第30話 山編終わり

「さて、これで大丈夫だろうか? そこら辺の植物、蔦とかで捕縛してみたけど」


「うむ、サトリも気を失っておる。急に暴れ出すこともないだろうが……ほれ!」


「ん? 天狗さん、何をしたんですか?」


「天狗の技よ。蔦を強化しておいた」


「へぇ、そんな事ができるんですね。しかし、どうしましょう、コイツ? この巨体だと村まで運べない」


 サトリ。 


 気を失っているが、童女の姿で翔を騙そうと接近してきた姿なら運ぶのも簡単だが……


「正体、現すとデカいだもんな。身長3メートル近くないか?」


「……ならば、ここはワシが見張っておこう。翔は村人を呼んでくればよかろう」


「なるほど、たしかに! それじゃお任せします」


 そう言って走り出した翔。一瞬だけ脳裏に――――


(あれ? あの天狗、どうして俺の名前を知ってるんだろ? あかりから聞いたのか)


 そんな疑問を浮かべるもすぐに忘れた。


 だが――――


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・ 


「村が……ない? 痕跡が完璧に消えてる?」


「Zzz……Zzz……」


「それで、なんでお前は寝ているんだ、あかり!? 揺さぶっても起きない!」


Zzz…… Zzz……


      Zzz…… Zzz……


「本気で起きないなぁ、どうしようか?」


「……2人でサボっているのですか、翔くん?」


「――――っ!?!? け、けあき?」


「え? どうしました? そんなに驚くとは思ってもいませんでしたが」


「お前もタイムスリップしてきたのか?」


「タイムスリップ? 何を言っているんですか、SFじゃあるまいし」


「???」


「ふぁぁ、良く寝た。あれ? どうかしました、翔先輩とけあきさん……けあきさん!? あれ、村は!」


「あかりさんまで……寝ぼけているだけでもなさそうですけど……」


「気づかないうちに現代に戻ってきた……いや、それにしても……おかしいですね」


「本当に一体、何があったのですか? 説明してくださいよ!」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「タイムスリップ? 妖怪と人間が一緒に暮らす村? 天狗に? サトリ?」

 

「何か心当たりはないのか?」


「ありませんよ。この山、天王家の管轄です。妖怪に関わる伝承はありません」


「それじゃ、あれは一体……」


「う~ん」とあかりは唸り声を出しながら「まぁ心当たりはありますよ」


「え? あかり?」


「私を、狐を騙せる種族は1種類だけですよ。いつだって、昔から……」


「それは、どういう意味だい?」


「狐を騙すような連中は――――あれですよ。たぬきだけですよ」


 あかりが指を向けた方向。


 ポンっ!


 腹鼓の音が聞こえた気がした。

 

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