第28話 春の訪れ🌸

 私はお義父とうさんのことが好きである。いや、お義父さんと話す時間が、空間が好き。ゆったりと、それでいて力強い話し方は嫁いでからずっと変わらない。

 

 日曜日に夫と二人で会いに行ってきた。そう、お彼岸だから。お義母かあさんに線香をあげる夫の横に座り、私も目を閉じる。

 

 もうすぐ二十年。あと三ヶ月だと癌の余命宣告を受けた時、夫は泣いた。もう手の施しようがないと手術も出来ず、半年で亡くなった。あれから二十年。


「今年は桜が見れんかもしれん」

 冬、病院のベッドで呟いたお義母さんの背中を摩りながら夫は泣いた。


 四月。桜が満開の中、お義母さんは逝った。


 


 あれから二十年お義父さんが言う。肺癌で治療も出来ないお義父さんが言う。

「死ぬのは怖くない。けど誕生日まで生きたいと……は……思う」と。


 お義父さんとお義母さんと三人でテレビを見ていた日に戻りたい。

 のど自慢とか、駅伝を見て盛り上がっていたあの日に戻りたい。



「……大東亜戦争の時、敵が来たら竹槍で倒すよう言われた。それで本当に倒そうと思っていたんだ……それも一つの洗脳だったと思う。そういうもんだ」


 ずっと手を合わせなかった私にお義父さんは優しく言った。私の過去を咎めるわけでもなく穏やかに。



「今日は暖かいです。少しだけ日向ぼっこしませんか?」

 私と夫とお義父さんは三人で春を感じた。幸せだなぁって思った。



 お義母さん、私たちにも孫ができました。

あなたが見たいと願っていた桜の花びらに春を感じています。


あなたが最期に見た花に、

生まれて初めての春を感じて、命を繋いでいくと思います。



お義父さんに会って数日後、娘からお孫ちゃんの写真が送られてきました。

この写真をお義母さんにも見て欲しかったって思いました。

近況ノートに載せました。

https://kakuyomu.jp/users/hanasu-hosito/news/16817330654831929316

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