1-2 お出かけ前には万全の準備を!〜メンタルケアも忘れずに〜

「ミミリ、準備できた〜?」


と言う声の主もなお、朝の食卓。

ミミリお手製モーニングプレートを堪能した後、食後のコーヒーをゆっくり味わっている。


「ごめんなさ〜い、もう少し〜!」


ミミリは右へ左へ、あれもこれもと【マジックバック】の中へアイテムを詰め込んでいく。


【マジックバッグ】は錬金術で作られた錬成アイテムだ。


【マジックバッグ】の中は亜空間領域であり、錬成前の素材アイテムや生活雑貨、食糧など、生き物以外の物を保管することができ、個数と大きさの制限は特にない。

しかも、収納時点から劣化が止まるという優れもので、温度や状態はキープされ、かつ、バックに重量は加算されない。


使用の代償としては、アイテムの出し入れでMPを消費してしまうということと、使用者登録が必要であることだ。


見た目は普通の革製のバックではあるが、かなり優れた錬金術士でないと作成できないと、アルヒから教わった。

ちなみに、ミミリには【マジックバッグ】を作る技量はまだない。


「怪我するかもしれないから、【ひだまりの薬湯】も補充しなきゃいけないし、お腹が空いた時のために【ミンティーの結晶】でしょ、あと【アップルパイ】に…そうだ!焼いたパンとスープもだし…アッ忘れ物!!」

ミミリはバタバタとクリーンルームへ走っていった。


「まったくもー!昨日のうちに準備しときなさいよねっ!」


と言う灰色のうさぎは、えらそうに足を組んでコーヒー片手にバタークッキーを食べ始めた。

えらそうではあるが出発の準備は残すところ腹ごしらえくらいなので、余裕であるのも当然ではある。


そんな二人を横目に、アルヒは淡々と家事をこなしていく。

洗濯物を終え、床磨きをし、朝ごはんの食器洗いに入るところだ。アルヒが纏う、室内モードの衣装も家事効率を上げているのだろう。うさみがまったりしている間に、みるみると家事が終えられていく。


「このプレートもさげますね」

「あら、ありがと♡

…それにしても、アルヒってほんとに…


『新緑のボブヘアに窓から漏れた朝日が差して、陶器のような肌にまつ毛の影が落ちる。

頬はうっすらとピンク色に染まり、唇は薔薇が咲いたよう。やがて少女は視線をこちらへ移し、小首を傾げながら絹のように艶やかな髪を片耳にかけるのであった。』


…たまらんわぁ。」


「はい?よく、聞こえませんでした。なんでしょう、うさみ。」

「黒のワンピースに白のエプロン、片手にシルバートレイですか。黙々と働く姿もなお良き。たまらんわぁ。」


うさみはふわふわのしっぽをふるふるっと震わせて、美少女実況しながらコーヒーを嗜む。


「…?」

アルヒはうさみの様子が理解できず、家事の手を一旦止めて考えている。


アルヒは、うさみが見惚れるほどに、やはりとても美しい。


シルバートレイを両手で抱え、家事を中断したアルヒが無垢な瞳で見つめる姿は絵画のようだ。木を基調としたナチュラルテイストな家の背景がまた一段とアルヒを映えさせる。


ちなみに、家の中にはたくさんの『可愛い』が散りばめられている。


ミミリたちの家の中は壁一面に本棚がある。

本棚と言っても名ばかりで、錬金術に関する初歩的な本が数冊ある程度だ。

本の代わりには、たくさんの錬金素材アイテムやぬいぐるみが置いてある。


ぬいぐるみは種類も質も様々で、何体も作るうちに上手になっていったのかな、と思うくらい仕上がりが二極端だ。


実はぬいぐるみはアルヒの趣味らしく、可愛いものに囲まれて過ごしたいのだそう。


アルヒがぬいぐるみたちを眺めて微笑む姿はどことなく憂いを帯びているとのことで、そんなアルヒをツマミにコーヒーが進む、とうさみは豪語している。



「たまらん、とは何のことでしょう。耐えきれないという意味ですか。綿の交換時期ですか。それとも不具合ですか。」

「やあね、綿の交換だなんて縁起でもないこと言わないで。今の「たまらん」は、最高ってことよ。まあ、ある意味、客観的に見た私は一種の不具合ね。」

「理解できませんが、最高なのであれば喜ばしいことですね。ですが、不具合が続くようなら言ってくださいね。メンテンナンスしますから。」


アルヒはニッコリ微笑むと、食器の片付けを再開した。


うさみはフフンと満足気に鼻歌を歌って、頬杖をつきながらアルヒを目で追う。喜びが溢れてしっぽはふるふると震えている。


アルヒも未だエプロン姿ではあるが、彼女の着替えはコード選択ひとつで準備が完了するからなんの問題もない。




「おーまーたーせー!!」


クリーンルームから、ミミリがバタバタと走ってくる。


白色の猫耳フード付きモフモフショート丈コートに、紫のリボンが結ばれた猫の尻尾付きモフモフワンピース、紫タイツに猫足ショートブーツ。フードからは、二つに結ったピンク色の髪を覗かせて。


透き通るような白い肌は採集作業に向けて興奮気味に紅潮し、晴れた空色の瞳をキラキラと輝かせている。

ショルダータイプの茶色の【マジックバッグ】の中には、たくさんのアイテムを詰め込んで、錬金術師の固有武器である木のロッドも持って準備万端。


13歳になったミミリは、幼さも残しつつ大人の顔も覗かせる、見目麗しい少女に育った。


「ん〜満足。可愛い系少女とキレイ系少女に囲まれる環境。恵まれすぎて罪なうさぎだわ。」


椅子からピョンッと飛び降りて、新緑のコートに身を包み、麦わら帽子とカゴを持ったうさみも出発の準備が整った。


「お待たせしました。行きましょうか。コード選択。衣装交換。戦闘モード。」

アルヒがコードを唱えると、瞬時に戦闘用ドレスに切り替わる。


アルヒの戦闘用ドレスは肩を出したタイトな膝丈ドレスだ。裾のレースからは、女性の色気が感じられる。


機械人形(オートマタ)のアルヒの稼働年数は相当なものらしいが、見た目は18歳くらいの少女に見える。美少女が黒色のセクシーなドレスを身に纏って華麗に闘う姿は、見る者を魅了してやまない。

そして、左耳には透き通るようなエメラルドグリーンのイヤリング。金のフレームがキラリと光る。


「ほんと私って罪なうさぎ。」

「え?なんのこと?」

キョトンとするミミリに、たまらんということです、と学習の成果をアルヒは披露する。


「メンタルケアも上々ってことよ!さっ行きましょ!」

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