ただし顔がハニワ。

 レブリック邸から外に出る。

 暗いので暗視の魔法〈ナイトウォーカー〉を自分にかけた。

 シンと静まり返った街をひとり、歩く。

 馬を借りるのは無理だ。

 そもそも門が閉じているんだよなあこの時間。

 

 幾つかの魔法を思い浮かべながら、街壁の方へと歩いていく。

 

 魔物から住民を守るための街壁は高い。

 闘気法で強化した身体能力でも、飛び越えることは叶わないだろう。

 さてどんな魔法がいいかな。

 幾つか候補があるが、ここは一発、便利なのを試してみよう。

 

「〈テレポート〉」

 

 奇妙な浮遊感を感じた瞬間、気がつけば私は街壁の上に立っていた。

 成功だ。

 転移魔法もあっさりと使えるとは……私って魔法の天才?

 

 闘気法を起動して街壁から飛び降りる。

 〈テレポート〉はなかなかに魔力を消費した感覚があったので、乱発は控えようと考えてのことだ。

 まあ二回で魔力が枯渇するようなことはないだろうけど。

 

 街道は目立つので、しばらくは街道から外れて進もうと思う。

 しかし馬がいないのはキツいなあ。

 徒歩では私の失踪に気づいたレブリック家の捜索の網にかかりそうだ。

 

 逃げてばっかだけど、命かかってるんでね。

 

 馬を生み出す魔法とか、あればいいんだけど。

 いやまったくないわけじゃないんだけどさ、ゴーレム馬を生み出す魔法があるはずなんだけど、さすがになんて魔法かまでは知らないのだ。

 

 とはいえ、そんな複雑な呪文じゃないと思う。

 だから一回だけ、試してみよう。

 

 土でできた、馬の形をした、ゴーレム。

 持続時間は丸一日ってところか。

 性能は生身の馬と同様、ただし疲れ知らず。

 飼い葉もいらず、水も飲まない。

 そんな存在をプリーズ!!

 

 地面に手を置いて、念じる。

 

「〈クリエイトゴーレム〉」

 

 果たしてそれは成った。

 

 地面が隆起して、馬の形をしたゴーレムが生まれる。

 ただし顔がハニワ。

 ああ造形力の無さがここで出たか。

 布の錬成のときも思ったけど、私にはそこら辺のセンスが無いらしい。

 

 ともあれ無事にゴーレム馬が完成した。

 喜ばしい。

 呪文が合っていたのか、それともイメージ力で無理やり魔法を発動したのかは不明だけど、多分、呪文はこんな感じで合っていると思う。

 ただ魔力は結構、もってかれた。

 〈テレポート〉と同じくらい。

 ただそれでもまだ枯渇には程遠いという感覚はあるので、ほんと私の魔力量、どうなってるんだろう。

 

 ゴーレム馬に乗り、発進させる。

 背中に馬具が生えているので、乗り心地もレンタル馬と変わらない。

 

 馬のレンタルを今後、しなくて良くなったと考えれば今回の実験は素晴らしい成果をもたらしたと言える。

 お金も消費しないし、地属性ってほんとチートよな。

 

 レブリック領の地図を脳裏に思い浮かべながら、私はゴーレム馬を走らせた。

 

 * * *

 

 朝日が昇る。

 きっとレブリック邸は騒ぎになっていることだろう。

 すまんアリアガット。

 私は追われている身なのだ。

 

 ゴーレム馬は快適で、街道から外れた茂みもなんのその。

 

 街道から外れているため、魔物にも遭遇する。

 今回の経験値、もとい魔物は、ショックサーペントくんです。

 噛みつきに雷属性の追加ダメージがあり、麻痺もおまけで付いてくるという厄介な大蛇ですが、距離のあるところから〈マジックアロー〉で頭部を射抜いてやりました。

 やっぱ魔法って偉大だな。

 

 素材は確か、牙と皮と肉だったかな?

 牙は小さいし場所を取らないので確保。

 首を〈ウィンドカッター〉で落として、闘気法で強化した手で皮をベリベリと剥く。

 ショックサーペントは黒と黄色の綺麗な警戒色カラーだ。

 さて肉はどうしようか。

 処理の仕方が分からない。

 もったいないけど捨てていこう。

 

 牙と皮は〈クレンリネス〉してから布に包んでカバンにポイ。

 再びゴーレム馬に乗って、先へ進む。

 

 目標はふたつ先の村だ。

 ひとつ先だと確実に見つかる。

 ふたつ先も微妙なところだが、馬もなしに徒歩でふたつ先の村に移動したとは思われていないだろう。

 多分ね。

 

 ポクポクと進んでいると、ホーンラビットを見つけた。

 闘気法で身体強化しているせいか、視力がめっちゃ良くなってるんだよね。

 だから距離があっても発見できる。

 

「〈マジックアロー〉」

 

 シュバ!

 

 ホーンラビットは、飛来する〈マジックアロー〉に反応して逃れようとしたが、追尾性能のある矢はキッチリ胴体を貫いてくれました。

 さすが基本攻撃魔法、使い勝手が良すぎる。

 

 ホーンラビットはやはり首を〈ウィンドカッター〉で落として、皮を剥ぎ、解体して肉にする。

 内蔵は捨てて肉は少しここで食べていこう。

 

 〈ストレージ〉に食べない分の肉を仕舞い、後ろ足の肉を〈ファイアボール〉で炙って焼く。

 〈クリエイトソルト〉で塩を少々振りかけたら、完成だ。

 美味しく焼けましたー。

 

 かぶりつくと、プリプリした身とジュワっと肉汁が出て美味。

 よし、この調子で経験値を稼ぎつつ、先へ進もう。

 

《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス グラップラー レベル 13

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【剣技】【魔力制御】

     【魔法範囲拡大】【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》

 

 ステータスを確認。

 魔物二体で7レベルも上がってる。

 凄いぞ【経験値20倍】。

 

 格闘で戦っていないため、スキルは増えていないのはややもったいないか。

 これは〈マジックアロー〉さんが優秀すぎるので仕方ないね。

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