補佐官である俺の彼女は艦長
うまチャン
第1話 秘密の関係1
戦艦ヴィード―――それはこの世界を守る守護神とも言える存在の戦艦だ。
厳しい試験を乗り切った者達だけが乗船出来る、まさにエリート集団。
俺の名前はヴァル・ヴァリッド。
戦艦ヴィードの補佐官という職に就いている。
補佐官の仕事の内容はどの職よりも過酷だ。
何故なら全ての職のサポートをしなければならないからだ。
例えば戦艦のエンジンに不具合があればすぐに駆けつけて原因を探ったりとか、アクシデントで人手が足りないという時には臨時で急遽参加したりする。
補佐官というのは戦艦全ての知識を必要とするため、精神的にも負担がかかる職業なのだ。
今は艦長室に向かっている。
今日の出来事を艦長に知らせるのも補佐官である俺の仕事だ。
「失礼します艦長」
艦長室の扉をノックし開けると……。
そこには立派な制服を着用し、たくさんの資料が積み重なった机に向かって作業をしている女性。
そう、この方が我が偉大なる艦長、ヴァレンティナ・ジャミラ艦長だ。
透き通るように綺麗な、細い青髪と眼を持っている。
女性でありながら、この部屋に入った瞬間に襲いかかってくる威圧感・威厳さは半端ではない。
ギラリと鋭い目が俺に向かれる。
もともと鋭い目つきをしているため、何もしていなくても船員は皆あまりの怖さに黙り込んでしまう。
まあ、俺は仕事の関係上しょっちゅうここに訪れているせいもあって、全然そんなことは感じなくなったが……。
「艦長、今日の日報を持ってきてまいりました」
「机に置いといて」
「かしこまりました」
相変わらず圧をかけるような口調で話す艦長。
しかし、慣れている俺は平然と艦長のいるところへと向かい、机に日報を置いた。
艦長は早速渡した日報を読み始めた。
他の船員ならこの緊張感にガチゴチに固まっているだろう。
「ん、ご苦労だった。仕事に戻れ」
「はい」
そう言われ、俺は艦長に一礼すると、次の仕事場に向かおうと部屋を立ち去ろうとした。
すると突然、艦長は俺を呼び止めた。
「ヴァル」
「はい?」
「一仕事終えたら、またここへ来てくれないか?」
「――――了解しました」
そう言って、俺は部屋を立ち去った。
◇◇◇
寝静まったかのように誰もいない艦内で、俺は1人黙々と仕事をこなす。
補佐官の一日の最後の仕事、点検をしている。
細かなものは専門の人たちに任せてあるから、大まか異常はないかを見る。
もしここで異常を見つけたらすぐに報告し、直してもらうことになる。
今回は特に異常はなかったため、自分の身の回りを片付け、艦長室へと向かった。
この時間の廊下の電灯はまだらについているため、普段より暗めだ。
「――――」
歩いて1分、艦長室の目の前まで来た。
俺は一呼吸置いてノックをし、重くて頑丈な扉を開ける。
扉を開けた先には、やはり資料が積まれた机で作業をしている艦長がいた。
俺は迷惑にならないようにゆっくりと扉を閉めた。
「後で行くから、お茶でも飲んで座って待ってて」
「はい」
そう言われた俺はコップに紅茶を入れ、艦長の横にあるソファーに座った。
位の高い人のためというのもあって、ソファーは高級品。
クッションが柔らかくて心地よいものだ。
「「――――」」
艦長室の中はとても静かで、今は艦長のペンが紙の上を滑らす音しか聞こえない。
何もしないのもあれだから、明日の予定でも確認しておこう……。
「んー!」
どうやら一区切りしたようだ。
艦長は座ったまま腕を上に伸ばし、そのまま椅子から離れた。
「もー! 何で艦長ってこんなに忙しいの!?」
「仕方ないよ。すべてを取り仕切っているのが艦長の仕事なんだから」
「む〜、ヴァルの意地悪ぅ……」
これを聞いたみんなは、艦長の態度の激変に驚くだろう。
しかし、これが俺にしか見せない彼女の素顔なのだ。
さきほどの威厳さはどこかに行ってしまい、今はただ俺に甘えてくる子猫のように可愛い女の子になっている。
「良いのかティナ?」
「何が?」
「俺にとっては結構恥ずかしいレベルでだらしない感じになってるけど……」
「いいの! 別に他の人に見せることなんて絶対にないから。ば、ヴァルにだけは特別だからね……?」
艦長――――ティナは俺の顔をまともに見れなくなってしまったようで、顔を赤くしながら視線をそらした。
このシーン、俺にとっては反則級に可愛く見える。
彼女は俺に何か話すたびに俺の弱点をついてくる。
「――――本当にずるい」
「そうよ、わたしはズルい女。ヴァルをもっと落として夢中にさせたいんだからね!」
「そうか、なら仕返しだ!」
俺は仕返しにティナの顔にぐっと近づける。
ふぇ!? とティナは変な声を上げる。
ティナは顔を近づけられることに非常に弱い。
彼女の大きくて澄んだ青い目が映る。
そしてこのシチュエーションが来ればやることは1つ。
「――――ん」
お互い顔を近づけ、そしてお互いの唇同士が触れた。
最初はただ唇が触れるだけだが、段々とティナは感情を抑えきれることができず舌を入れてきた。
「ん、ちゅ――――はあ、はあ……」
長い時間続け、ゆっくりと離すと完全に夢中になってしまっているティナがいた。色気たっぷりの吐息に、口端からはゆっくりと涎が伝っている。
青い髪は乱れてしまっている。
これがまた反則級に可愛いのだ。
「まずい……。本当に我慢できなくなりそう」
「――――わたしはいつでも良いよ?」
ティナはソファーに仰向けになると、抱いてほしいと言うかように腕を差し出す。
俺は彼女に覆いかぶさると、またキスをする。
このまま……と思ったが、俺はティナから顔をゆっくりと離した。
「だから無理するなって言ってるんだよ……」
ティナの頭から異常なくらいの煙が出ていた。
彼女は、そこから先ができない。
この前は服に手をつけるまでは行けたものの、
『だ、だめ……恥ずかしいからだめぇ!』
と腕を捕まれ、拒否されてしまった。
「だ、だってぇ。ヴァルとは早くそういう関係になりたいから……」
ティナはそう言うと、顔を真っ赤にしながら視線をそらす。
くそ可愛い、マジ天使、このまま襲ってしまいたい――――という思いはあるが、俺はティナから離れ、身を整えた。
「まあ、焦る必要はないさ。俺はティナが隣にいてくれるだけでもいいからさ」
「――――うん、わたしも」
ティナは少し顔を傾けて言った。
そう、俺は可愛くて愛しい彼女がいてくれるから明日も頑張れるんだ。
「じゃ、俺は寝ることにするよ。おやすみティナ」
「おやすみヴァル……。あ、行く前に」
扉を開けようとした時にティナは俺のところへ駆け寄る。
そして俺を抱きしめた。
俺も優しく彼女を抱きしめると、またキスをした。
30秒くらいたったところで名残惜しく離れると、
「じゃあね、おやすみヴァル」
「おやすみ」
俺は艦長室を後にし、そのまま寝床へと向かった。
そう、俺、ヴァル・ヴァリッドと艦長、ヴァレンティナ・ジャミラは恋人同士。
この関係は俺とティナ以外、誰も知らない。
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