さすが皇帝は伊達じゃない。

 シャルセアを召喚して、ヒルダさんにマギシルクを渡す。

 

「……足りないね」

 

「えっ」

 

「まあ足りない分は仕方ない、私の在庫のマギシルクを出そう。ただそうすると高く付くよ。金貨100枚になる」

 

「あ、お金は大丈夫です」

 

 前回、防具を加工したときの代金が全額返ってきた分と同じ額だ。

 余裕ですよ。

 

 防具の目処はたったので、シャルセアを送還して師匠のもとへ。

 クラスはブラックスミスにしておく。

 

「おう。なんじゃ、今日は遅かったのう」

 

「うん。ヒルダさんとこに寄って、シャルセアの防具を依頼してきた」

 

「ヘカトンケイレスのか……」

 

「まあね。じゃあ鋼の剣を打たせてよ」

 

「おう、少し待っておれ」

 

 アダマンタイトのハンマーと鉄床を受け取り、いざ鋼の剣を打ちまくるべし!

 その日も結局、魔法の武器にはなりませんでしたとさ。

 

「そう言えば、お前の打った剣だがな。商人がすべて引き取りたいと言ってきたぞ」

 

「全部? まあ格安だしね」

 

「うむ。他所に持っていけばそれなりの額で売れるじゃろうからなあ」

 

 転売されるか。

 まあ値付けは師匠にお任せしている。

 こちらは炉と素材を負担してもらっている立場なので、特に言うことはなかった。

 

 宿に戻って〈クレンリネス〉で身ぎれいにして、夕食だ。

 今日のデザートは生クリームをサンドしたビスケットでした。

 

 『竜殺しの魔導書』を読んでから就寝。

 ……って、仙術を教わる暇がないね。

 

 翌朝は雨だったので、休日にすることにした。

 鍛冶をするのもいいけど、降って湧いたこの機会に、仙術を教わることにした。

 というわけでヨルガリアを召喚!

 

「マスター、何用ですかな?」

 

「仙術を教えて欲しいの。情報がまったくなくて、困ってたんだよね」

 

「ああ、仙術ですか。ということはマスターはハーミットを目指しておるのですかな?」

 

「いや、ハーミットにはなれるんだ」

 

「は? しかしそれでは、ハーミットのクラスチェンジの前提条件はクリアできておらぬのでは?」

 

「あー……。そこは私、ちょっとズルしてクラスチェンジできちゃうんだよ。まあともかく、仙術って結局どんななの?」

 

 話を聞くと、どうやら剣術などと同様、体系化されていない雑多な術をまとめたものらしい。

 ただし武器などに依存しない点で、そして戦闘以外にも使えるという点が剣術などとは違うらしい。

 

 具体的には?

 

 水上歩行の〈水蜘蛛〉、壁や天井を走る〈地蜘蛛〉、老化がストップする〈不老不変〉などなど。

 ある程度は魔法でなんとかなりそうなラインナップだけど、〈不老不変〉なんかは代わりが効かない。

 ていうか霞を食べて飢えを凌ぐとかなんなんだ仙術。

 

「私の知っている仙術はこんなところですかな」

 

「いやあ十分だわ。ちょっとステータス確認するね」

 

《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス ハーミット レベル 2

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【仙術】【錬金術】【魔法付与】【鍛冶】

     【量産】【剣技】【剣術】【槍技】【槍術】【二刀流】【多刀流】

     【素手格闘】【関節技】【気配察知】【罠感知】【罠設置】【鎧貫き】

     【魔力制御】【魔法範囲拡大】【魔力自動回復】【同時発動】

     【多重魔力腕】【消費魔力軽減】【魔法武器化】【魔力強化】【怪力】

     【俊足】【創世神信仰】【シャルセアとの絆】【ルマニールとの絆】

     【ヨルガリアとの絆】【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》

 

 おお、ちゃんと【仙術】が増えている。

 

「ありがとうヨルガリア。無事に【仙術】を習得できたよ」

 

「ふむ。マスターは飲み込みが早いですな。本来、【仙術】は長い時を修練に費やして初めて習得できるスキルなのですが……」

 

 ああ、熟練度20倍あるからね。

 それにハーミットになって訓練したから、というのもありそうだ。

 そもそもハーミットになるためには、先に仙術が必要とのことだしね。

 

 お礼を言って、ヨルガリアを送還した。

 

 その後は、『竜殺しの魔導書』を一気に読んだ。

 結果、〈ドラゴンスレイヤー〉が使えるようになったはずだ。

 ただしこの魔法、射程が短いっぽい。

 斬馬刀みたいな巨大な剣を出現して、薙ぎ払う魔術なのだ。

 魔法武器化が効果ありそうなので、いざとなれば剣技と剣術で戦えるのがミソかな?

 

 夜はミアラッハが読み終えた『槍術〈火薙ぎ〉』を借りた。

 これは比較的簡単そうだ。

 実践すれば習得できそうだね。

 

 * * *

 

 冒険者ギルドに寄ってから、ドレイクの迷宮に向かう。

 今日から後半戦。

 第五十階層からのスタートとなる。

 

 クラスはエンペラーだ。

 ハーミットは仙術を習得した時点で用済みな感じなので。

 エンペラーのクラス補正はというと、味方の全行動にボーナス修正がつくという支援向きの性能だった。

 

「クライニア、リッチは召喚しないの?」

 

「あーうん。ヨルガリアは強いけど、経験値は必要なさそうだし」

 

 そう、レベル99のヨルガリアが迷宮で雑魚や中ボスを狩ると、私たちの成長が遅れるのである。

 召喚の絆を結んでおいてなんだけど、今は私たちには不要な戦力だ。

 

 ただしシャドウストーカーのルマニールはまだ成長の余地があるので、使っていこうかと思う。

 今も影の中で警戒してもらっている。

 

「じゃあ雑魚は半分狩るから、残りはミアラッハでお願い」

 

「分かった」

 

 実際にはルマニールにも狩らせるから、私の成長が遅れるのだけど、まあ仕方ないね。

 

 影を伸ばして地面から刃を出す。

 一見すると私が〈シャドウセイバー〉を撃っているように見える。

 

 しかし〈シャドウセイバー〉と違うのは、ルマニールは的確に傷つけられるところを傷つけていくところ。

 数発かかることが多いが、そもそも影の中からの攻撃なので魔物側は反撃もできずに一方的に倒されていく。

 シャドウストーカー、強いなあ。

 

 ルマニールに戦闘を任せていると、魔力を消費することがないのでややもったいない。

 密かに仙術〈地蜘蛛〉を発動して普通に歩く。

 これ消費魔力が少ないからあんまり訓練にならないかな。

 でも仙術の熟練度稼ぎにはちょうど良さそうだ。

 

 後は地道にルマニールに支援魔法をかけまくる。

 〈エンチャントウェポン〉、〈ブレッシング〉、〈ヘイスト〉、などなど。

 ザクザクと魔物を狩るルマニール。

 殲滅速度が上がってきたね。

 

「なんか今日、調子がいいみたい」

 

「あ、それ多分、エンペラーのクラス補正だよ」

 

「え、今エンペラーなの?」

 

「うん」

 

 ミアラッハの動きは普段より見違えて良くなっていた。

 エンペラー、どんだけ補正あるのさ。

 さすが皇帝は伊達じゃない。

 

 しかし経験値がもったいない。

 ルマニールの狩る数を半分に減らした。

 エンペラーは強力だけど、早くレベル20にして別のクラスを育てた方が総合的に強くなれると見込んでいる。

 ルマニールは不寝番さえしてくれればいいので、気配察知の熟練度稼ぎの方が重要なのだ。

 アサシンレベル40で新しいスキルが増えるだろうけど、そこまでの道のりがちょっと長い。

 

 そんなことを考えつつ、色々と試行錯誤していたら、いつの間にか第五十五階層の中ボス部屋の前だった。

 前には誰もいないので、扉を開けて挑む。

 

 第五十五階層の中ボスはイエティが三体だ。

 吹雪の息を吐くくらいしか取り柄のない相手だから、一体をルマニールに任せて、もう一体は〈マジックハンド〉〈マナジャベリン〉〈死棘〉の瞬殺コンボで屠る。

 最後の一体も危うげなくミアラッハが倒した。

 

 こいつらの毛皮は需要があるらしいので、剥ぎ取りを行う。

 ミアラッハと私で一体ずつ。

 一体は迷宮に飲まれるかと思いきや、ルマニールが持ち上げてくれていたので剥ぎ取ることができた。

 

 お金に困っていないとは言え、いくらあっても困るものでもないので稼いでおきたいね。

 

 宝箱が出現した。

 罠はかかっていないが鍵がかかっている。

 スカウト用ツールで解錠して、開ける。

 中身は?

 アダマンタイトのインゴットだ!

 

 これは大事に取っておこう。

 いずれ私が魔法の武器を打てるようになったら、使うのだ。

 

 その後も、大したことのない雑魚を蹴散らして第六十階層の中ボス部屋まで一直線。

 ここの中ボスはカトブレパスが三体だ。

 石化の邪視をもっているため、〈マインドプロテクション〉をかけておく。

 ルマニールにも念の為、かけておいた。

 

 結果?

 瞬殺だったよ。

 石化さえ封じれば怖い攻撃はないからね。

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