つつがなく晩餐会が終了した。

 シャドウストーカーのルマニールが、つついてきて目を覚まします。

 日が暮れかけていますね、結構、眠れたらしいです。


 気配察知に感あり。

 どうやらメイドさんたちがやって来たらしいです。


「クライニア皇帝陛下。晩餐の前にドレスにお召し物を変えていただきたいのですが」


「はい。今、出しますね」


 〈ストレージ〉からドレスを一着、出しました。

 ついでに王冠も出しておきます。


 メイドたちに身を任せて、着替えさせてもらいました。

 脱いだ装備はすべて〈ストレージ〉に仕舞います。


「それでは、晩餐のご用意ができつつありますので、ご案内します」


「よろしく」


 城の奥まった方へと案内されます。

 キウス国王が王族と側近を席につかせて待っていました。


「クライニア皇帝陛下がお越しになられました」


「うむ。ご苦労。下がっても良いぞ」


 メイドさんたちが下がります。

 国王とは長いテーブルを挟んで対面に座ります。


「初めまして、クライニア皇帝。私がキウス王国国王、ジルベリク・キウスである」


「初めまして、ジルベリク国王。私がクライニア帝国皇帝、クライニアです」


「聞きしに勝る美少女であるな。若く、美しい。そなたが騎士たちを鏖殺したとは……想像もつかん」


「先日、イフリート迷宮を攻略しました。強さには自信がありますよ」


 ざわ、と王族と側近たちが困惑の表情になります。

 あれ、強さアピールは不要だったかな?


「い、イフリート迷宮を攻略した、と。我が国屈指の難易度を誇る迷宮であるのだが……」


「そうですね。まあまあ難易度は高かったです」


「まあまあ……?」


 オーガ先生たちに比べたらヌルいものでしたよ。


「迷宮に国を興すくらいだから、歴史に名を残す強さも備えている、ということか」


 なんと返答すればいいのか分からないので、笑顔で小首をかしげます。


「いやはや、騎士団を派遣したのは我が国の間違いであった。今日は以前の過ちを水に流し、貴国と友好条約を結べればと思う」


「ええ。領内で勝手に国を興したのですもの。手違いは仕方のないことですわ、ジルベリク国王」


「う、うむ。では食事を始めよう」


 その言葉を合図に、扉が開かれて前菜の数々が運ばれてきます。

 どうやらコース料理のようですね。


「クライニア帝国では、外務卿が食事の美味さに言及していたな」


「は。帝国の食文化は我が王城の料理とくらべても遜色がありませんでした」


 ライアン外務卿が発言した。


「新興の国としては驚くべきことよ。我が国の歴史ある料理に比肩しうるというのだからな。末恐ろしいわ」


「食事には力を入れていますからね」


「……うむ、皿は行き渡ったな。では神々に祈りを捧げて、頂くとしよう」


 めいめいに信仰している神に祈り、前菜を食べ始めます。


 私も前菜にフォークを刺して、一口。

 うんうん、まあ美味しい方だよね。

 さすが王族が口にするものだ。

 我が帝国とそう遜色のない出来の料理である。


 その後はライアン外務卿が帝国を見物した話を中心に、いかに帝国が強大な軍事力を保有し、発展の途上にあるかを語ってみせた。

 多分、帝国の国力を王族や側近たちと共有して、変な行動を取らないように釘をさしてくれたのだろう。

 特に街を巡回していたオーガ兵の礼儀正しさには、「人間と変わらない」とまで評してくれた。


「ほう、オーガの兵士か。魔物を兵士とするとは、さすが迷宮の帝国か」


「オーガ兵は100体を交代勤務させていますね」


「ひゃ、100体……」


 ジルベリク国王をはじめとした面々が驚愕に固まります。

 オーガといえば、騎士数名で戦う魔物ですから、それが100体もいるといえば、数百の騎士に相当するのは自明の理。

 でもたかだか普通のオーガですよ?

 もちろんシャルセアが鍛えているので、そんじょそこらのオーガより強いはずですが。


 食事は時折、国王たちが帝国の内情に驚く形で進んでいきました。


 * * *


 つつがなく晩餐会が終了した。

 私はドレスからいつもの装備に着替えて、――暇を持て余していた。

 なにせ不眠不休がある。

 夜中に楽器を鳴らすのは駄目だろうし、困った。

 寝るのはなんだかもったいない時間の使い方に思えてしまう辺り、スキルに毒されえいるなあと思う。


 気配察知によれば、見張りはない。

 メイドが外で控えているくらいだ。

 私はもういっそ帝国に戻って、ミアラッハの様子を見ることに決めた。

 早朝に戻れば問題あるまい。


 イフリート迷宮の近くにある〈ディメンションゲート〉の転移ポイントを、ここに設置する。

 これで王城の客間と帝国前とが繋がった。

 〈ディメンションゲート〉を発動します。

 グワン、と開いたゲートをくぐって、帝国前へ。

 数日ぶりの我が国だ。

 お、宿屋と酒場ができあがっている。

 営業もしているらしい。

 嬉しいね。


 城に入る。

 ミアラッハはこの時間だと、眠っているだろうか。

 寝室に向かうと、ベッドは空だ。

 もしやと思い、第三階層に転移する。


 キィン!


 魔槍が鋼の槍と打ち合う音。

 ああ、夜ふかしして修行してますね。

 ミアラッハはオーガ先生のひとりと模擬戦の最中でした。

 見学しているニンフに声をかけます。


「ミアラッハ、怪我とかしてない?」


「今の所は怪我はしていません、マスター」


「そっかそっか。それは何より」


 ミアラッハの動きが随分と良くなっている。

 オーガ先生とほとんど互角の戦いを繰り広げていた。

 濃密な戦いの時間。

 結果は、ミアラッハの勝ちだ。


「お疲れ様、ミアラッハ。よくぞそこまで成長したね」


「クライニア!? もう帰ってきたの?」


「いや。暇だから客間に〈ディメンションゲート〉の転移ポイントを設置して様子を見に来たの。駄目でしょ、夜ふかししてたら」


「だって……どんどん強くなるのが嬉しくって。それに疲れてもニンフに〈スタミナ〉をかけてもらえるし……つい」


「なるほどね。でももう夜だし、ミアラッハは休むといいよ」


「ねえクライニア。私、凄く強くなったんだよ? でもクライニアは剣だけでここのオーガ三体を相手にできるんでしょ。一度、私と打ち合ってもらえないかな」


「えー……どうしようかなあ」


「お願い。それが終わったら、今日はもう休むから」


「仕方ないなあ」


 〈ストレージ〉から剣を抜きます。

 ミアラッハとこうして向き合うのは初めてですね。


 両者が構えたところで、オーガ先生が「始め!」と合図をくれました。


 ミアラッハが空歩と縮地で一気に距離を詰めてきます。

 こちらも真闘気法と聖闘気をまとい、ミアラッハの突きを受け流しました。

 アダマンタイトの魔法の剣ですが、ミアラッハの魔槍をまともに受けると刃こぼれしそうですね。

 受け流し損ねると厄介なので、回避に専念しましょう。


 間合いの出入りを繰り返しながら、ミアラッハは「〈さみだれ〉!」と槍術を繰り出してきました。

 仙術〈縮地〉で後退して回避します。

 〈さみだれ〉の終わり際に、間合いを詰めに行きますが、これを縮地で後退して逃れるミアラッハ。

 光翼を出し、仙術〈縮地〉で追いかけます。

 〈空牙〉を放ってミアラッハの槍を跳ね上げて、間合いの内側へ。

 首筋に剣をピタリとつけて、私の勝利です。


「……っ、参りました」


「うん。というかかなり強くなってて驚きだった」


「近接戦闘で、魔法なしのクライニアに勝てないのか……」


「あー。私はほら、スキルとレベルがたくさんなので」


「でも! それじゃあ私が前衛を務める意味がないじゃない! もっと強くなりたい!」


 あちゃあ。

 ミアラッハが拗ねてしまいましたよ?


「ミアラッハはよく頑張っています。私ひとりで迷宮に潜れとでも? 私たち、パーティでしょ」


「でも……私、クライニアの足を引っ張りたくない」


「十分に強くなってます。今のミアラッハが本気を出したら、オーガ先生三体を倒せるのでは?」


「うん。何度か試してる。縮地と空歩を駆使すれば、なんとかなってはいる。でもまだ足りない」


「え、オーガ先生三体を倒せるのに、何が不満なんですか? この世界広しといえど、オーガ先生を三体同時に相手をして勝てる前衛なんて、そうそういませんよ」


「でも! クライニアは剣技だけでオーガ三体を倒せるんでしょ? やっぱり差があるよ」


「そりゃ……聖闘気とかもありますから、私だって純粋に剣技だけというわけじゃないです」


「……そっか。でもやっぱり悔しい」


「その悔しさをバネにして、明日も修行してください。もっと強くなれるよ、ミアラッハなら」


「うん……ありがとう。今日はもう休むね」


 ミアラッハは転移魔法陣でリビングルームに戻っていきました。


 さてオーガ先生と修行の時間ですよ。

 スカウトのままだけど、レベルを上げておきましょう。

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