第10話桐壺の更衣の評判は最悪


原作クラッシャーだ!と意気込んで二年。

現実の厳しさに直面しております。


なにが厳しいのかって?

それは、僕が思っていた以上に桐壺帝は桐壺の更衣を溺愛してたことだ。悪い方向に。




「最近、御所に狐が増えてしまったようですわね」


「子狐でございましょう」


「狐は狐でも、九つの尻尾を持つたぐいのもの。母狐同様に主上のお傍に侍っているそうですわ」


「まあ!どうりで、最近妙な匂いがすると思っておりましたわ。獣の匂いが……」


「畜生風情が御所を我が物顔で闊歩するとは嘆かわしい」


「いずれ、母狐のように人を堕落に導くのですよ、きっと」


「おお~~~怖い。日夜酒色しゅしょくふける母狐のようになるのですね。卑しい身の者の考えは、わたくし達には理解の範疇にあるようです」



簾の向こう側の女たちの嫌味が響く響く。

シルエット越しの姿なのにギンギンの目で僕を見ているのが分かる。


どうやら母は九尾きゅうびの狐、つまり、妲己だっきと揶揄している。

世間では「楊貴妃ようきひ」、後宮の女たちには「妲己だっき」。

どちらも皇帝の寵愛を欲しいままにして、国を傾かせた「傾国の美女」だ。

特に、妲己だっきの場合は本当に国を滅ぼしているから笑えない。

この場合、誰が周の武帝になるんだ?




「卑しいと申せば、母狐は最近“従三位じゅさんみ”を強請ったというではありませんか」


「“従三位じゅさんみ”ですと?どこまでも厚かましい狐ですこと。更衣の身分では“四位”に上る事も稀ですのに」


「そのお話でしたら立ち消えになりましたわ。太政大臣だじょうだいじんが『道理に合わぬ行いだ』と苦言されたそうです」


「流石は太政大臣だじょうだいじんです。物の道理を弁えていらっしゃいますわ。かの大臣がおられる限りは主上も滅多な事はなさいますまい」


妖狐ようこの悔しがる姿が目に見えます」



「「「「「「ほほほほほほほほ!!!」」」」」」



こぇ~~~~~。

後宮の女達の悪口は怖過ぎ!







◇◇◇◇◇


太政大臣:太政官の筆頭長官。朝廷の最高官位。

従三位:更衣の位階は「五位」。稀に「四位」もいる。源氏物語で、桐壺帝は亡くなった桐壺の更衣に従三位を贈ります。追贈であっても異例の措置でしたので、今回も帝は何らかの理由付けをして更衣に位を与えようとしていました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る