猛烈に会いたくない。

 追手を退けて力が抜けた。

 

 気を張っていたのもあるが、闘気法をずっと纏っていたのもある。

 というかよく魔力が切れなかったな、私。

 もしかして魔力、凄く多いんじゃないの。

 

「よし、とっととイスエンド領から出ないと」

 

 馬に乗る。

 もう追手が来ないと分かってはいるけど、この領地でクライニアの名を名乗るのは目立つのだ。

 小銭はあることだし、とっとと隣の領地に行くべきだね。

 

 日のある間に街についた。

 馬を返却して、宿を取る。

 記帳には偽名を使った。

 

 翌日、また馬を借りて隣の領地へ向かう。

 川を渡ればすぐ隣の領地である。

 関所などはない。

 こんな田舎で通行税を取ったりしたら、誰も通らなくなる。

 

 差し当たっては、旅費を稼ぎながら隣国に脱出するのがいいだろう。

 国内ではどうしても貴族の目が気になる。

 貴族院に通っていただけあって、同年代の貴族の子女とはそれなりに親交があったりもするので。

 隣の領地に来たからといって、すぐに私のことを誰も知らないというわけにはいかないのである。

 

 ちなみにイスエンド男爵領の隣、ここレブリック男爵領の領主一家とは家族ぐるみの付き合いがある。

 目立てば、遭遇する可能性が高い。

 

 女のひとり旅は目立つ。

 せめてもう少し冒険者らしい格好になるか、パーティを組まないと奇異の目で見られる。

 とはいえ先立つものはないし、このレブリック領でパーティメンバーを探すのは無理だろう。

 田舎だもの、ロクな冒険者がいないに違いない。

 

 とにかく方針としてはまず国外脱出。

 そのための旅費を稼ぐ。

 あと装備とパーティメンバーの充実。

 こっちは急がないけどね。

 

 街に入ろうかというところで、門の上から声がかかった。

 

「イスエンドのお嬢様じゃありませんか!」

 

「…………こんにちは」

 

 あちゃあ。

 レブリック領の顔見知りの騎士だ。

 私が通るときに限って、どうして門の上にいるかなあ。

 

 階段を駆け下りてきて騎士は一礼した。

 

 こそこそと私は胸元の冒険者タグをシャツの中に入れて隠す。

 ここはトリストフとセルジャックには悪いけど、イスエンド男爵家の長女として通ろう。

 その方が怪しまれない。

 多分ね。

 

「おひとりですか?」

 

「そうよ」

 

「え、本当に?」

 

「そうよ」

 

「いやいやいや。何があったんですか」

 

「大したことはないわ。通るわね」

 

「あ、ちょっとお待ちください!!」

 

 馬を進ませようとしたが、前に立ちはだかられては馬も歩みを止めざるを得ない。

 

「ちょっと。邪魔よ」

 

「いや、お待ち下さい。本当におひとりで? でしたら迎えをやりますんで」

 

「……迎え?」

 

「はい。アリアガット様をお訪ねになられに来たのでは?」

 

「……そうよ」

 

 嘘だけど。

 アリアガット・レブリックは同じ年の幼馴染である。

 確かに私がレブリック領に来る名目としては、彼女を訪ねてきたというのが、相応しいのだけど。

 猛烈に会いたくない。

 

 仕方がないので、馬を兵士に預けて、私はアリアガットの家の方へお邪魔することになった。

 何故こうなったし。

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