油断しなくても馬の顔にはならないんだけどね。

 クラスをブラックスミスにして、師匠の元へ向かう。

 今日もミアラッハはデザートにお菓子を用意してくれるとのことなので、今から夕食が楽しみだ。

 

「師匠、おみやげですよ」

 

「ん? なんじゃ土産とは……こ、これは『竜の吐息』!?」

 

「ドワーフが好きなお酒らしいので、お土産にどうぞ」

 

「これ金貨数枚の価値があるじゃろ。いいのか?」

 

「お世話になっていますからね」

 

「う、うむ。では遠慮なく頂くとするわい」

 

 酒瓶を開けて、チビリと舐める師匠。

 いや、別に今、飲まないでも……。

 

「カーっ!! 堪らん!!」

 

「それは良かったですね。あ、聞きたいことがあるんですけど」

 

「なんじゃ?」

 

「この剣、呪われているんですけど、どうすればいいかなと」

 

「なんじゃ、呪いの剣か。迷宮産か?」

 

「はい。特性は攻撃力増大。ただし呪いで使い手がダメージを受けることがあるとか」

 

「ふうむ。呪いのアイテムなら神殿で無償で引き取ってくれるぞ」

 

「え、そうなんだ? なら神殿に持ち込もうっと」

 

「まあ待て。お主、カースドナイトのクラスはないのか?」

 

「カースドナイト? ないですね。どんなクラスですか?」

 

「呪いの武具を装備しても、呪われないクラスじゃ。それどころか、呪われた装備を装備すればするほど強化されると聞いたことがある。前提はファイターだったかのう」

 

「へえ、そんなクラスがあるんですか」

 

 転職を起動しても、そんなクラスは……あれ、あるぞ。

 

《【転職】

 ブラックスミス(レベル16)

 ノーブル(レベル10)

 ファイター(レベル24)

 スカウト(レベル33)

 フェンサー(レベル29)

 ランサー(レベル1)

 グラップラー(レベル31)

 プリースト(レベル20)

 メイジ(レベル22)

 アルケミスト(レベル26)

 マーチャント(レベル1)

 メイド(レベル1)

 ウォーロード(レベル1)

 カースドナイト(レベル1)

 チャンピオン(レベル1)

 アサシン(レベル21)

 ビショップ(レベル1)

 ウィザード(レベル22)

 パペットマンサー(レベル1)

 パラディン(レベル1)

 モンク(レベル1)

 ルーンナイト(レベル22)

 セージ(レベル17)

 ハーミット(レベル1)》

 

 もしかしたら、呪いの装備を手にするのがクラス解放の条件だったのかもしれない。

 とすると、この呪われた剣はそのまま持っておいた方がいいのだろうか。

 

「……じゃあこのまま持っておきますね」

 

「なんじゃ。カースドナイトのクラスはないんじゃないのか?」

 

「いずれ生えるかもしれないじゃないですか」

 

「まあ、それならそれでもいいわい。どうせ〈ストレージ〉に仕舞い込めるんじゃろ」

 

「まあそうですね」

 

 今日も今日とて、鋼の剣を打つ訓練だ。

 

「そういえば師匠、私が打った剣は売れましたか?」

 

「おお、あれな。叩き売りにしたから全部売れたぞ」

 

「おおー。ていうか素材代くらいにはなったんでしょうね」

 

「もちろんじゃ。むしろ儲かったわい」

 

「それなら良かったです」

 

 ワゴンセールとはいえ自分の剣が売れたのは嬉しい。

 

 丸一日、鋼の剣を打ったけど魔法の武器化はならず。

 ほんと道は険しいんだなあ。

 熟練度20倍が仕事しているにも関わらずこれだ。

 

 おっと、ブラックスミスのレベルが20になっている。

 新しいスキルが入手できるぞ。

 何が入手できるかな、と。

 ……【量産】?

 

「師匠、量産ってどんなスキルですか?」

 

「量産? 確か……素材を複数分用意することで、一本の剣を打つだけで同じ剣が素材の分だけ出来上がるとかいうスキルじゃったかのう。習得したのか?」

 

「そうですね。習得しちゃいました」

 

「あくまで打った数は一本分じゃから、修行の役には立たんな」

 

「そうなんですね」

 

 うーん、製菓を持っているミアラッハに欲しいスキルだ。

 

 なお今夜のデザートはパウンドケーキでした。

 

 * * *

 

 冒険者ギルドへ寄る。

 依頼掲示板を眺めていると、クイクイと服の裾を引っ張られた。

 ミアラッハが一枚の依頼票を指差している。

 

 どれどれ?

 

 依頼は近所の森に出没するオーク退治だ。

 なんでも最近、オークが多数、出現しているとのこと。

 集落を形成している恐れがあるため、調査のできるパーティも募集中。

 

「うーん、オークか。銅ランクパーティでも相手にできるでしょ。何か気になるの?」

 

「オークの集落があるなら、早めに潰さないとどんどん増えるよ?」

 

「まあそうかもだけど……ここの冒険者たちがやるでしょ」

 

「でも依頼、残っているでしょ。ここ見て」

 

「うわ、報酬、安すぎ。これじゃあ残るわ」

 

「幸い、私たちはお金に困ってないから、受けてみてもいいと思うのだけど」

 

「んー……まあお金には困ってないのは事実だけど。安くこき使われるのも納得いかないなあ」

 

「気が進まない?」

 

「……いや。ミアラッハがやりたいなら付き合うけど」

 

「それじゃあ、依頼を受けましょう」

 

 元辺境伯令嬢のミアラッハとしては、見過ごせないのだろう。

 私としてはここの冒険者で片付けてもらえればいい話だと思うのだけど。

 

 ま、迷宮攻略も順調だし、たまには外の空気を吸いながらの冒険も悪くないか。

 

 私たちはオークが多く出没するという森に出かけることになった。

 

「〈クリエイトゴーレム〉」

 

 あ、ハニワ顔になってしまった。

 ミアラッハは私のゴーレム馬を見て唖然としている。

 

「ええと……なにその顔? わざとなの?」

 

「いや。油断するとこうなる。油断しなくても馬の顔にはならないんだけどね」

 

「ええ……」

 

 ミアラッハはウェストポーチから木馬を取り出して、実体化させた。

 生きた馬だ。

 元が木馬とは思えない、栗毛の立派な馬である。

 馬具もしっかり取り付けられている。

 木馬、なかなか便利なアイテムだなあ。

 

「よし、じゃあ森に向かおう」

 

「うん」

 

 私はハニワ顔のゴーレム馬に乗り、いざ森へ!

 

 森では、情報通りオークが跋扈していた。

 

 下馬して、ゴーレム馬を土に返す。

 ミアラッハも馬を木馬にしてウェストポーチに仕舞った。

 

 さあ、オーク狩りの始まりだ。

 

 と言っても、所詮はオーク。

 体格に優れているとはいえ、私とミアラッハの敵ではない。

 

 たまには剣の練習もしておこう。

 私は〈ストレージ〉からアダマンタイトの剣を取り出して、〈空牙〉でオークの首をはねていく。

 

「クライニアが剣を振ってるの久々だね」

 

「腕がなまってなくて良かったよ。オークしか出ないと分かっているなら、剣もアリだよね」

 

「クライニアはいいなあ。剣も使えて魔法も使えて。私には槍しかないのに」

 

「魔槍が超強いからいいじゃないの」

 

「そうなんだけど~」

 

 オークは解体するのが面倒で、片っ端から〈ストレージ〉に入れていく。

 肉が脂身が多くて美味なので、冒険者ギルドで解体してもらうつもりだ。

 

 おっと、気配察知に感あり。

 オークの集団がいるっぽい。

 

「あっちに集団がいるみたい。もしかしたら集落かも」

 

「よし、殲滅しよう」

 

 ミアラッハがやる気だ。

 行ってみると、やはり集落があった。

 木製の家屋がいくつか建っている。

 

 おや、一体だけ毛色の違うオークがいた。

 恐らくはリーダーだろう。

 〈アナライズモンスター〉で鑑定すると、オークプリンスと出た。

 オークの王子様?

 

「オークプリンスだって。上位種だね」

 

「え、プリンスなの? それマズくない?」

 

 ミアラッハが言うには、オークキングの子供がオークプリンスだそうだ。

 つまり、この集落以外にオークキングのいる集落があるということ。

 

 厄介そうな話になってきた。

 

 〈シャドウセイバー〉を連打してから、トドメを刺していく。

 オークプリンスはキングほどの強さはないらしく、普通に倒せた。

 

「じゃあもっと森の奥に行ってみよう。キングの集落があると思うから」

 

「うえーい」

 

 義務感に突き動かされるかのように、ミアラッハはやる気満々だ。

 オークキングが出たところで、私たちなら問題ないだろうからいいけどさあ。

 

 気配察知に注意を払っていると、オークがまた出始めた。

 近くに集落があるようだ。

 

 片っ端から倒していくと、オークチーフに率いられたオークの集団に遭遇するようになった。

 上位種が普通に活動しているのは危険信号である。

 

 とはいえオークチーフごときでは敵にならない。

 〈空牙〉を連打してオークたちを屠っていく。

 

「あ、あっちに気配多数。多分、集落だね」

 

「よし、じゃあ行ってみよう」

 

 気配があったのは、石造りの廃砦だ。

 どうやら遺跡を改修して住処にしているらしい。

 

 〈アナライズモンスター〉をしているが、オークキングは見当たらない。

 どうやら中にいるらしい。

 

「まず周辺のオークを退治してから、中に入ろうか」

 

「了解。どんどん狩ろう」

 

 数が多いので〈シャドウセイバー〉で足止めしつつ、〈空牙〉で首をはねていく。

 外の騒ぎに気づいたのか、遺跡の中からオークたちがわんさと出てきた。

 ご立派な剣を持っているのが、どうやらオークキングらしい。

 

「GAAAAAA!!」

 

 オークキングが吠えると、オークたちの動きが見違えて良くなる。

 統率種の固有能力か、厄介な。

 

 ミアラッハとともに雑魚オークを狩る。

 強くなったとはいえ、オークには違いない。

 部下がどんどんと減っていくのを目の当たりにして、オークキングは自ら剣を取って私たちの方へと駆けてきた。

 

「〈死棘〉!!」

 

 ミアラッハが魔槍を投げる。

 〈死棘〉を発動しているため、心臓目掛けて槍がぐにゃりと軌道を曲げて貫いた。

 そして手元に戻る魔槍。

 

 オークキングが瞬殺されたことで、オークたちは大混乱に陥った。

 〈シャドウセイバー〉で足を傷つけてあるため、逃げるのも覚束ない。

 私たちは遺跡のオークたちを殲滅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る