第5話 正道翔の日常(崩壊)②

「そう言うわけで彼女ができたんだけど、困った事があって……」


「ふむふむ?」


「付き合うって具体的にどうしたらいいんだろ?」


「なるほど、それを悩んでいたのか……って、彼女である私本人に相談します? それ? 普通、相談相手に親友の阿久津さんを選択しません?」


「いや、何か悩んでないか? って阿久津の物真似しながら聞いてくるから、つい……」


「でも、確かに初々しいカップルの悩みかもしれませんね。付き合うとは何か……言葉にすると哲学みたいですが」


「まぁ、互いに何かやりたいことはあるのか? 話しっておくのも良いかもしれないな」


「そうですね。若い2人が若さゆえの暴走……まぁ私は学生結婚でも構いませんが、旦那さまの負担は大きくなるのは望む所ではありません」


「冗談なんだろうけど、流石に重いよ」


「でも、結婚は女の子に取っての夢なので。 ……って言うと、昨今ではポリティカル・コレクトネスが批判的なお気持ち表明をしてくれるかもしれませんので自重しましょう」


「できてねぇよ、自重がよぉ! 社会的な敵を作ろうとするな。

 あと、話が脱線しすぎだ」


「あははは……話が脱線するのが私の悪い癖ですね。要するに翔先輩は、私にとって付き合うとは何かの意識確認を行いたいって事ですね」


「あ~ まぁ、そんな事かな? それじゃ改めて、あかりは何がしたい?」


「――――っ! そ、それは言ったら私の願望を翔先輩が叶えてくるという意味ですね!」


「叶えれる範囲なら……善処します」


「マジでか! ひぇ~ オラ、頑張ってボールを7つ集めた甲斐があったぞ」


「急にモノマネするな! それと神龍シェンロンと同格レベルの願いを求められても叶えられないぞ」


「むむむ……では、叶えれますかね? 私の願いを!」


「おっ? おぉ、どんと来いよ」


「受けて見せよ! 我が願い……1日1回で良いので、頭を撫でてくれませんか?」


「くっ! なに? この可愛い女の子? あっ、俺の彼女だったわ」


「!? も、もう大げさですよ。私の方が恥ずかしくなってきます。……そ、それでできますか? 私の願いは?」


「お、応よ。そのくらいなら、簡単にで、できらぁ!」


「それでは、お願いします」


「くっ!(無防備に目を閉じて、頭を下げるだけで、なんと言うか衝撃インパクトが強い)」


「……どうしましたか、翔先輩? 先輩には頭ナデナデが高いハードルでしたか」


「挑発してくるなよ。少し待てよ、心の準備が……よし、行くぞ!」


「は、はい。どーん! と来て……ひゃぁ!」


「へ、変な声を出すなよ」


「だ、だって、いきなり先輩の手が私の頭に……暖かい」


(うわぁ、凄い滑らかな髪だ。いつまでも触り続けたいほどに、触り心地が良い!)


「うぅん、なんて言うか。すっごく落ち着きます。癒し効果ですかね?」


「それは、光栄だ(……なんて、カッコつけて言ってみたけど、なんだ? この湧き上がってくる感情は?)」 


しばらく撫で続け、名残惜しそうに翔はあかりの頭から手を離した。


「翔先輩、私は今、衝撃を受けています。こ、これがカップル同士のスキンシップ……通りで世の中のカップルは人前で抱きついたり触れ合ったりするわけですね。想定外の破壊力でした」


「それは俺も同意見だ。いつまで触れ合っていたい。そんな感情だった」


「このまま2人で目指してみますか?」


「目指す? 何をだ?」


「それは、もちろん! 世間でいうバカップルですよ」


 あかりは恥ずかしいそうに言った。

 

 そんなやり取りを続けていると、チャイムが鳴る。


「委員会活動も終わりか。それじゃ帰るか」と翔は立ち上がる。


 しかし――――


「先輩」


「ん、どうした? 手を伸ばして……あぁ、負けず嫌いだな。今度は逆に俺の頭を撫でたいだろ?」


「えぇ(先輩、ごめんなさい。本当は違います)」


「あぁ、少し腰を落として低くした方がいいのか?」


「はい、では行きますよ」


(私が先輩と一緒に入れるのは、放課後だけ。そうじゃないといけない……いつも、いつも……こうやって先輩の記憶を消して……)


「え!? ど、どうしましたか、先輩!? 急に手を掴んで、ふぇふぇ!?」


「あかり……俺は、もう少しお前と……」


「だ、ダメです!(口づけなんで早過ぎます! いえ、ここは放課後の学校。若い2人は暴走して……)」


「ダメなのか、あかり?」


「だ、ダメ……じゃありません。先輩となら、私……このまま学校で朝までワンナイトラブでも構いません!」


「……ワンナイトラブ? いや、ワンナイトラブってなんだ?」


「あ、あれ? そういうセイシティブな展開だったのでは?」


「お前は何を言っているんだ?」


「あれ? あれ?」


「今日、お前の願いを叶えたろ? 俺の願いを言うのを忘れてたと思ってな」


「先輩の願いですか? やっぱり! ここえスケベな事を――――」


「しねぇよ!」


「え? したくないのですか? やっぱり私なんかと……」


「いや、誤解するな。したくないわけじゃなくて……えぇい! 話が続かない!」


「は、はい! 聞きます!」


「あかり……いや、鳥羽あかりさん!」


「ひゃ、ひゃい!」


「2日後の日曜日。俺とデートしよう」


「ひゃい! え!? ええええええええええええ!?」


「どうした? そんなに驚いて、嫌か?」


「め、滅相もございません。ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「はぁ、ビックリしました」とあかりは1人呟いた。


「ビックリしすぎて、先輩の記憶を消すのを忘れてしまいました。先輩……今頃、家に着いている頃でしょうか? はぁ、気づいたら先輩の事を考えてます。こんなに幸せで良いのでしょうか?」


「そうですね。今の貴方は、恋する乙女みたいですね」


「――――誰?」


「誰? 教師ですよ、この学校の教員に過ぎません」


「教師? そのわりに物騒な物を腰に帯びているみたいだけど?」


「これですか? ご安心を、そこら辺に存在している平凡な武器ですよ……霊剣 天羽々斬」


「名前は? 貴方の名前は何かしら?」


「意外ですね、人間の名前を気にするなんて……正道翔くんの影響でしょうか?」


「貴方が……」


「はい?」


「貴方が先輩の名前を軽々しく口にするな!」


「いい表情です。少なくとも、恋心に現を抜かす女子高生を演じている貴方よりも……」


「――――もういい。貴方は、私の日常を……いいえ、私たちの日常を壊しにきたのね」


「そうですね。私の名前は賀茂あすか、先ほど貴方は、こう言いましたよね?


 『こんなに幸せで良いのでしょうか?』


 ――――と?」


「そ、それが何! 貴方に何か関係が―――――」


「良いはずがありませんよ。貴方に、人妖に幸せになる権利などありません。だからここで――――斬る!」


「ブチッン! 怒った。激おこプンプン丸! 人のラブコメを壊そうとする女は狐に化かされればいいのですよ!」





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