宿屋と食事処は大盛況のようですね。
城から外に出て、師匠のもとに向かおうとすると、扉付近に変化があることに気づいた。
目抜き通り沿いに、粗末ながら小屋が建っていた。
どうやら街の建築ギルドがやって来たらしい。
これで家屋などが増えるか。
しかし好き勝手に土地を使われるのは困る。
都市計画というものがあるのだ。
釘を差しておくため、仮設建築ギルドらしき建物にお邪魔する。
「こんにちは」
「あ、はい。こんにちは。もしかして、皇帝陛下であらせられますか?」
「そうです。ここは建築ギルドですか?」
「そうです。家屋や宿屋の建築依頼があったものですから……」
「それは構いません。ただ目抜き通りには商店を並べたいと思っているので、できれば家屋はそこを避けてもらえるとありがたいですね。井戸はこちらで設置できるので、住宅街を作るのがいいと思います。城のヨルガリアに相談してもらえると、助かります」
「なるほど。了解しました。ギルドマスターや大工に通達しておきます」
「ヨルガリアを呼びますね」
「え?」
私はヨルガリアを召喚した。
「マスター。何か御用でしたか?」
「うん。建築ギルドができたから、都市計画について相談して欲しい」
「なるほど。好き勝手に土地を使われてはたまりませんからな」
「土地代も税金も不要だけど、その分、都市計画には従ってもらいたい」
「ふむふむ。マスターの理想的な帝国建設のため、このヨルガリアの叡智をもって建築ギルドと打ち合わせを行いましょう」
いきなりアンデッドが現れて、建築ギルドの人がびっくりしている。
そしておずおずと「あの、土地代と税金がかからないのは本当ですか?」と問うてきた。
「今のところ、取る予定はありません。ただし大きな建物を建築する場合は必ず相談するように。税金は取らないけど、土地は有限ですから」
人が増えれば、DP収入がある。
税金の取り立ては面倒な作業なので、簡略化のため撤廃することに決めていた。
増えたDPで第一階層を広くしていく予定なのだ。
この基本方針はヨルガリアとシャルセアとも共有してある。
ヨルガリアは優秀なので、私の意図を汲み取っていいように計らってくれることだろう。
私はこの場をヨルガリアに任せて、師匠のもとへ向かった。
鋼の剣を打ちまくる。
ブラックスミスがレベル40になったので、変化があるかとも思ったが、特に魔法の武器が打てるようにはなっていない。
レベル50になったら変化があるのだろうか?
まったく不明なので、とにかく数を打つ。
打っている途中で、妙な感覚に襲われた。
熱せられた鋼のインゴットのどこを叩けばいいのか、手に取るように分かる。
気がつけば、輝きの異なる鋼の剣を打ち終えていた。
二本目の真打ちだ。
「師匠、真打ちが打てました」
「ほう? 二本目か。なかなか打てるものじゃないぞ。どうじゃ、何か感覚に変化はあったか?」
「ええ。手にとるようにどこを打てばいいのか分かる気がしました」
「その感覚は大事じゃな。よく覚えておくと良い」
「そうですね。再現できるように頑張ります」
「あー、自在に再現できるとは思わない方が良いぞ。わしも真打ちが毎回、打てるわけじゃないからのう」
「そうなのですか」
とすると幸運スキルあたりが仕事をしている可能性も高いですかね。
確か、初めて真打ちを打ったのは、幸運スキル習得後だったはず。
その日はたっぷりと鍛冶をしてから、城に戻った。
ミアラッハは完成している駒の色塗りに夢中だ。
そろそろ棚の上にならんでいる駒が溢れそうなので、駒を飾れるガラスケースを設置してあげた。
「飾るほどのものじゃないと思うけど……」
「いやあ、よくできてるよ。それにこれ以上、作るんならやっぱ飾る場所が必要だよ」
「そうね。作りすぎているのは否めないわ」
色を塗り終えた駒は、ガラスケースに収められることになった。
* * *
今日はイフリート迷宮の攻略だ。
第三十階層からのスタート。
いつも通り〈ディメンションゲート〉でイフリート迷宮の近くに転移する。
迷宮に向けて歩いていくと、ローレッタたちのパーティがいた。
「おはようございます。これから潜るところですか?」
「おはよう、クライニア。私たちはこれから街に戻るところさ」
「あれ、じゃあ前に会ったときからずっと迷宮に?」
「そうだよ。そのくらい潜らないと、割りに合わない仕事になるからね」
「仕事……依頼で潜っていたんですか」
「ああ。言ってなかったっけか。第五十階層まで潜る依頼でね。遭遇する魔物を片っ端から倒しては剥ぎ取り、野営しながらのんびりと迷宮の魔物を減らす依頼だったんだよ」
「第五十一階層以降には潜らないでいいんですか?」
「ああ。第五十階層が私たちの限界でね。第五十五階層の中ボスには歯が立たないと見て、撤退しているんだ」
「ええと第五十五階層の中ボスというと……」
「ヒドラだよ」
「ああ、なるほど。あれでもローレッタさんは火属性魔法が得意なんじゃなかったでしたっけ。確か“火蜥蜴”……」
「私はね。でも他に火属性か炎属性の使い手がいないから、魔力がもたないんだよ」
「なるほど、それは確かに厳しいですね」
「そんなわけで、第五十五階層は諦めてるんだが……クライニア。ふたりでヒドラを倒せるのかい?」
「多分、大丈夫ですね」
「そいつは凄いねえ……」
首の再生はたしかに厄介だが、再生には限度がある。
別に火魔法や炎魔法がなくても、倒そうと思えば倒せるのだ。
かなり強引だけど、首を瞬殺できる私たちの攻撃力ならば、再生させて押し切ってしまう方が結果的に楽だと見ている。
「まあ私たちは私たちの限界を知っているからね。第五十階層で戻ってきたわけさ。それじゃあ私らはこれで」
「ええ、お疲れさまでした」
私たちはイフリート迷宮に入ります。
特に苦戦するような相手とは遭遇しませんでしたね。
無事に第四十階層を突破して、帰還しました。
冒険者ギルドで迷宮品と素材を売却します。
現金がダブついていますが、DPで大抵のものが出せる今、所持金は貯まる一方ですね。
仮設住居が幾つか建っています。
建築ギルドの大工が頑張ってくれているのでしょう。
野営していた冒険者たちは、もういません。
宿屋と食事処は大盛況のようですね。
食事処がちゃんと回っているか覗いてから、城に戻りました。
ヨルガリアが用事があるとの伝言をオーク兵から受け取り、皇帝の執務室に向かいます。
「ヨルガリア、何か用事でしたか?」
「マスター。住居が増えてきたので、井戸の設置をお願いしたいのです」
「ああ、なるほど。それは必要ですね。どこに設置しましょうか」
「いまのところ三箇所を考えております。ただ後日、また増えるかもしれませんが」
「そんなに住居の需要があるの?」
「今日も冒険者が何パーティかやって来ました。宿屋が一杯なので、必然的に仮設住居に住まうことになるのです。幾つかのパーティでひとつの住居を借り切っているところが多いですな」
そりゃ野営は嫌だよね。
かと言って、ここで私が宿屋を増築するのも違うと思う。
「ふむ……まあ当分は建築ギルドに儲けさせておけばいいかな」
というわけで、ヨルガリアとともに井戸の設置に向かう。
どうやら食事処でテイクアウトして仮設住居で食事を取っているみたい。
食事処は一見して回っているように見えたけど、もしかしたら人手を増やした方がいいかもしれないね。
井戸を設置してから、食事処に寄る。
ラミカが忙しそうに料理をしている。
話しかけるのも憚られる感じだ。
給仕のサキュバスも交代で厨房に立っていた。
「ラミカ。従業員、増やした方がいい?」
「マスター。お願いします。料理のテイクアウトで行列ができたんですよ。結構、お待たせしてしまって……」
「そっか。じゃあ給仕のサキュバスを増やすよ」
「ありがとうございます」
サキュバスのスポーンは『5/5』だ。
これを一気に『10/10』に増やす。
ついでに食事処の厨房スペースを増築して、テイクアウト用の窓口を作った。
これで行列ができても、店の裏だから邪魔にならないはず。
お酒の在庫も順調に減っているようなので、多めに補充しておいた。
食材も足りていないようだが、それは増えたサキュバスを大商店に走らせればいいだろう。
「テイクアウトは裏手で対応できるようにしたから」
「厨房も広げてくださったのですね。ありがたいです」
「住居はともかく、食事が足りないのはマズいからね」
とりあえず当面はこれで大丈夫だろう。
食材の消費も激しいから、第二階層のスケルトン農場の様子も確認しに行く。
レイスのレイコによると、やっぱり野菜が不足気味のようだ。
肉についてはスポーンし放題なので、片っ端から屠殺して肉を上に送っているそうだ。
レイコの魔力はスケルトンの増産に回さなければならない。
新たに植物を成長させる〈プラントグロウ〉の魔法の使い手を増やすことにした。
種族はアルラウネ。
最初から地魔法を持っているので、これにオプションで水魔法と光魔法と魔力自動回復を足してやる。
数は多めの方がいいだろう、スポーンは『50/50』だ。
頭に花を咲かせたちびっこたちが、ワラワラと畑に散らばり、片っ端から〈プラントグロウ〉をかけて回る。
よしよし、これで収穫は大幅に増えるはずだ。
食料自給率は何としても100パーセント以上を維持したい。
キウス王国がどう出るか分からないからね。
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