ミアラッハ~、機嫌なおしてよ。

 第五十階層の中ボスは、折り返しにふさわしく強敵のクラーケンである。

 フロアの中心がプールになっており、そこにクラーケンが配置されるのだ。

 敵の触腕は、部屋の四隅にも届く。

 イカスミを吐くことがあり、視界を塞いでくる嫌らしさも兼ね備えていた。

 

 まあ、そんな相手も〈マナジャベリン〉をたくさん叩き込めばお陀仏なんですけどね。

 

 クラーケンを〈ストレージ〉に収納した。

 焼くと、いい味を出すのだ。

 

 さて今、私たちの間には小さな亀裂が入っている。

 というのも、私の〈マジックハンド〉〈マナジャベリン〉〈死棘〉が完全に前衛の仕事を奪っていたからだ。

 

 もはやワンアクションで実行されるそれらは、距離のある状態から一瞬で敵を一掃することができる。

 

「機嫌、治そうよ。私の攻撃力だと、現状はこれが限界だからさ。きっと魔槍の活躍の場はあるよ」

 

「……最下層、ドレイクじゃない。その頃にはクライニアは〈ドラゴンスレイヤー〉を習得しているわけでしょ? 私、いらなくない?」

 

「いやいやいや。いるよ! 前衛なしでひとりで迷宮に潜るなんて考えられないし!」

 

「でも第四十五階層からここまで、私、雑魚と一回も戦ってないよ?」

 

 うん、それは悪かった。

 背中に冷や汗をかきつつ、ご機嫌をなんとか取ろうとする。

 

「ミアラッハ~、機嫌なおしてよ。経験値の観点からも、私が雑魚を全部取ったのは悪かったと思ってるよ」

 

「……はあ。もういい。私も大人気なかった。拗ねたりしてごめん」

 

「私の方が悪かったよ。ミアラッハが謝ることないって」

 

「……宝箱、出てるよ」

 

「ミアラッハの方が今は大事」

 

「いや、そういうのいいから。分かったから」

 

「本当?」

 

「うん」

 

 顎で宝箱を示すミアラッハに、背を向けて罠をチェックする。

 罠はなし。

 中身は?

 本だ。

 タイトルを読む。

 あ、これって……。

 

「ミアラッハ、これ見てよ」

 

「本? なになに……『槍術〈火薙ぎ〉』!?」

 

「どんな槍術か分からないけど、これでミアラッハの戦力アップだね」

 

「うん……」

 

 差し出された本をウェストポーチに仕舞うミアラッハ。

 私たちは仲直りを確かめるかのように手を繋ぎ、いつもどおり転移魔法陣に乗った。

 

 乗合馬車で街に戻り、冒険者ギルドへ。

 

 さて今回も鑑定師の前には十の迷宮品が並んだ。

 うちひとつはミアラッハのウェストポーチから出された『槍術〈火薙ぎ〉』だ。

 一応、鑑定してもらうことにしたらしい。

 

 では順番に鑑定結果を見ていこう。

 

 まず『槍術〈火薙ぎ〉』。

 これは〈火薙ぎ〉という槍術について書かれた指南本である。

 どうやら〈火薙ぎ〉は槍で広範囲を火属性を纏った槍で薙ぎ払うというものらしい。

 そのまんまだけど、薙ぎ払い系の槍術はなかったので、素直にミアラッハの戦闘力が高まる結果となるだろう。

 

 次に一対のクマのぬいぐるみ。

 これは双方向に通話が可能なスグレモノだ。

 もっとも遠隔地と連絡を取り合う相手がいないので、売却することに。

 軍需物資でもあるため、金貨40枚になった。

 

 次に水晶がふたつ。

 これは以前にも出たスキル結晶だ。

 ランダムに新しいスキルを習得できる楽しいアイテムであるため、確保しておく。

 

 次に円盤。

 これは目覚めのドラという名のアイテムで、叩くと音の聞こえる範囲内にいる者すべてをパッチリ覚醒させるというある意味で迷惑な代物だ。

 騎士団で使用することがあるとかで、金貨5枚で売れた。

 

 次に曲刀。

 これは雷鳴のシャムシールという雷属性をまとうことのできる魔法の武器だ。

 残念ながら私には軽いため、売却することに。

 魔法の武器は基本的に高値なので、金貨50枚になった。

 属性付与効果もついているのがさらなる高値の原因らしい。

 

 次に赤い布。

 これは耐炎属性の染料が使われているマギシルクだ。

 シャルセアの防具にするために確保しておく。

 

 次に黒い布。

 これは以前、入手したことのある耐闇属性の染料が使われているマギシルクだ。

 赤いマギシルクと合わせて、シャルセアの防具に加工して貰う予定。

 ふたつくらい布を使わないと、シャルセアの体格には物足りないだろう。

 

 次に無色透明の液体の入った小瓶。

 これは以前にも入手したことのある妖精の酒だ。

 ランダムに追加効果を与える錬金術に使える。

 シャルセア用の防具の布に使う予定なので確保。

 

 次に手のひらサイズの木馬。

 これは以前にも入手したことのある馬になる木馬だ。

 もう既に持っているため、売却する。

 軍需物資でもあるため、高値がついて金貨30枚となった。

 

 剥ぎ取り素材を売却して、宿に戻る。

 

 まずは布を錬成しよう。

 レッドドラゴンの鱗がまだ余っているので、これと妖精の酒を使う。

 

《【錬金術】

 マギシルク(炎属性無効)

 +レッドドラゴンの鱗

 +妖精の酒

 →マギシルク(炎属性吸収・?)+1》

 

 結果は?

 マギシルク(炎属性吸収・下位四属性耐性)+1

 

 おお、なかなか良い効果だ。

 

《【錬金術】

 マギシルク(闇属性無効)

 +レッドドラゴンの鱗

 +妖精の酒

 →マギシルク(闇属性無効・炎属性耐性・?)+1》

 

 結果は?

 マギシルク(闇属性無効・炎属性耐性・氷属性耐性)+1

 

 なかなかいいね!

 

 じゃあ次はスキル結晶を使ってみようか。

 ミアラッハと一緒にひとつずつ消費してみた。

 

《名前 ミアラッハ・ブライナー

 種族 人間 年齢 16 性別 女

 クラス ランサー レベル 33

 スキル 【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【槍技】【槍術】【回避】【馬術】【闘気法】【縮地】【空歩】

     【魔法斬り】【製菓】【醸造】【魔槍召喚】》

 

《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス サモナー レベル 26

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【魔法付与】【鍛冶】【量産】

     【剣技】【剣術】【槍技】【槍術】【二刀流】【多刀流】【素手格闘】

     【関節技】【気配察知】【罠感知】【罠設置】【鎧貫き】【魔力制御】

     【魔法範囲拡大】【魔力自動回復】【同時発動】【多重魔力腕】

     【消費魔力軽減】【魔法武器化】【魔力強化】【怪力】【俊足】

     【創世神信仰】【シャルセアとの絆】【?絆】【?】【経験値20倍】

     【熟練度20倍】【転職】》

 

 ミアラッハは【醸造】を入手したようだ。

 そして私は……多分、迷宮内で【二刀流】【多刀流】【多重魔力腕】を習得して、サモナーレベル20を越えたことで【?】が増えたと思う。

 ということは、結晶で増えたスキルは【?絆】ということになる。

 サモナーだからかな、まあ何にせよ新しい召喚は嬉しい。

 

 まず【?絆】の方を解決しよう。

 前回は宿の部屋で召喚したけど、今回は外に出て召喚することにした。

 また大きいのが出てきたら大変だからね。

 

 魔法陣が現れて、ズモモモモと煙がもうもうと出る。

 さて何が召喚されたのかな?

 

 黒い人影……〈アナライズモンスター〉を使うと、シャドウストーカーと出た。

 影に潜み暗殺が得意な悪魔系の魔物だ。

 

《名前 ルマニール

 種族 シャドウストーカー 年齢 ? 性別 ?

 クラス アサシン レベル 25

 スキル 【影潜み】【影渡り】【影の刃】【気配察知】【罠感知】【不眠不休】

     【クライニアとの絆】》

 

 年齢と性別が不明か。

 いやそれにしても不眠不休は嬉しい。

 影に潜ませて、不寝番にしよう。

 

 サモナーの【?】も確定させる。

 グルグルと回転して、結果は?

 【?絆】だ。

 また召喚できるっぽいぞ。

 よし召喚!

 

 魔法陣が現れて、ズモモモモと煙がもうもうと出る。

 さて何が召喚されたやら。

 

 骸骨の頭部に、漆黒のローブ。

 〈アナライズモンスター〉を使用すると?

 リッチだ!

 

《名前 ヨルガリア

 種族 リッチ 年齢 ? 性別 男

 クラス ネクロマンサー レベル 99

 スキル 【古代語】【礼儀作法】【カリスマ】【基本魔法】【闇魔法】

     【時空魔法】【仙術】【死霊魔術】【魔力制御】【同時発動】【叡智】

     【スケルトン作成】【スケルトン強化】【クライニアとの絆】》

 

 これまた強い。

 リッチといえばアンデッドの中でも最強の魔法使いだ。

 それが配下になるとは……。

 

「ご機嫌麗しゅう、マスター。我が名はヨルガリア。悠久の年月を経たアンデッドでございます」

 

「初めまして、ヨルガリア。私はクライニアよ。もう一体、召喚の絆を結んだ子がいるから、呼び出すわね」

 

 私はシャルセアを呼び出した。

 

「これはこれは。ヘカトンケイレスですか」

 

「マスター。そちらはリッチのようだが……」

 

「ふたりとも、私の召喚獣です。仲良くしてくださいね」

 

「「マスターがそう言うのなら」」

 

 不承不承といったところか。

 まあいいけどね、私の命令はちゃんと聞くみたいだし。

 

《【転職】

 サモナー(レベル26)

 ノーブル(レベル10)

 ファイター(レベル24)

 スカウト(レベル33)

 フェンサー(レベル29)

 ランサー(レベル1)

 グラップラー(レベル31)

 プリースト(レベル20)

 メイジ(レベル22)

 ブラックスミス(レベル22)

 アルケミスト(レベル26)

 マーチャント(レベル1)

 メイド(レベル1)

 トリックスター(レベル1)

 ウォーロード(レベル1)

 カースドナイト(レベル1)

 チャンピオン(レベル1)

 アサシン(レベル21)

 ビショップ(レベル1)

 ウィザード(レベル22)

 セージ(レベル24)

 ネクロマンサー(レベル1)

 パペットマンサー(レベル1)

 パラディン(レベル1)

 モンク(レベル1)

 ルーンナイト(レベル22)

 ハーミット(レベル1)

 エンペラー(レベル1)》

 

 エンペラーは気になるところだけど、まずはハーミットだ。

 ヨルガリアが仙術をもっているため、教えを乞うことにする。

 

《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス ハーミット レベル 1

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【魔法付与】【鍛冶】【量産】

     【剣技】【剣術】【槍技】【槍術】【二刀流】【多刀流】【素手格闘】

     【関節技】【気配察知】【罠感知】【罠設置】【鎧貫き】【魔力制御】

     【魔法範囲拡大】【魔力自動回復】【同時発動】【多重魔力腕】

     【消費魔力軽減】【魔法武器化】【魔力強化】【怪力】【俊足】

     【創世神信仰】【シャルセアとの絆】【ルマニールとの絆】

     【ヨルガリアとの絆】【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》

 

 ルマニールを自分の影の中に潜ませる。

 今日はもう夜も遅いので、シャルセアとヨルガリアは送還することにした。

 

 明日はシャルセアの防具を作ってもらいに、ヒルダさんのところへ行こう。

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