五芒星城塞の秘宝(エミリア)

「力を貸してほしい」


 と、アマンダさんが、あたしたちに頭を下げた。


「どんなクエストなのですか? 解呪が必要になるんですね」


 あたしが聞くと、アマンダさんはうなずき、


「そうだ。……わたしたちの目的は、五芒星城塞だ。あそこの隠し部屋をさがす」

五芒星ペンタゴーノンか……しかし、本当にあるのかね、まだ手つかずの部屋なんてものが?」


 サバンさんが、首をひねる。


「ただの噂だろう、それは?」


 かつて、エルランディアの外れにそびえ立っていた、難攻不落の五芒星城塞。

 代々の辺境伯がそこに住まい、強大な権力をふるい、栄華をきわめた。

 そこには、異境の地から、戦果として、交易品として、あるいは貢ぎ物として、数多くの財宝が集められていたという。

 でも、歴史の中では、永続する権勢などなくて。

 ついに落城の時が来て、城内になだれこんだ敵に、貴重な宝物は片端から略奪されたそうだ。

 そこから長い年月が過ぎ、今、城砦は荒れ果て、人のいない廃墟となっている。

 危険な魔物も多く跳梁し、五芒星城塞の廃墟は、ダンジョンと同等の剣呑な存在と化しているのだ。

 しかし、落城以来今日にいたるまで、「城砦には、略奪をまぬかれた手つかずの隠し部屋があり、そこにとんでもないお宝が眠っている」との噂が、とだえることがなかった。

 もちろん、噂にひきつけられた幾多の冒険者たちが探索を行ってきた。

 あるものは命を落とし、あるものは得るものなく虚しく引き上げ…。

 けっきょく、噂通りのお宝を発見したものは、これまでただ一人もないのだ。

 それでも、我こそは、と一獲千金を狙う冒険者は常に絶えなかった。


「なにしろ、城砦が落城してから数百年……徹底的に調べられたんだ。いまさら、見つかるのかな?」


 サバンさんは懐疑的だ。


「隠し部屋は、存在するよ」


 そういったのは、ケイトリンさんだ。

 自信ありげに、断言した。


「どうして、そう言えるんだ? なにか証拠でも?」

「それは……」


 問い返され、ケイトリンさんは口ごもる。


「今は話せないが、わたしたちは、ある情報をつかんでいる」


 アマンダさんが話をひきとって、言った。


「偶然手に入った情報だが、信憑性は高いと思う。そして、その内容から、このクエストには解呪の魔法が必須だと判断している」

「ふうむ……ということは、お宝には呪いが関係しているわけだ、それもかなり強力なやつが」


 サバンさんは顎をこすっていった。


「ヒェッ!」


 呪いと聞いて、アーネストがおびえた顔をしている。

 あんたね、さっき全身に呪いを浴びておいて、いまさらなんなんだ。


「なるほどね。……これはひょっとすると?」

「エミリア」


 と、アマンダさんが、あたしをまっすぐに見て、言った。


「来てくれないだろうか? 戦闘では、わたしたちが全力を挙げて、あなたを守る。エミリアは、解呪の魔法に集中してくれればいい。もちろん、クエストだから危険が全くないとはいえないけれど……」

「ちょっと、なかまと話し合っていいですか」

「もちろんだ。話し合って納得したうえで、参加してもらえればよい」


 あたしたちは、部屋の隅で、かたまって相談をする。

 あたしは、「暁の刃」の仲間の顔を、じゅんばんに見た。

 アーネスト、ヌーナン、パルノフ。

 故郷を出てから、ずっといっしょにやってきた仲間だ。

 みんなも、あたしを見ている。

 あたしは、三人に言った。


「みんな、あたしは、やっぱり、やってみようと思う」

「エミリア?」


 アーネストが、心細そうな顔で言った。


「これからの『暁の刃』のためにも、いい経験になると思うんだ」

「そ、そうか?」

「それに……」


 あたしは、アマンダさんたちのほうに視線をやった。


「なんだか、あの人たち、すごく切羽詰まってるみたい。きっとなにか事情があるんだよ」

「エミリア……お前って、いいやつだな」


 アーネストが言う。


「わかったよ……エミリア。でも、無理はするなよ」

「うん……」

「危なくなったら、すぐに逃げて来いよ」

「まあ、アーネストといっしょにいるより、あっちのほうがよっぽど安全かもな」


 と、ヌーナン。


「なんだよそれは」

「お前、自覚無いのかよ」


 とパルノフ。


「確かに、信じがたい災厄を呼び寄せる、どこかのフラグ男と行動を共にするよりはなあ……」

「おいっ、だからその言い方!」


 ああ、これが、わが愛すべき「暁の刃」である。


 あたしは、「白銀の翼」に向きなおって、言った。


「みなさん、わたし、参加させていただきます。わたしに、どれくらいのことができるか、わからないけれど……」


 アマンダさん、アナベルさん、そしてケイトリンさんの顔が、ぱっと輝いた。


「ありがとう、エミリア、ありがとう!」


 こうしてあたしは、「白銀の翼」の雇われ魔導師として、五芒星城塞ペンタゴーノンに向かうことになったのです。

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