一気に百はやりすぎたか?

 第十階層の中ボスは、イフリートでした。

 もうイフリートが出てくるのか、とふたりでため息をつきます。

 地図にはサラマンダーの群れとありましたから、迷宮大変動があったのでしょう。

 もう地図はアテになりませんね。


 イフリート自体は問題なく倒せました。

 手を繋いで、転移魔法陣に乗ります。


「おい、戻ってきたぞ!!」

「よくも俺たちをコケにしてくれたな!!」

「私たち、このふたりに殺されかけたのよ!!」


 あー、そういえばこの六人のことを忘れてましたよ。

 無事に地上に戻ったようですが、……転移魔法陣のある部屋の入り口に陣取っています。

 邪魔ですね。


「まだ何か用ですか?」


「お前ら、俺たちのことを散々コケにしやがって。こちらは金ランクだぞ?」


「それが何か?」


「おいみんな!! こいつらが悪質な冒険者だ。俺たちが戦っていたヒドラを横取りしたり、迷宮内で俺たちに襲いかかってきた極悪人だ!!」


 ないことないこと吹いて回る六人。

 あー、これはいい加減にキレそうですね。


 でも衆人環視の前で始末するのは悪手です。

 私はミアラッハの手をとって、迷宮帰還しました。


 いつでもどこからでも帝国に戻れる転移スキル、便利ですねえ。


 しかし次、あの街へ行ったときが心配です。

 風評被害、ありそうですよね。

 どうしたものか……。


 冒険者ギルドで素材を売り払います。

 イフリート迷宮の深部で取れるような素材がザクザクあって、冒険者ギルドの職員は嬉しい悲鳴を上げてました。


 城に入ると、執事のセバスチャンが「来客がありましたので、客間にお通ししてあります」とのこと。


「誰でしょう?」


「ミアラッハ様の祖父を名乗っておられました」


「え? ブライナー辺境伯!?」


 ミアラッハが「嘘、お祖父様!?」と驚いています。

 まあ国境から近いので、来ることは難しくはありません。


 私たちは〈クレンリネス〉してから、客間に向かいました。


「おお、ミアラッハ!! それにクライニア。久しぶりだな!!」


「お祖父様!!」


 ミアラッハが辺境伯の胸に飛び込みます。

 本当に来ちゃったんですね。


「ご無沙汰しています、ブライナー辺境伯」


「うむ。ああ、そうそうブライナー辺境伯の地位は今、ミアラッハの父親に譲った。だから今の私はただのロンダール・ブライナーだ」


「それではブライナー前辺境伯。どうしてこのようなところへ?」


「いやなに。クライニア帝国なる国がキウス王国内にできたと聞いてね。気になっていたんだよ。どうやら君が興した国で、しかも迷宮内にあるというじゃないか。好奇心もあったし、久々にミアラッハの顔を見に行くのも悪くないかとおもってね。今の私はただのロンダール・ブライナーであることだし」


「はあ、なるほど」


「護衛を雇って来たんだが。君たちとも顔見知りらしい」


「え?」


 客間の奥から、ローレッタたちのパーティが出てきました。


「ローレッタさんが護衛なんですね」


「そうさ。冒険者ギルドにクライニア帝国までの護衛依頼が出ていてね。金ランク用の依頼だったから私たちが受けるしかなかったわけさ」


「なるほど」


 今日は金ランク冒険者によく会う日ですね。


「……皆さんをクライニア帝国は歓迎します。ゆっくりしていってくださいね」


「ああ。それにしても本当にクライニアが皇帝なんだな」


「そうですね。国境の街から移住してくる人が多くて段々と国らしくなってきました」


 ローレッタが苦い顔で「そのおかげでウチらも苦労しているよ」と呟きました。


「そうですね、冒険者が拠点を移していると聞いています。そのうち国境の街の依頼をこちらで取り扱うのも悪くないかなあと。冒険者ギルド同士の連携ですね」


「そうなったら、いよいよ私らも拠点をクライニア帝国に移すことになりそうだ」


「ローレッタさんたちなら歓迎しますよ」


 その日の夕食はちょっと豪勢にしてもらいました。

 蒸留酒を出したら、前辺境伯は「これこれ!!」と興奮したようにまくしたてます。


「ウチの領内に少量、入ってきたんだ。ここの名産品なんだろう?」


「そうですよ。ウチで作っている酒です」


「正直、もっと欲しい。増産できないかい?」


「増産ですか……これでもハイペースで作っているんですけどね」


 〈プラントグロウ〉で葡萄をハイペースで収穫して、ワインに仕込み、蒸留してブランデーにする過程は、だいたい一ヶ月程度かかります。

 常に〈プラントグロウ〉で葡萄を収穫できるため、一ヶ月の内訳はほとんど醸造の期間ですね。

 すべてを放出しているわけではなく、樽で寝かせるブランデーもあります。

 樽で寝かせているものは数年がかりですから、今はまだ誰の口にも入っていません。

 味も素っ気もない樽で寝かせていない蒸留酒に混ぜものをしたものを果たしてブランデーと呼んでいいのかはまた別問題ですが……。


 ネックになるのは蒸留器の数でしょう。

 葡萄畑と働き手はいくらでもDPで増やせますからね。

 師匠に蒸留器を発注しましょう。


「分かりました、早めに増産できるようにします」


「ありがたい。このブランデーというのは、ワインと何が違うんだい?」


「それは秘密ですよ」


「そうか……」


 本気で残念がってますね。

 私とミアラッハは酒には拘りがないので、その苦悩を理解できません。

 ちなみに前世の私はいわゆるストロング系缶酎ハイを愛飲してましたね。

 ホストに貢いでいた時代はシャンパンを飲んでましたけど。


 前世には良くない思い出が多いので、思い出すのはこのくらいにしましょう。


 さてせっかく前辺境伯がやって来ているので、明日は休日にしましょう。

 ブランデーの増産のために師匠のもとへ久々に向かう必要もありますしね。


 * * *


 ダンジョンマスターを鍛えるため、第三階層にやって来ました。

 オーガ先生とニンフを相手取りますが、正直なところ刺激が足りません。

 もうちょっと強くしてみるか?

 DPとしてはかなりの投資になりますが、長い目で見ればプラスになることでしょう。

 ミアラッハも利用することですしね。

 ランサー80レベル、グングニル80レベルに上昇させます。

 ささ、どれだけ強くなったか確かめてみましょう!!


 オーガ先生は確実に強くなりましたけど、槍技と槍術だけでは物足りないのは確かです。

 しかしこれ以上、強くするとミアラッハが困りそうなので、このくらいにしときましょう。

 一晩中、経験値稼ぎに勤しみました。


 さてダンジョンマスターのレベルは?

 ようやく80になりましたよ。

 オーガ先生のレベルを上げたので効率が上がったかと思えば、そうでもないですね。

 やっぱり戦闘経験としては薄いのかなあ。


 なにはともあれスキルがひとつ増えました。

 新しいスキルは?

 【迷宮介入】です。

 このスキルは支配下にない迷宮にも、私の迷宮のDPを使って設定に介入できるようになるというとんでもないものです。

 なんでもアリですね、ダンジョンマスター。


《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス ダンジョンマスター レベル 80

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【ルテイニア地方語】【算術】

     【礼儀作法】【宮廷語】【全属性魔法】【闘気法】【真闘気法】

     【聖闘気】【練気】【仙術】【呪歌】【魔曲】【舞踏】【馬術】

     【騎乗】【人馬一体】【錬金術】【魔法付与】【鍛冶】【量産】

     【人形使役】【剣技】【剣術】【葬剣】【剣理】【槍技】【槍術】

     【葬槍】【鎚技】【二刀流】【多刀流】【武器伸長】【霊鎧】【聖殻】

     【素手格闘】【投げ】【関節技】【格闘術】【回避】【対人戦闘】

     【後の先】【魔法斬り】【鎧貫き】【突撃】【気配察知】【罠感知】

     【罠設置】【魔力制御】【魔法範囲拡大】【魔法収束】

     【魔力自動回復】【同時発動】【多重魔力腕】【消費魔力軽減】

     【多重詠唱】【無詠唱】【魔法武器化】【魔力強化】【怪力】【宗匠】

     【俊足】【跳躍】【魅力】【気品】【美声】【カリスマ】【威厳】

     【獅子心】【幸運】【夜目】【鷹の目】【夜の王】【毒無効】

     【不眠不休】【誘惑】【威圧】【畏怖】【指揮】【鼓舞】【福音】

     【光輪】【光翼】【飛翔】【創世神信仰】【シャルセアとの絆】

     【ルマニールとの絆】【ヨルガリアとの絆】【アルマルドとの絆】

     【小型召喚】【騎獣強化】【迷宮管理】【迷宮帰還】【迷宮の申し子】

     【迷宮外設置】【迷宮介入】【経験値20倍】【熟練度20倍】

     【転職】》


 引き続き、ダンジョンマスターを伸ばしますよ。


 翌朝、朝食を前辺境伯と摂ったら、ミアラッハはつもる話もあるでしょうから城に置いていきます。

 さてまずは師匠のところへ行って、蒸留器の増産をお願いしましょう。

 倍じゃきかないと思うので、一気に二十台ほど発注することにします。


「お久しぶりです、師匠」


「うん? クライニアか。久しぶりじゃな」


「今日は師匠にお願いがあって来ました」


「ほう。なんじゃ?」


「蒸留器をあと二十、作って欲しいんです」


「二十か……まあいいがのう。最近はブランデーが食事処で売り切れになることが多いくてなかなか飲む機会がなくなっておったところじゃ」


「そうだったんですね。キウス王国と国境を接しているミステイン王国にも輸出されているらしいんですよね」


「行商人が樽で買っていくからのう。近隣での消費に留まっておるうちはあと二十台でいいかもしれんが、需要を見込めば百あっても足りぬぞ」


「そうですねえ。じゃあ師匠たちには九十台を発注します。硅砂は後ほど届けますから、グラスワーカーになってください」


「分かったわい。しかし報酬はないのか?」


「んー。それでは師匠にはオリハルコンのインゴットとヒヒイロカネのインゴットをひとつずつでいかがでしょうか。ヒルダさんにはまた別途、訊いておきます」


「オリハルコンとヒヒイロカネか……よし承った」


 DPから出せるので、大した出費じゃないですね。

 それより蒸留所を拡大しなければ。

 いや、もう台数を考えると第一階層に設置するのは技術流出が怖いですね。

 第二階層に蒸留所を移して、全部そっちでやれるようにしましょう。


 第二階層の空間を拡張して、葡萄畑と蒸留所を設置します。

 アルラウネのスポーンを『100/100』に増やし、レイスのレイコにスケルトンの増産を頼みました。


 これで葡萄畑はよし。

 第一階層の蒸留器と人員を移動する。

 宿舎も必要だ。

 ワーキャットのスポーンを『100/100』にする。

 当面は仕事がないだろうけど、先任の十人から仕事内容を教わったりする必要があるから今のうちに準備しておくことが必要だ。

 宿舎のケットシーも『5/5』に増やしておいた。


 ……こうなってくると、帝国の食料自給率が気になる。

 豚と鶏のスポーンを『20/20』にして、小麦畑と野菜畑を拡張した。

 DPをかなり消費したけど、これは必要な出費だ。

 幸い、スポーン以外は戦闘に絡まない使用なので、比較的安い。

 だがここまで大規模だと、それなりの額の出費になったけど。


 他にも細々と樽を増やしたりする。

 ああ、温度計が九十個必要なのか……。

 これは今のうちからコツコツ〈ジェネレイト〉しなければならないだろう。


 一気に百はやりすぎたか?

 いやでも師匠の言う通り、百でも数が足りるとは思えないのだ。

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