身長は私の三倍以上ある。

 クラスをブラックスミスにして、師匠のもとに向かう。

 今日も鋼の剣を打ちまくる予定だったけど、シャルセアの武器を用意してあげたいと思う。

 

「師匠、ちょっと見て欲しいんですけど」

 

「おう、なんじゃ」

 

「召喚!」

 

 ズモモモモ。

 魔法陣が展開して、煙がもうもうと立ち上る。

 今日はちゃんと外で召喚したから、シャルセアも立って現れた。

 デカい。

 身長は私の三倍以上ある。

 

「な、ヘカトンケイレスか!?」

 

「サモナーになって呼べるようになったシャルセアです。この子に武器を用意してあげたいんですけど……」

 

「巨人族の武器か。なるほどのう、普通の武器では小さすぎるか」

 

 ぐぬぬ、と師匠がシャルセアを眺めながらあごひげをしごく。

 シャルセアは申し訳無さそうに、告げた。

 

「マスター、無理に武器を用意しなくとも、格闘で戦うこともできますが」

 

「いやいや、剣と槍と斧が使えるんだもの。せっかくの手に怪我をしたらヤだし、武器は用意するよ」

 

「そうですか……ならば私に合う斧を六本用意してもらえると助かります」

 

「斧だね。了解。というわけで師匠、シャルセアに合う斧を打ちたいのですが」

 

「……お前さんの腕前じゃ今日一日で終わらんじゃろ。わしが打つ」

 

「いいんですか?」

 

「巨人族の斧を打ついい機会じゃ。わしも興味がある。で、どんな斧がいいのか聞いてくれ」

 

「? ええとシャルセア。どんな斧がいいの?」

 

「大きくて重ければ言うことなしです」

 

「だって師匠」

 

「わしは巨人語がわからん。通訳してくれ」

 

「え?」

 

 そういえばシャルセアはレクタリス地方語を喋ることができない。

 どうやって私は今まで会話をしていたのだろうか。

 

「あれ、なんでシャルセアと会話できているの……?」

 

「お主、サモナーは絆スキルで直接、会話ができるんじゃが……知らんのか?」

 

「あ、そうなんだ」

 

 私はシャルセアの要望を師匠に伝えた。

 

「大きくて重い斧か。アダマンタイトを使った巨斧に、〈ヘヴィウェイト〉を付与したらどうじゃ?」

 

 シャルセアに聞くと、それでいいとのこと。

 

「マスター、不便なようなので、私がマスターの使う言葉を覚えます」

 

「え、いいの? じゃあ師匠が斧を打っている間に勉強しようか」

 

「はい」

 

 レクタリス地方語をシャルセアに教えていく。

 まずは文字からだろうか。

 師匠に筆記用具を借りて文字の一覧を作成する。

 

 地面に文字を書いて、一音ずつ確認していく。

 ご近所の目が痛い。

 

「覚えました」

 

「早っ!?」

 

「後は文法と単語ですね」

 

「お、おう。では『私の名前はシャルセアです』」

 

「私の名前はシャルセアです」

 

「良し良し」

 

 自己紹介は重要だから、最初に教えることにした。

 

 その後も衛兵がやって来て取り調べを受けたりしたが、その日のうちに六本の巨斧を師匠が打ってくれた。

 さすが師匠だ、ぜんぶ魔法の武器だ。

 あとはこの六本に私が〈ヘヴィウェイト〉をかければいい。

 

「できた。どうかな、シャルセア?」

 

「……大変、良い斧です。特に重さがいい」

 

 アダマンタイトの巨斧を六本、構えたシャルセアに隙はない。

 すげえ強そうなんですけど。

 

 ひとまず武器の作成は終わったので、送還して宿に戻った。

 

「クライニア、なんか街中で巨人族が出たって噂になってたよ? 大丈夫?」

 

「あー……衛兵に取り調べ受けたりしたけど、大丈夫だった」

 

「それならいいけど」

 

 本日のデザートはフルーツサンドでした。

 

 * * *

 

 今日は迷宮の日です。

 ドレイク迷宮に入り、第三十階層からスタート。

 したのは良かったのですが……。

 

「ここって意外と天井低いね。シャルセア呼べないなあ」

 

「そうね……」

 

 迷宮で活躍できないのなら、どこで活躍の機会があるというのか。

 この前みたいにオークを殲滅するような依頼を受けるべき?

 

 まあなにはともあれサモナーのレベルを上げていきます。

 

 〈シャドウセイバー〉無双ですねえ。

 ミアラッハも安定した強さを発揮しており、まだまだ余裕を感じさせます。

 というか最下層のラスボスがドレイクの時点で、私たちには余裕があると思うのですよね。

 ドレイクは水辺に住む亜竜で、ワイバーンなどと同じくらいの強さを誇ります。

 まだワイバーンともドレイクとも戦ったことはないけど、私たちの実力だと亜竜なら勝てそうなんだよなあ。

 

 特にミアラッハの魔槍を〈死棘〉で投げるのは邪悪としか言いようがない。

 多分、亜竜なら一撃だろう。

 

 私の魔法だと〈ライトニング〉を連打になるかな。

 ドレイクは水辺に住んでいるだけあって、水属性を無効化し、氷属性に耐性を持っているので〈ブリザード〉が使えない。

 空を飛ぶだろうから〈シャドウセイバー〉も届かない。

 いや空を飛ぶだけの天井の高さがあるなら、それこそシャルセアを呼び出すという手もあるが。

 

 何にせよこの迷宮の攻略は見えているのでした。

 

 第三十五階層では、また『三魔炎』に会った。

 今回は六人になっている。

 メンバーを補強したらしい。

 

「こんにちは」

 

「こんにちは。ふたりだけで……凄いですね」

 

「いやあ。私たち、戦闘能力だけならかなりのものだからね」

 

「そのようですね。私たちはメンバーを増やしてなんとか、といったところです」

 

 ざっと見た感じ全員が銅ランクだ。

 扉が開いたので、「お先に失礼します」と言って『三魔炎』の面々は中ボス部屋に入っていった。

 

「ここは何が出るんだっけ?」

 

「ええと、アイアンゴーレムだね」

 

「硬そうねえ」

 

「魔槍なら余裕じゃないかなあ」

 

 しばらく時間を潰す。

 さすがに『三魔炎』の面々もアイアンゴーレム相手に手間取っているらしい。

 だが三十分ほど待ったところで、扉が開いた。

 

「よし行きますか」

 

「うん」

 

 ボス部屋に入ると、アイアンゴーレムが湧き出てきた。

 全高3メートルくらいかな。

 シャルセアの半分くらいだ。

 

 セイバー系の魔法は効きが悪そうなので、〈ライトニング〉を試す。

 直線的に走る稲妻がアイアンゴーレムに吸われる。

 よく考えたら鉄に雷は相性、悪いな。

 私は〈ストレージ〉からアダマンタイトの剣を取り出して、斬りかかることにした。

 

「〈斬鉄〉!!」

 

 〈斬鉄〉はその名の通り、硬いものを斬るのに適した剣術だ。

 スパっとアイアンゴーレムを斬り裂く。

 

 ミアラッハは何の槍術も使わずに魔槍で脚を突き壊していた。

 

 魔法が効かない相手だという点以外に、苦戦する要素はない。

 動きもトロいし、私が剣に切り替えたらあっという間に倒せてしまった。

 

 全身が鉄なので、素材として残骸を〈ストレージ〉に入れる。

 宝箱が出現するのはいつものお約束だ。

 

 罠はないが、鍵がかけられている。

 スカウト用ツールでピッキングだ。

 しばらくガチャガチャ弄っていると、開いた。

 中身は?

 本だ。

 タイトルは『竜殺しの魔導書』。

 なかなか心躍るタイトルだ。

 ちなみに迷宮産の本は誰でも読めるように、人類共通語で書かれている。

 人類共通語とは、誰でも読める謎の言語であり、通常ならステータスもこれで表記される。

 ただし読めるは読めるのだけど、発音の段階で自分たちの使っている言語になってしまうという仕様だ。

 まあともかく便利な読み言葉があると思っておけばいい。

 

 〈ストレージ〉に仕舞って、次の階層へ向かう。

 

 雑魚は相変わらず〈シャドウセイバー〉とミアラッハの魔槍で蹴散らしていく。

 第四十階層の中ボス部屋へはあっという間だ。

 

「ここのボスはなんだっけ?」

 

「ええと、スライムだって」

 

 地図を見ながら答える。

 

「スライムかあ。核を破壊すれば殺せるのよね」

 

「そうだね。ミアラッハなら〈死棘〉で一撃じゃない?」

 

 アイアンゴーレムにも核があったはずだから、〈死棘〉で一撃死させられたはずなのは秘密だ。

 

 扉を開き、いざスライム戦へ。

 

 スライムは青い粘液の塊だ。

 粘液には物理攻撃は効かず、核を狙うか、魔法で焼くかしなければ倒せない。

 粘液の量は個体により変わるが、このスライムは直径1メートル程度の大きさなのでまだ優しい。

 なんでも食べる性質から下水道に使われているのだが、プール一杯分くらいの粘液に包まれたスライムはかなり無敵だ。

 

 事前の打ち合わせ通り、ミアラッハが〈死棘〉を宣言して魔槍を投げた。

 核を一撃で貫通して、スライムが死ぬ。

 

 投げても戻ってくる魔槍と〈死棘〉の相性が良すぎる。

 

 スライムの死骸はすぐに迷宮に飲み込まれた。

 そして宝箱が出現する。

 罠なし。

 開ける。

 中身は?

 黒のニーソックス。

 防具かな?

 

 〈ストレージ〉に入れて、手を繋いで転移魔法陣に乗る。

 

 お疲れさまでした。

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