コーヒー王女とティー少女

火星七乙

プロローグ

「それならば、よりコーヒーか紅茶に合うを用意した方を採用するとしよう」


 国王の御前には美しい少女が二人並んでいる。


 一人は、この国の王族の証である高貴な紫の瞳と、磁器のように艶やかな黒髪を持ち、真紅の生地に金糸の刺繍が施された見事なドレスに身を包む、齢十六の王女である。


 もう一人は、ペリドットの瞳と、透けるほど明るい金髪を持った齢十四の少女だ。彼女は異国の美しさを放っていたが、装いには少々違和があった。

 高級な淡いブルーの生地と繊細なレースをふんだんに使ったドレスの上に、給仕用のエプロンがかかっていることから、彼女が貴人とも使用人とも言えぬ「特別な立ち位置の存在」であることが分かる。


「食事……ですか? お菓子や軽食ではなく?」


 黒髪の王女も金髪の少女も驚いた様子だったが、口を開いたのは身分の高い王女の方だ。

 一方、金髪の少女は、意図を考えながらも静かに、身分相応に国王の次の言葉を待っていた。


 この国では食事中の飲み物は水かワインが一般的で、コーヒーや紅茶はコーヒーブレイクやティータイムとして、きちんとした食事とは別の時間帯に菓子と一緒に嗜まれる。近年ではサンドウィッチなどの軽食が合わせられることもあるが、国王の意図はこれではないだろう。


「そうだ。コーヒーと紅茶は嗜好品であるから優劣はなく、それは好みの問題になる。しかし、どちらかが食事中にも飲めるようになれば、汎用性の点でその方がより勝っていると考えた。よって、コーヒーに合わせた料理の方が優れていればコーヒーを、紅茶に合わせた料理の方が優れていれば紅茶を、次の国賓に出すことにしたい」


 次の国賓、というのは、国交を結んでいる最中の西の国の貴人のことである。


「食前でも食後でもなく、『食事中』に飲むことを想定してもらいたい。明日の正午にお披露目、ということでどうだ。すぐに思いつくだろう?」


 国王は、少女らが言葉も視線も交わさない様子を見て、苦笑いした。


「——ああ、コースにする必要はないぞ。メインディッシュ相当の一品でよい。二種類食すのに、途中で満腹になっては勝負にならんからな」


 これは、「お前たちが作った料理なら、残さず食べるに決まっている」という意味である。

 気さくで大食らいの、王女に似た顔立ちの初老の国王は、悪戯っぽく目を細めて顔を揺らして笑って見せたが、王女も少女もかつてのように笑い返すことはなく、国王との関係に反して気詰まりした様子だ。


 国王は片方の眉と両の肩を大袈裟に上げて、ふう、と息を吐いた。

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