第13話桐壺の更衣、病に伏す


桐壺帝が最も愛する女性、桐壺の更衣。

彼女は若くして亡くなった『悲劇の妃』だ。

按察大納言と正妻の一人娘で、亡き父の遺言に従い入内し、帝の寵愛を一身に受けたせいで、他の妃たちに虐めれられて心労で若くして亡くなる。

源氏物語では『薄幸の女性』として描かれている。


桐壺の更衣は、光源氏が三歳の時に病で亡くなっている。

光源氏に母親の記憶がなく、成長するのつれて母親の面影を追いかけるようになった。マザコン男め!

何が言いたいのかというと、母親の死は光源氏のターニングポイントの一つだ。

つまり、僕の人生が狂うか否かの場面。




原作通り、その年の夏に桐壺の更衣は病に倒れた。

病気になった妃は通常実家に帰って療養するのが普通だ。

けどここには普通じゃない男がいる。

僕の父親、桐壺帝だ。

桐壺の更衣と離れたくなかったので実家に帰さなかった。


父親は母親の実家からの使者に対して、


「いつものように熱が上がっているだけだ。もう少し御所で養生する方が更衣のためにいい。明日には熱も引いているかもしれないだろう」


と、言って追い返したのだ。


追い返すな!

まったく!

でも、父帝のいう事も分かる部分はある。


この頃になると、桐壺の更衣はしょっちゅう熱を出しては寝込んでいた。父帝にしてみれば「いつものこと」と軽く考えていたんだろう。

けど、五日過ぎて病状が悪化すると周りは慌てだした。


父帝は泣き叫ぶし、更衣付きの女房たちはオロオロしてる。つかえね~~~~~~。

仕方なく、三才の僕が脈を診て周りに支持をだした。



「ははみゅえを、いちょいでつぼにぇまではこみぃにゃしゃい(訳:母上を、急いで局まで運びなさい)!」


舌をカミカミさせながら頑張って訴えた。

三歳児の舌はまだ上手くまわらないんだよ~。

でも乳母の大弐だいにがすぐに理解して、急いで母親を局まで運ぶように指示を出していた。

さすが! 僕の乳母は優秀だ!

大弐だいにきみ

僕の乳母の呼び名だ。

なんでもお父さんが大宰大弐だざいのだいにをしているため、乳母もそのように呼ばれているんだ。


なにはともあれ、これで早めに医者を呼んでくれればOKだよね。

僕もテトテトと局に行くと、既に父帝が来てた。

はやっ!!!

しかも、母更衣に抱き着いて離れない。


「更衣、私をおいて逝かないでおくれ……」


不吉なことをいってらしゃる(怒)



「ちーうえ、ははみゅえをはみゃく、くちゅちにおみゅせしゅて(訳:父上、母上を早く医師くすしにおみせして)」


「おおお、光。そなたの言う通りだ。皆の者、はよう、祈祷師を呼んでまいれ!」


おい!

誰が祈祷師呼べと言った。

アホか!

必要なのは医者だ!医者!いかん。今は医師くすしか。


「はりょ、くちゅちよべ(訳:はよ、医師くすし呼べ!)」


「祈祷師は未だか!!!」


あかん。

話がかみあわねぇ!


大弐の乳母に言葉を訳してもらっても医者を呼んでくれないので、最後の手段に出た。

泣き落としだ!



うっぎゃゃゃゃゃっっっっっん!!!!!



部屋中に響き渡った幼子の鳴き声。

ここが正念場!

こんな事が出来るのは幼児まで!

だからこそ僕は頑張る!

全ては安泰な未来のために!



「ちちうえ、くにいちのくちゅちでしゅ!くちゅちにみせるのでしゅ!(訳:父上、国一の医師くすしです!医師くすしに診せるのです)」



僕は更に泣きわめく。


ぎゃゃゃゃゃっっっっっん!!!!!うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!


僕の最終奥義!とばかりに喚き散らす。



観念したのか、ついに父帝は医師くすしをよんだ。

始めからそうしろ!

泣き叫びすぎて疲れたよ。

体が小さいから泣くだけでも疲れるんだぞ!

でも、これで医師くすしは呼んでくれる。

ああ、泣き疲れたから眠たくなってきた。おやすみ。すや~~~~~。








◇◇◇◇◇


医師:典薬寮の職員の1つ。従七位下相当。なお、民間の医師は「里中医」と称せられた。



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