ドワーフの店がボロいのはなんでだろ?

「な、なんじゃこの生地は……」

 

「マギシルク。こっちはホワイトドラゴンの薄皮。ねえ、これ防具にできそうな職人知らない?」

 

「知らんことはないが……これを持ち込むのか? 加工費も結構なもんじゃぞ」

 

「あー……払えるかな? 幾らくらいすると思う?」

 

「素材持ち込みじゃから、……片方だけでも金貨50枚といったところか」

 

「両方で金貨100枚? なら払えるかな」

 

「……結構、稼いでおるようじゃな」

 

「まあね」

 

 師匠にふたつの生地を見せる。

 どうやらドワーフの防具屋を知っているらしいので、紹介してもらうことにした。

 件の防具屋はすぐ近くにあるという。

 

 ややボロい店だ。

 師匠のとこもそうだけど、ドワーフの店がボロいのはなんでだろ?

 

「師匠、なんでドワーフの店はこんなボロいんですか?」

 

「わしら、気に入った客にしか売らんからなあ」

 

「収入が少ないんですか……品質は良いのに」

 

「使いこなせるもんが少ない。嘆かわしいことにな」

 

「そっか……」

 

「おおい、ヒルダおるか?」

 

 店から出てきたのは、女性ドワーフだ。

 店に並んでいる防具はどれも品質が高いことが伺える。

 期待できそう。

 

「ハーキムかい。何の用だい」

 

「上客を連れてきたぞ」

 

「……そっちのお嬢ちゃんかい。銀ランクか……」

 

「持ち込みの素材みたら、ぶったまげるぞ」

 

「?」

 

 首をかしげるヒルダの前に、ふたつの生地を並べた。

 

「ちょ、なにこれ。ホワイトドラゴンの薄皮?! こっちはマギシルクじゃないか!!」

 

「迷宮産です。あ、錬金術でちょっと強化してありますけど」

 

「なんだい、あんた錬金術師かい?」

 

 師匠が「錬金術までやっておるのか? わしは鍛冶を教えておるぞ」と半目になって言った。

 

「なんだい、ご同業かい」

 

「いやいや。私、本業は冒険者ですから。これで防具作って欲しいんです」

 

「ふうん。いま使ってる防具は?」

 

「普段着です。鎧って動きづらくて」

 

「危なっかしいね。よしじゃあ服だね」

 

「あ、マギシルクの方は私の服ですけど、ホワイトドラゴンの薄皮の方は相棒の服にして欲しくて」

 

「ん? その相棒は?」

 

「いまいませんけど。いりましたか?」

 

「イメージが分からないと服のデザインがねえ……」

 

「じゃあ明日、連れてきます」

 

「そうしとくれ」

 

「で、おいくらになりそうですか?」

 

「一枚、金貨50枚ってとこかねえ」

 

「なら大丈夫です」

 

「銀ランクだろう? 稼いでるねえ」

 

「えへへ」

 

 素材を預けて、私は師匠の工房に戻り、ミスリルのインゴットを取り出した。

 

「これで解体用のナイフを打ちたいんですけど」

 

「ミスリルか。純度が高すぎるわ。鋼をベースにせい」

 

「そうか。柔らかすぎるのか」

 

「解体用のナイフも短剣の派生じゃ。鋼で何本か練習してからにしろ」

 

「はあい」

 

 ミスリルを扱うということで、アダマンタイトのハンマーと鉄床を使わせてもらうことに。

 別に鋼セットで打つこともできるが、実用品ならより高い品質にすべきだ。

 道具で品質が変わるというのなら、アダマンタイトのセットで打つべきだろう。

 

 二本打って合格が出たので、ミスリルと鋼の合金で解体ナイフを打った。

 ミスリルがだいぶ余ったので、私の分も打っておく。

 ウィンドカッターで解体できない魔物だっているかもしれないのだ。

 

 それでも半分近くミスリルが余ったので、師匠に渡しておく。

 

「ぬう。わしがもらいすぎな気がするのう」

 

「あ、じゃあ魔法付与を教えて下さい」

 

「なに? クライニア、お前、そんなスキルまで持っておるのか!?」

 

 というわけで解体ナイフに魔法を付与することになった。

 切れ味を上げる〈シャープネス〉の魔法を付与する。

 普通に魔法を使うのと同様だが、スキル【魔法付与】を発動しながらだと永続効果となり完成品に付与がかかる。

 

 二本ともに〈シャープネス〉をかけて、私の愛剣にも付与しておきたくなったので〈ストレージ〉から取り出した。

 

「これにも付与したいんですけど、何がいいですかね」

 

「武器か……アダマンタイトの剣じゃな。悪くない品じゃが、こんなものを振り回しておるのか?」

 

「闘気法がありますんで」

 

「ふむ……こだわらないなら〈シャープネス〉じゃな」

 

「こだわるなら?」

 

「さらに重くする〈ヘヴィウェイト〉も選択肢に挙がるか。じゃが重力属性の魔法だぞ。お前は使えるのか?」

 

「あ、使えます。使ったことないので試し撃ちしたいですけど」

 

「重力属性まで持っておるのか……時空属性もあるじゃろ。お前、一体なんなんじゃ」

 

「いやだなあ。師匠の弟子ですよ」

 

「優秀な弟子じゃ。〈ヘヴィウェイト〉を付与できるようになったなら、わしの作品にも付与を頼む」

 

「はーい」

 

 私は何度か〈ヘヴィウェイト〉を練習してから、アダマンタイトの剣と、師匠の作品数点にも魔法付与をする。

 

 翌日、ミアラッハを連れてヒルダの店に行くと、もう私のマギシルクの服が出来上がっていた。

 美しい光沢のある黒。

 うん、いいね!

 

「おやそっちの子も美人だね。ふうむ。よしイメージが湧いた。もう行っていいぞ」

 

 私の分の服を受け取る。

 サイズは自動補正されるので、採寸は不要らしい。

 さすがドワーフ、腕が良すぎる。

 

「あの、これに魔法付与したいんですけど、何がいいですかね?」

 

「魔法付与!? そんなスキル持ってるのかい。ならそうだねえ……〈リジェネレート〉や〈クレンリネス〉かねえ」

 

 なに言ってるんだこいつ。

 〈リジェネレート〉は部位欠損を治す治癒魔法だ。

 ほいほい使い手のいる魔法じゃない。

 まあ私は使えるけどさ。

 永続で〈リジェネレート〉をかけると、服に再生能力がついて破壊されづらくなるとか。

 なお〈クレンリネス〉は永続でかけると汚れなくなるらしい。

 

「じゃあ〈リジェネレート〉をかけます」

 

「なに!? 使えるのかい!?」

 

「自分で言っておいて……」

 

「いや、だって部位欠損を治癒する魔法だよ? そんな高位の光魔法を……」

 

「ただ、使ったことないので、どっか端切れかなにかで試したいんですけど」

 

「いいよ。今もってくるから。あと私の作品にもお願いしたいんだけど……」

 

「いいですよ」

 

「そうかい!! ならお代は返すよ!!」

 

 加工費用が全額タダになった。

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