第10話 お父さんとゆずり葉
「じゃあ、また来るね」「また来ますね」
「……どうも、どうも。元気で……」
お盆に夫の実家に行ってきたデバネズミ。
帰りぎわの挨拶。お
お
今年九十才になったお父さんは相変わらず穏やかな人だ。
コロナ禍を言い訳にしてずっと行ってなかった夫の実家。
「食欲はありますか?」「あるよ。大丈夫だ」
自分のことは自分でしているお父さん。
自分で車を運転してスーパーにも行っているという。
「今月、赤ちゃんが生まれるよ。大じいじになるで
元気でいてもらわないと……」夫が言う。
「そうか」お父さんの微笑み。穏やかで温かい。
私はお父さんのこの微笑みに何度も救われてきた。
◆□◆□
「お母さん、もう頑張れない。どうしよう」
結婚三年目、私は泣きながら
お財布だけ持って、公衆電話から電話した。
結婚後すぐ仕事を辞めた夫。借金。
誰にも言えなかった二年間。
そんな中で、毎週のように夫の実家に行く生活。
お
毎日のお弁当作りは大変だよって嘘をつく私。
自分の両親にも、夫の両親にも心配かけたくない。
「お母さん、お金貸して……」泣きつく私。
「その足で旦那の実家に行きなさい。
旦那の親を頼りなさい。
その方がずっと可愛がって貰えるから……」
全てを話すと、夫の両親は気づかなかったことを
謝ってくれた……一緒に泣いてくれたお
「お前たちは俺が守る」と言ってくれたお
本当にずっと、ずっと、守って可愛がってくださいました。
◆□◆
実父の元で二十七年間。義父の元で二十七年間。
同じ年月になった。
お父さんに会ったその夜、私はある詩を読んだ。
仲津さまの『詩を読む』感想エッセイの詩。
感謝の涙があふれた。
今度は私たちがお父さんを守るね。夫と誓う。
そして、この強さと愛を娘に孫に……。
世のお父さん、お母さんたちは
何一つ持ってゆかない。
みんなお前たちに譲ってゆくために
いのちあるもの、よいもの、美しいものを
一生懸命造っています。
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