KARMANIA -カルマニアー
黄昏
第1話 夢
小さいころから、何度も同じ夢を見る。
軍服の服装をした女性と話す夢。
顔は見えないが、必ずこう言われて目が覚める。
「絶対にまた会いましょうね。」
そうしてその夢を見た朝は、必ず涙が出ている。
*
「またか…」
僕、
「なんなんだよ…」
ぼそっとつぶやき、なみだを拭いながらベッドに腰かける。
少しだけ開いたカーテンから見える明るい街の景色は、まったく思い入れもないもので、あの夢を見た後ということもあり朝にもかかわらず僕の心はだいぶ曇っていた。
今日は4月7日、始業式の日。
晴れて今日から高校二年生となったわけだが、実は僕にとっては転入初日でもある。父の仕事の影響で16年間住んだ故郷を離れ、友達ともなかなか会えない距離となってしまった今、正直新しい出会いへのワクワクよりも再度人間関係を1から構築しなければならないという絶望感のほうが大きい。
しばらく窓を眺めたあと、1階の母からの呼びかけで我に返る。クローゼットから制服を取り出し、慣れない手つきで着替えた。真新しい制服は前の学校と同じくブレザー仕様だ。しわ一つない新入生のような出で立ちに、新学期特有の夢と希望、のような高揚感を思い出し、少し気が晴れた。
1階に降り、4人かけのテーブルのいつもの位置に腰かける。僕は一人っ子で3人家族のため、だれのものでもない椅子がある。たまに祖母や幼馴染がうちでご飯を食べるときに使うくらいで、ほぼ来客用か物置だ。
「前の制服よりいいじゃない、似合ってるわよ」
朝食を運びながら母が言う。僕には違いがわからないが、悪い気はしない。朝はいつものチャンネルでニュースを見て、だんだんとこの現実に頭を順応させていく。
「近くのスーパーがさ―――」
朝のニュースを見ながら、母のおしゃべりを聞くのが僕のモーニングルーティンだ。空返事をしながら、運ばれたご飯を食べる。遅刻をしないうちに、そそくさと2階に戻りバッグをもって、予定よりも早く学校に向かった。
*
「今日から転入してきた、
ぱちぱちと鳴り響く拍手。
2年C組の教室で、始業式後に黒板前であいさつ。おもったよりも快く迎え入れてもらったことで、感じていた緊張もほぐれた。
「清城はあそこ、
教師が指さした
正直彼のようなやんちゃなキャラは僕の得意分野ではない。どちらかというと僕はそういった集団からは縁の遠い人間だ。新学期のため席順が五十音順であることを心から恨んだ。
(あのヤンキーだけには絶対かかわらないでおこう…)
そう思いながら自分の席についたもつかの間、教師から配られたプリントが前からまわってくる。例によって僕も東海林にプリントをまわすが、もちろんプリントが配られていることに気づいていないため、彼はまだ突っ伏したままだ。
「東海林くん、プリント…」
僕が声かけると、ゆっくりと顔をあげた。寝起きということもあるだろうが、かなり目つきが悪い。いわゆる三白眼だろう。あまりの形相に怯んでしまい、プリントを持つ手を少しひっこめてしまった。
「…わり、置いといて」
僕にしか聞こえない小さな、おそらく寝起きのためしゃがれた声でそう言い、再び机に突っ伏した。
「う、うん」
思っていたよりも優しい対応に拍子抜けしつつ、彼の腕と机にプリントを挟む。春休み明けだし、寝不足なんだろうと勝手に納得し、なるべく起こさないようにしようと決めた。
*
新学期初日の授業とは、大体オリエンテーションで終わる。教科書の説明、担当の教師の自己紹介など、僕にはまるで興味のない内容。気づけばいつの間にか寝てしまい、またあの夢を見ていた。
『僕にはできない!』
『――様、そのようなことを言われましても、これがあなた様の務めです』
『でも…』
『これが運命です。お覚悟を』
『絶対にまた会いましょうね』
「―――き、清城!」
「え!?」
目を開け声のほうを見上げると、そこには東海林がいた。突然の呼びかけと、思ってもみなかった人物が目の前にいることに同時におどろき、間抜けな声が出る。
あたりを見ると人もまばらになっており、もう放課後らしい。どうやらずいぶんと寝てしまっていたみたいで、転入初日とは思えない緊張感のなさに心底自分にあきれた。
「お前なぁ、前の席で寝られたら俺が寝れねーだろうが」
「ご、ごめんなさい!」
「つか、なんで泣いてんだ?」
「あ…」
(そうか、あの夢を見たから…)
今日初めて会った人間に涙を見られた恥ずかしさ、よりによってこんなヤンキーに…といろいろな思考が頭を駆け巡り、うまく言葉が出てこない。顔が赤くなっていくのがわかる。
「い、いや、なんでもない!あくびかな!寝ないように気を付けるよ!」
あくびで出る量の涙ではないのだが、夢の内容で泣いてしまうなど知られたくもない僕にとっては渾身の言い訳だと思った。
「そうか。明日から俺の居眠りカバーよろしくな」
そう言って東海林は自分の席に戻り、バッグをもって教室を出ていった。
僕は涙を急いで拭い、帰り支度をはじめた。
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