私、本業は魔法使いなんで。

 錬成の時間だ。


《【錬金術】

 アダマンタイトのインゴット

 +黒い液体

 +妖精の酒

 →アダマンタイトのインゴット(重力属性・?)+1》


 よし、錬成開始!

 結果は?


 アダマンタイトのインゴット(重力属性・闇属性)+1となった。

 なかなかいい感じじゃないだろうか。

 早く鍛冶の腕を上げて、魔法の武器を打ちたいものだ。


 翌日、私はヒルダの店でシャルセア用の防具を受け取って、召喚したシャルセアに着せた。

 マギシルクをふんだんに使った一着だ。


「マスター、ありがとうございます。お役に立てれば良いのですが……」


「気にしないで。私も修行中の身だから、シャルセアに頼るのはどうにもならないときにするからさ」


「マスターがどうにもならない状況、ですか。なかなか機会はこなさそうですね」


「どうかな。まあ機会があったらちゃんと助けを求めるから」


「はい。かしこまりました」


 シャルセアを送還する。


 師匠のところへ行って、今日も鋼の剣を打ちまくる。

 が、途中で珍しく客が来た。

 なんとローレッタだ。


「あれクライニア? なんで鍛冶を……」


「ローレッタさん。昨日ぶりですね」


「なんじゃ。ローレッタとクライニアは知り合いだったのか?」


 師匠にローレッタが長剣を渡す。

 三箇所に刃こぼれがあった。


「ぬう……これは酷いな。一体、何があったんじゃ?」


「二箇所はそこのクライニアに。もう一箇所は相方のミアラッハに。ふたりとも強くてさ。受け流しきれずにこのザマさ」


「クライニアとミアラッハに? そんなに腕が立つのか、クライニアが?」


「ハーキムは知らないのか? 私はふたりにそれぞれ負けたぞ」


「なにぃ? 金ランクのローレッタを銀ランクのふたりが負かしたのか!」


 そういえば師匠の前で戦ったことはなかったな。


「やたら重い剣と、黄金に輝く魔槍だったけど、ハーキムの作なら納得がいく」


「いや。どちらもわしの作品じゃないぞ。特にクライニアの剣はアダマンタイトこそ使っておるが、魔法の武器ですらない」


「なんだって――?!」


「〈ヘヴィウェイト〉が付与されておるからな。重さでいえばかなりのものじゃろう。そうか、クライニアがのう……」


 私は鋼の剣を打ち終えて、師匠に向き直る。


「魔法の武器を刃こぼれさせたのは気づきませんでした」


「そりゃそうじゃろう。わしの作品じゃ、そう簡単に刃こぼれさせるような腕前の者には売らん。ローレッタを負かしたというのなら、クライニアの剣の腕前はかなりのものじゃな」


「いや、魔法も使ったし、最後なんて召喚獣の力を借りたから」


「ヘカトンケイレスを出したのか?」


「違う違う。シャドウストーカー。私、あれから召喚の絆が増えて、三体と絆を結んでいるの」


「シャドウストーカーじゃと。それは確かにえげつないのう」


 師匠はローレッタの長剣を撫でてから、「ここまで刃こぼれしておると、研ぎ直すだけじゃ済まんな」と言った。


「修理費は払います。まだこの剣と一緒に戦いたいのです」


「ローレッタが修理を望むなら、修理はする。それはそれとして、クライニアの剣の腕前も見てみたいのう」


「えー」


 面倒くさいなあ。

 別に師匠に腕前を見てもらう必要性を感じない。

 だって私の武器は私で打つのだから。


「木剣を貸してやるから、ローレッタと打ち合え。ただし両者ともに魔法禁止、クライニアは召喚獣も禁止じゃ」


「それだと私、かなり不利なんですけど」


「純粋な剣技を見たいからのう。負けてもいいから全力を見せてみろ」


 渡された木剣をしぶしぶながら持って、裏庭に向かう。

 ローレッタは私との再戦を喜んで引き受けた。


「両者構え。――始め!!」


 師匠の合図で、ローレッタが飛び込んでくる。

 闘気法を全開にしてこちらも前に出る。


「〈空牙〉!!」


「〈疾空〉!!」


 ふたつの剣閃がぶつかり合い、相殺された。

 いかん、剣だけだと手札が少ない。

 いや、まだあるか。


「〈縮地〉!!」


「――!?」


 仙術〈縮地〉はミアラッハのスキル【縮地】と同様の効果がある。

 一気に距離を詰めて、一撃を見舞う。


「くっ」


「はあッ!!」


 攻勢に出た。

 しかし相手もさるもの。

 剣だけの戦いになると攻め手に欠ける。


「〈斬鉄〉!!」


「〈瞬閃〉!!」


 一か八か、〈斬鉄〉でローレッタの木剣の破壊を試みる。

 しかし刃のない木剣では〈斬鉄〉は不発となった。

 さすがに木剣で鉄を斬ることはできないらしい。

 一方、ローレッタの剣術は発動した。


 ガィン!!


 なんとか防いだが、剣術の手札はあちらの方が多いらしい。

 仙術で差をつけたいところだ。


「〈縮地〉!!」


 後退する。


「〈地蜘蛛〉!!」


 壁を走ってそのまま横に抜ける。


「〈縮地〉!!」


 距離を詰めながら一撃離脱。

 打ち合いには付き合わない。


 しかしすれ違いざまに、ローレッタからの咎めの一撃が来る。

 ここだ。


 私は剣を手放して、格闘の間合いに入る。


「!?」


「はッ!!」


 ボディブロー。

 素手格闘だ。


「よし、そこまでじゃ!!」


 師匠が止めた。

 私の判定勝ちかな?


「つーか、なんじゃ変な動きばかりしおって……クライニア。剣の腕前は分かったが、剣以外で勝とうとするところはお主らしいのう」


「いやあ。私、本業は魔法使いなんで」


「あれだけの動きをできる魔法使いがいるか!!」


 いますよ、ここに。


 ともあれなんとかローレッタを破った。

 ローレッタは悔しそうに腹をさすっている。


 まさか素手で殴られるとは思ってもみなかったのだろう、闘気法の防御が薄かった。

 悪いことしたなあ、とも思わなくもないが、元凶は師匠だ。

 私、悪くないもんね!

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