君の名前の由来

七種夏生

『利』明


 僕の名前は渋谷しぶや利明としあき

 だけど利明は、本当の僕ではなかった。


 産後すぐに妻を失った父は、男手一つで赤子を育てていたが、その愛息子も一年経たないうちにこの世を去った。

 喪失感を埋めるように父は僕をこの家に迎え入れ、あろう事か本物の息子と同じ名前を僕につけた。


 だから僕は二人目、偽物の利明。

 この名前は本来、僕のものではなかったのだ。



 では、僕は一体何者なんだろう?



 その答えを見つけるため、僕は全てを捨てた。名前や父親と実家、仕事などそれまでの人生全てを。


 そして本当の自分探しを始めた。


 まず、本物の両親と本当の名前を見つけようと思った。

 それは案外簡単なことで、利明の父親が教えてくれた。

 どうやら僕は予定外の妊娠というやつで、母の妊娠中に両親は僕を手放すことを決めていたらしい。


 母親の所在はわからないという。

 故に、紹介出来るのは父親だけだ。と、利明の父親は言った。


「出て行かないでくれ。お前は俺の息子だろう?」


 大粒の涙を流す彼の言葉を無視して、僕は二度とこの家の敷居を跨がない覚悟で玄関を出た。

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