言われてみればそうですね。

 翌日、シャルセアが冒険者パーティがやって来ているとの報告をしてきた。

 先日もやって来た金ランクパーティ、とのことだからローレッタのパーティだろう。

 武器屋と防具屋に用事があるとかで、昨晩は宿屋に泊まっていったそうだ。


 なるほど、師匠とヒルダのところに用事があったわけか。

 迷宮に行く前に、ちょっと挨拶をしておこうかな。


「おはようございます。ローレッタさん」


「おはよう。クライニアか、何か用事かい?」


「ええ。昨晩はこの宿屋に宿泊されたとのことなので、感想を聞きに」


「なるほどね。ここは新しくて綺麗でいいね。シーツやベッドも清潔だし。それより隣の食事処に驚いたよ。なんだいあそこは。メチャクチャ美味いじゃないか」


「そうでしょう? 自慢の店なんですよ。お気に召したようでなによりです」


「ウチの男どもは食事処の従業員と宿の部屋を取ってさっさと引っ込んじまったけどね。あれはそういう意図でサキュバスを配置しているのかい?」


「娼館を別に用意するのが手間だったので、ついでですね」


「今は人が少ないから取り合いにならないけど、住民が増えたらどうかな。まあともかく酒の種類が少ない以外は、文句なしだったよ」


 酒については迷宮産の高級酒と『竜の吐息』を置いてあるのですが、いかんせんまだ高いですよね。

 あとはこの前、行商人から仕入れた安酒です。

 師匠の蒸留器が完成したら、酒精の強い酒が安値で提供できるようになるので、そこは外と差別化できるかな。


「ここに迷宮までの乗合馬車と、冒険者ギルドがあれば完璧なんだけど」


「あ、冒険者ギルドなら誘致しています。数日はかかると思いますけど、ちゃんとできる予定がありますね。乗合馬車は需要がありますか?」


「ドレイクの迷宮とケルベロスの迷宮に行くのに、足がないからね。それさえあればここを拠点にしたい冒険者は増えると思うよ」


「参考にしておきます」


 ふむぅ、乗合馬車の運行か。

 これもやっておいた方が良さそうだな。

 とはいえ冒険者ギルドができあがってからでいいだろう。


 ローレッタに挨拶してから、ミアラッハと一緒にイフリート迷宮に向かった。


 リザードマンが複数、連携を取りながら襲いかかってきたので返り討ちにしました。

 第一階層の雑魚からして難易度の高さをみせつけてくる。

 なかなか歯ごたえのある迷宮らしいことは事前に分かっていたけど、戦った感覚でいえば、以後が思いやられる感じだ。


「いきなりリザードマンとはね。まだまだ私たちの相手じゃないとはいえ、先に進めば厄介なのが出てきそうだ」


「そうね。でもまだまだ楽勝だったじゃない。苦戦するようになってから、考えればいいわ」


 ミアラッハが前向きだ。

 それでこそ相棒!


 地図を頼りにして進む。

 階段の手前には、やはり宝箱があった。

 罠は毒針。

 背後に回って開けると、誰もいない方向に毒針が飛んでいく。

 中身は?

 王冠だ。

 でっかい宝石がついている。


「クライニア、皇帝なんだしひとつくらい王冠、持っておいたら?」


「鑑定の結果次第じゃそうしようかな」


 そういえば、鑑定はどうしようか。

 街が微妙に遠いぞ。

 早く冒険者ギルドが帝国にできるといいのだけど。


 以後も一階層にひとつずつ宝箱が出た。


 そして第五階層の中ボス部屋前。

 ここの中ボスはサラマンダーが六体だ。

 まあぶっちゃけ、私たちが苦戦する要素はない。

 瞬殺してやった。


 素材の剥ぎ取りをする。

 サラマンダーの鱗は火属性耐性のある防具になるのだ。

 剥ぎ取り終えると、死体が消滅して宝箱が出てくる。

 罠はスキル阻害の呪いだ。

 〈ディスペル〉してから、開ける。

 中身は?

 絵画だ。

 ミアラッハが魔槍を振るっている姿が克明に描かれている。


「またブライナー家に送る?」


「うん。できればそうしたいかな」


 ミアラッハが冒険者として活躍している姿だ、家族も喜ぶだろう。


 時間はまだまだあるので、第十階層を目指すことに。

 相変わらず魔槍とマナジャベリンで無双できる。

 低階層だからだろうけど、今後のことを考えると何らかの方法で攻撃力アップを図りたいところ。


 第十階層の中ボスはミノタウロスが二体だ。

 なかなかのペースで魔物が強くなっている。

 もちろんまだまだ瞬殺できるのだけども。


 ミノタウロスアックスを〈ストレージ〉に仕舞って、さあ宝箱だ。

 罠はないが、鍵がかかっている。

 スカウト用ツールで解錠して、中身は?

 投げ縄だ。

 何に使うのだろうか。


「よし、今日はこのくらいにして戻ろうか」


「そうだね。まだまだ楽勝だったわね」


「うん」


 手を繋いで転移魔法陣に乗る。

 第一階層に戻り、周囲に人目がないことを確認してから、迷宮帰還で帰った。


 * * *


 イフリート迷宮から帰還した私に、シャルセアが「冒険者ギルドの方がお見えです」と伝えてくれた。

 宿屋に部屋を取っているらしい。


 もう支部長と副支部長が派遣されたのか……早いな。

 私はさっそく宿屋に向かう。

 ミアラッハは城に戻ると言って目抜き通りを歩いていった。


「こんにちは」


「おお、あなたがここの君主ですか。いやあ聞いていた通りお若いですな。……おっと失礼。私はこの度、この国の冒険者ギルドの支部長を務めることになったターナルトと申します」


「ターナルトさんですね。よろしくお願いします」


「ええ。それで冒険者ギルドの建物はそちらでご用意してくださるという話でしたが、間違いありませんか?」


「はい。なんなら今から建てましょうか?」


「は? 今からですか。そうですな、場所は扉の近くが望ましいですな」


 土地の下見だと思っているのだろうか。

 そこへ数名の男女がやって来た。


「ターナルトさん、そちらは?」


「ああ、副支部長とギルド職員です。当初は支部長と副支部長のみの派遣とのことでしたが、ちょうど引退を考えている冒険者パーティがありましたので引き抜きました」


「それはありがたいです。家屋も用意した方が良さそうですね」


「そうですな。ギルド職員が住めるような宿舎か、一軒家になるでしょうな」


「問題ありません。どちらにするかは早めに決めてくださいね」


「……?」


 表に出る。

 目抜き通りに面したところに広場を作って、そこに冒険者ギルドを建てたいとのことだった。

 時空魔法やマジックバッグがなければ、大きな素材や迷宮品を持ち込むのにスペースが必要になるからだ。

 なるほど、確かに街の冒険者ギルドも大抵はそのような立地になっているな、と思い出す。


 私はDPを消費して広場を設置して、冒険者ギルドの建物を建てた。


 ターナルトたちはあっけにとられて冒険者ギルドを見上げている。


「内装もこちらで準備します。中に入りましょう」


「あ、あのう! 一瞬で建物ができたのは、一体!?」


「ここは迷宮ですからね。改装するのは割りと簡単なんですよ」


「な、なるほど。ではギルド職員の住む建物も?」


「ええ、決めていただき次第、建てます」


「……よく分かりました。早めに決めます」


 内装は掲示板を設置したり、カウンターの奥に棚を設置したり、支部長と副支部長の執務室を整えたり。


「ありがとうございます。これで業務を開始できそうです」


「それは良かったです」


 支部長と副支部長は通いになるため、それぞれ一軒家を作ることになった。

 大きさに特に指定はないとのこと。

 それでも将来を考えて、結婚して家族ができても大丈夫なように広めの邸宅を用意した。

 冒険者ギルドを取りまとめる立場なのだから、少しくらい見栄を張りたいだろう。

 逆に元冒険者のギルド職員たちは宿舎を選んだ。

 全員が独身であること、もし結婚したなら一軒家を建ててもらえればいいから、とのことだった。


 家具の設置はサービスで行う。

 まだ家具屋がないから、私がやるしかないのである。


「明日から、さっそく業務に入りたいと思います。それで質問がいくつかあるのですが……」


 ターナルトが問うたことに答えていく。

 ここクライニア帝国には外から魔物は侵入するのか?

 否、外部の魔物は迷宮の扉をくぐることが基本的にはできない。

 例外としてはテイムされた魔物や召喚された魔物が冒険者についてくることは可能である。


 その答えに、ターナルトは満足した笑顔を見せた。


「なるほど、安全な街なのですな。それは得難い利点です」


「言われてみればそうですね」


 確かに街壁で囲われた都市と違って、迷宮内に都市を作った場合、外部からの魔物の侵攻の心配はない。

 言われて初めて気づいたことだったが、確かに大きなメリットだ。


 明日からさっそく、冒険者ギルドは稼働するとのことである。

 ちゃんと元冒険者のギルド職員のなかに物品鑑定スキルの持ち主がいた。

 明朝、迷宮品の鑑定をお願いしよう。

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