第3話 正道翔の日常②
学校、授業の間の休み時間。
「うお、体がだるい」
「どうした、翔? 最近、妙に疲れてるな」
そう話かけてくるのは、悪友でクラスメートの阿久津 海だ。
「なんか、疲れが取れなくて……睡眠も食事もちゃんとしてるはずなんだけど」
「大丈夫か? また急にマイナースポーツにハマって、体を酷似してるとかじゃねぇの?」
「なんだよ、またマイナースポーツって?」
「ほら、お前って隠れて格闘技とかやってそうなタイプじゃん。 例えば……マチャド柔術とか?」
「俺に、そんなスポーティーな設定はない。それにマチャド柔術って突っ込み難いなぁ! 世界のマチャド柔術家に謝れ!」
「マジで調子が悪いみてぇだな。いつものキレが突っ込みにないぜ。ほれ、手を出せよ」
「ん? なんだ、これは?」
「それぞれ、コエンザイムQ10、ロイヤルゼリー、マルチビタミンのサプリメントだ。飲めよ、元気が出るぜ」
「相変わらず、見た目に反した健康オタクだな。助かるよ……あれ? 4種類あるみたいだけど?」
「おうよ! 最後の1つは、マカだ。 こいつを飲むと夜は興奮して眠れなくなっちまう凄いやつだぜ!」
「いらねぇよ!(と言いつつ受けとる)」
「まぁ、冗談はさておき。ヤバそうなら保健室行けよ。1時限目、机に伏せたままだったじゃねぇか。数学の鈴木センコー、怖い顔して睨んでたぜ」
「机には伏せたけど授業は真面目に受けてたからな」
「ほら」と海にノートを見せる。
「うわぁ、黒板を写しただけじゃなく、鈴木センコーの解説まで書き込んでやがる。通りで、鈴木が睨むだけで注意しねぇわけだ」
「まぁ、そこはほら……進学校だからね」
「お、おう……」
阿久津との会話を続けていると
「正道くん、ちょっと」と廊下から声をかけられた。
声の主は担任である賀茂先生。 まだ若く、大学を卒業したばかりの新任教師。
歳が近いからだろうか? 男女問わず生徒には人気の先生。
確か、フルネームは賀茂 あすかだったはず……
「こっちこっち」と手招きされ、誘われるまま廊下に出る。
「どうしましたか賀茂先生?」
「ちょっと、こっちに付いて来て来るかな?」
「えっと、もう数分で次の授業が始まりますよ」
「大丈夫よ、歴史の田中先生には話をつけておいたから」
「話をつけておいたって……。相変わらず行動力がありますね」
「そうやって茶化さない。いいから、ついて来なさい」
「?」と疑問符を浮かべ、ついて行く翔。本人にしてみると
(なんだろう? 本当に心当たりがない……ってここは!)
「せ、先生?」
「なんですか? 早く入って」
「だって、ここは生徒指導室ですよ」
「そうよ、生徒指導室よ。どうしたの、変な反応して……あっ! わかった!」
それから賀茂先生はため息と共に、こう続けた。
「あの噂が原因ね。生徒指導室に連れてこられる教育指導の亀田先生が竹刀を振り回して、筋トレという名前の体罰が行われるって噂」
「本当なんですか? あの噂って」
「そんなわけないでしょ! ここで生徒の進学相談とかにも使うのよ?」
「ん~ それもそうか」と生徒指導室を除く。
「本当にベンチプレスとかランニングマシンとか置いてないみたいですね」
「詳しくは知らなかったけど、そんな変な噂になっていたのね、流石に呆れますね」
生徒指導室は、通常の教室の半分ほどの広さ。半分は、カーテンで仕切られていた。
中にはパイプ椅子と机しかない。 滅多に使われていないはずなのに、妙に良い香りが鼻に届くのは気のせいだろうか?
花の香り? ラベンダーとか芳香剤? よくわからない。
「さぁ、座って」
「はい」と椅子に近づいた時、カーテンの一部が足に纏わりついたみたいで――――
「あっ! あの……今。ランニングマシンみたいな物が部屋の奥に見えたような……」
「正道くん、君は何も見てませんでした。そうですよね?」
「え? いや、それは流石に無理があるかと!」
「知ってますか? ランニングマシンは、元々何のために作られた物なのか?」
「いえ、知りません。何ですか?」
「拷問」
「ひぇ!」
「罪人を拷問するために作られたのが始まりみたいですね、ランニングマシン。それで、君はカーテンの奥で何を見たのかしら?」
「いえ、何も見てません」
「よろしい。早く座りなさい」
「は、はい」と促され腰をかける翔。
「今日、ここに正道翔くんを呼んだ理由としては、最近の貴方の授業態度についてです」
「それは、自覚しています。すいません」
「――――っ。いえ、正道くん。私は謝ってほしくて呼んだわけじゃないの。君の生活に何か問題があるなら、教師として私は解決したくて呼んだのよ」
「あ……でも、その……生活に問題があるわけじゃなくて、どうも最近、疲れやすくなってるみたいでして」
「それは病院で見てもらったの?」
「いや、それは大げさかと……」
「ダメよ。疲労が残る。倦怠感が続く。これは何か病気のサインかもしれないでしょ? まして、日常生活に問題が起きているならなおさらよ」
「それは、そうかもしれませんね」と翔は素直に頷いた。
「調子が悪いのなら早退しても良いのよ? 家に連絡して迎えきて貰っても構わないわ」
「それは……」と翔は視線を外して宙を見た。
病気かもしれないという賀茂先生の言葉に納得はしたが、それでもどこか、大げさだなという気持ちは残っていたのだ。
「そう……良いわ。 そろそろ、薬も効いてくる頃合いね。本題には入りましょう」
「え?」
急に賀茂あすかの雰囲気が変わった。
(なぜだろう? あっ、いつの間にか眼鏡を外していたから?)
賀茂先生は眼鏡を外し裸眼で、翔の眼を見ていた。
まるで催眠術のように、意識が混濁していく。
(一体、何が……先生の眼。あれ? 黒目が金色に? そんなバカな)
だが、翔はそれ以上、考える事ができなくなった。
「いいかしら? 正道くん、正道翔くん? 聞こえている」
「……はい」
「早速だけど、貴方は鳥羽あかりという存在を認識しているのかしら?」
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