第6話 番外編? 鳥羽あかりの戦闘

 賀茂 あすかは抜き身の剣――――天羽々斬を月夜に照らす。


 月明かりを浴び、薄く青く煌めく霊剣 天羽々斬あめのはばきり


 果して本物だろうか? ――――いや、そんなはずはない。


 その剣は、幾つもの別名を持つ神話の剣だからだ。


 十握剣、十拳剣、十掬剣から始まり――――


 『天羽々斬剣』


 『布都斯魂剣』


 『天十握剣』


 『蛇之麁正』


 『蛇之韓鋤』


 『天蠅斫剣』


 これほどまで多くの別名を持つまで有名な剣。


 その剣は有名な理由は――――


「龍殺しの剣か。それも日本産の龍殺しを相手するのは、流石に初めてかな?」


「そうですか。それは他国の龍殺しとなら戦闘経験があると言う事ですね……少し、驚きました。でも――――」


「むっ! 出よ蒼き狐火! 仇名す者を焼き払え!」


「一瞬で10を超える妖力の炎!? ですが私の技、居合に対しては遅すぎです」


「こ、コイツ、わっちの狐火を走りながら避け! そのまま剣を――――」


「抜刀! まずは脛斬りを狙わせていただきます」


「痛っ!」と声を出すあかり。しかし、それだけ……追撃はこなかった。


「む? なぜ離れる? わざわざ、わっちの足を斬るためだけに高速で接近したわけでもあるまい。 うまくいけば、この素っ首を切り落とせたかも知れぬぞ?」


「ご謙遜を……この地に封じられたとはいえ、貴方は人妖の神。そもそも妖力の5割も出していないでしょ?」


「くっくっく……正解だ。妖力の擬態……弱者と侮った者を『こんなはずではなかった』と惨めに殺すために身に着けたのだが……」


「くっ! 妖力で狐火を纏って――――いいえ、これは! 体そのものが火に変わっている」 


「正解だが、少し付け加えさせてもらうと、5割どころか1割も力を発揮していないがな」


「なっ! 封印されてるはずなのに、これほどの力を!」


「ほれ、その顔じゃ……こんなはずではなかった。表情が叫んでおるわ!」


「――――っ!(見誤った。先走った。このままでは、私1人の力では勝てない。せめて京の組織に――――天王家の人間を呼ばなければ)」


「判断がいい。重心が僅かに後ろへ。逃走に専念したか」


「っ! そこまで読みますか。では――――逃げさせてもらいます」


「速いな。切り込む速度よりも後退する速度の方が速い。脆い人間が人妖と戦うために考えた技術。ヒット&アウェイってやつか……だが、させぬよ!」


「私の後退速度に一歩で追いついて――――え!? ちょっと、何をする気ですか?!」


「いや、高速で後退中に足をひっかけると、どうなるかなぁ? って思って」


「どうなるかなぁ? じゃありませんよ! ちょっと、やめ! 止めてくだ――――あぁぁぁぁ!」


「うわぁ、そのまま廊下の端まで吹っ飛んでいったわ。大丈夫? 生きておるか?」


「――――そう簡単に討伐できるとは思っていませんでしたが……まさか子供扱いされるなんて」


「おぉ、生きてる! 生きてる! 凄い生命力じゃなぁ」


「どういうつもりですか?」


「どう? ……とは?」


「今がチャンスですよ? 私を殺さないのですか?」


「戯け! 殺されたいのか? じゃが、今のわっちは気分が良い。すこぶる気分が良い。わかるじゃろ? 宝くじが当たった日は、戯れに人を殺すのは止めておこうって感覚?」


「感覚が違い過ぎてわかりません。ですが――――」


「まさか……ですが、後悔しますよ。なんて言うつもりじゃあるまい」


「くっ!?」


「せっかく拾った命をありきたりのつまらぬ言葉で捨てるか?」


 それだけ言うと人妖は、姿を鳥羽あかりの物に戻り、夜の学校に消えて行った。


「敵とすら見られなかった。せめて、私の眼の効力が生かせれば――――あるいは!」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「なんて事があったのです! どうにかしてください翔くん!」


「そんなバトル漫画みたいな話、本当にやったんですか!? あかりの口調、途中でラスボスみたいになってたじゃないですか!」


(土曜日に賀茂先生から電話があったから、何の用かと思ったら……)


「封印されてるから退治は簡単と思ったのですが、逆ですね。退治する方法が見つからなかった封印された部類ですね」


「うそ! 私の彼女、強過ぎじゃない? カッコいい///」


「いえ、本当に強すぎて困っているのでふざけないでください」


「はい、すいませんでした。……でも」


「はい? でも、なんですか?」


「本当にアイツを退治する必要ありますか?」


「はい!?」


「だって、昔は悪かったのかもしれませんが、今は……少なくとも俺が感じてる鳥羽  あかりは普通の女の子です」


「……」


「先生?」


「翔くん、確かに翔くんの前では、彼女は普通の女の子かもしれません。でもね―――― 例え普通の女の子でも、世界を滅ぼしかねない力を持っていれば、排除しようとするのが普通の人間じゃないですか?」


「――――っ!」と息を飲む。電話越しの声に威圧されるも翔は、


「俺は、それ……正しくないと思います」


「そう……ですか。わかりました。それじゃ試してみましょう」


「試す? どうやって、あかりを試すつもりですか?」


「今度の日曜日、私は隠れて貴方たちを尾行します!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る