最後には『淑景北舎しげいきたしゃ』の片隅の局に追いやられてしまったそうです」


ひでぇ。

同じ更衣で、父親無し、頼れる後見人もいない。

桐壺の更衣と同じような境遇なのに帝の寵愛があるか無いかでここまでの差が出るのか。

恐るべし…後宮。


「でも、いちょにきたやまいったよ?(訳:でも、一緒に北山いったよ?)」


「はい。更衣様の現状をお上が知ったのは随分後になってのことですが、更衣様の境遇に大層憐れんで、北山の同行の供をするように命じたのです。

ただ、帝の供をした女房の殆どが桐壺の更衣様付きの女房でして、元後涼殿の更衣様を侮る者たちばかりで、あろうことが、『元後涼殿の更衣を我が主の元後涼殿の更衣様と天下の帝が憐れんで、“拾われた”。なんと“運のいい更衣様”もいたものだ』と嘲笑う有様。

場所が場所だけに、元後涼殿の更衣様を庇う者はいなかったようです」


最悪だ。

桐壺の更衣付きの女房の質が悪い事が判明した瞬間だった(前から疑っていたけど)。

もしかして、母更衣の評判が悪い理由って、女房たちも何か関係しているのかも。


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