怪しげな影
ヘルトとの図書館から数日が過ぎ去った。
ロゼッタに言っていたことだが、バージルから直々にロゼッタの社交界デビューにお城を開催場として設けたらどうだ、と話を振ってくれライリーは二つ返事で承諾した。
いよいよ今夜ロゼッタは貴族社会へ足を踏み入れる形となる。
ロゼッタは幾度となくダンス、礼儀作法を重ねた結果淑女らしく成長した。
今夜の主役となるロゼッタは夜まで時間があったため、バージルのお城へと馬車を使って向かいメアリー、メアリーゼとのどかな昼過ぎお茶会を嗜んでいた。
「びっくりでした! まさかメアリーゼ様がバージル様とメアリー様のお母様だったなんて!」
「うふふ。ロゼッタちゃんも、もう私の娘みたいなものよ。こ~んなに可愛い子を見つけたバージルにはいっぱい褒めてあげなきゃいけないわね~♪」
「うわ~。それ絶対バージル兄様嫌がると思うよ。それよりさ、今日はこの3人でお茶会出来てあたしめっちゃ嬉しいっ! 何する!? ずっとこうやって座ってるのもなんだし身体動かしたくない?」
3人でガゼボ(あまずや)でお茶会をしていたがメアリーはどうやらじっとしているのが嫌になってきたのかソワソワと忙しなくしていた。
すると甘ったるい寒気を感じる声が3人の方へ放たれた。
「ロゼッタちゃん~♪ んもうっ! ワタシを置いて行くなんて酷いわー!」
声のした方へ3人は目を向けた。
そこには地獄絵図と表現した方がいいのか、マトリックが俗に言う女の子走りをしながらこっちへ向かってきていたのだ。
「マ、マトリック様!? どうしてこちらに?」
「今日はロゼッタちゃんの正式な社交界デビューよ! ワタシも一目でいいから見たいに決まってるじゃない~♪ あら? ごめんなさいね~、ご挨拶が遅れちゃって! ワタシはマトリック・アンドリュー貴女方のお名前を伺ってもいいかしら?」
「私はメアリーゼ・ディラルドよ~。この子は私の娘のメアリー。それとマトリック様なんて素敵なお肌なの。是非ともその秘訣教えて頂けないかしら~。」
「あら~ん! お褒め頂けるなんて光栄ですわっ! 是非ともお教え致しますわよ~♪」
美肌について語り出してしまった二人にロゼッタとメアリーは置いてけぼりな状況になってしまい離れる事を選んだ。
◇◇◇
二人でお城を探索した後、ロゼッタは夜の舞踏会のための支度へ取り掛かった。
湯浴みをし、ジャスミンの香りが緊張をしていたロゼッタの気持ちを少し和らげてくれた。
見に纏ったドレスは華やかで人目を引く赤色だ。
装飾小物には可愛らしい造花や色鮮やかな宝飾品、袖口や裾にはふんだんにレースがあしらっていた。
「ロゼッタいるか? これよかったら今夜つけろよ。」
舞踏会への支度中のロゼッタの元へ訪れたバージルは青色をしたネモフィラの綺麗なブローチを渡してくれた。
「こんな素敵な物頂いても宜しいのですか?」
「ああ。ロゼッタの赤色のドレスにぴったりだろ?」
「バージル様っ! ありがとうございますっ! 早速付けさせて頂きますねっ。花言葉は…あー、ごめんなさい。また図書館で調べさせて頂きます!」
「俺は知ってけど頑張って探せよっ。んじゃまた後でな。」
「え? 知ってるなら教えて下さいよー…!はい、また後でお会いしましょう。」
ロゼッタの髪が乱れないように優しくポンポンと叩き去って行った。
(ふふふ、バージルさん本当にお優しい人だ。可愛いブローチ貰っちゃったし、後でしっかりお礼言わなきゃ!よし、お淑やかにやってやるぞー!)
ズカズカと歩みかけたロゼッタだったが、こほんと咳払いして気持ちをすぐ様切り替えお淑やかなご令嬢らしく振る舞い舞踏会会場へとオリビアと共に向かった。
舞踏会会場へと入る大きな扉の近くには三つの影があった。
目をよく凝らしてみるとライアンとライリー、マトリックまでも一緒だった。
「あれ? ライアンっ! ライリーお兄様っ! それにマトリック様まで!? もうこちらにいらっしゃってたのですねっ!」
「あら~ん♪ ロゼッタちゃんなんって可愛いの! これじゃあ他の男共も放っておかないわね~! いいロゼッタちゃん? もし、しつこい男がいたらワタシに言いなさい。容赦なく叩きのめしてやるわっ♪」
笑顔で腕っ節を見せながら怖い事を言うマトリックに皆空笑いになってしまった。
「マトリック許可はするが程々にしてやりなさい……。ロゼッタ、またさらに綺麗になったなっ。なぁ、ライアンもそう思うだろ?」
「ああ。似合っている。ロゼッタ? そのブローチはどうしたんだ?」
ロゼッタの胸元にはキラリとした青いブローチがあったためライアンはどうやら疑問を思ってしまったらしい。
「あ! こちらはバージル様から頂きましたっ! 綺麗ですよね~!」
「“アイツ”か。ロゼッタ、あんまり近づくんじゃないぞ?」
「……え? どうしてですか? 悪いことなんて何もなされていませんが? 」
「まぁ、ロゼッタは詳しく知らなくていい事だがディラルド家は魔力に執着しているらしい。だから不用意に近づくな、いいな?」
ライアンの口から呟かれた言葉に対しロゼッタはどこか引っかかっりを感じてしまった。
魔力に執着している? あのバージル・ディラルドやディラルド家の者達がだ。
ロゼッタ自身少ししかディラルド家の者と関わっていないがそんなに魔力に執着するような人達には思えなかったのだ。
「え、ええ……。わ、わかりました。それ、じゃあいよいよ社交界デビューですよね! はぁ~…緊張が止まりませんっ。」
「大丈夫だ。ほら行くぞ。」
ライアンが扉を開けまずライリー次にロゼッタの順で室内へと入った。
マトリックはといえば、また後で会おうと話しをつけ先に屋敷へと帰って行った。
室内へ入り目に引いたのは大きな輝くシャンデリアがいくつもぶら下がっていた事だ、お屋敷である物とは比べ物にならないほど大きく輝いていた。
階段を一歩、一歩と降りていくと貴族の方々が一斉にロゼッタを見つめた。
「アドルフ国王様、この場を設けて頂きありがとうございます。今宵この場に集まって下さった方々、誠にありがとうございます。グディエレス家のロゼッタ・グディエレスをこの場でご紹介をさせて頂きます。ロゼッタ、挨拶を。」
「ロゼッタ・グディエレスと申します。皆様この度はご集まり頂きましてありがとうございます。さぁ、今夜は皆さんで舞踏会を楽しみましょう。」
皆へお淑やかに頭を下げて名乗りあげた。
ーーパチパチッ。
ーーパチパチパチッ。
周りから歓迎の拍手が送られロゼッタは正式に貴族社会へと足を踏み入れた。
すると我も我もとダンスを申し込む者が溢れ出てしまった。
「ロゼッタ様はじめまして、俺と是非お相手お願いできますか?」
「私ともお願いしたいです。」
「ええーと! ご誘いありがとうございます。うわっ……! バ、バージル様?!」
急に現れたバージルはロゼッタの手をグイっと引っ張り寄せ他の貴族達へ睨み牽制をかけた。
「悪りぃな。ロゼッタはもう俺と相手すんの決まってんだ。ほら、行くぞ。」
「え? はい? ちょ、ちょっとバージル様! 何も聞いていませんが!?」
「今決めたからな。」
バージルに中央まで引っ張られる形となってしまった。
周りからは注目の的となってしまう。
「バージル様この場で言ってしまってすみません…頂いた綺麗なブローチありがとうございました! 周りから見られる緊張もありますが……ここはいっちょみんなに私達のダンスを見せつけちゃいましょう!」
「いいぜ、その意気だ。」
ロゼッタとバージルは優雅に楽しくダンスを皆へ見せつけ魅了させた。
その後も何度も二人でダンスを楽しんでしまうのだった。
「ロゼッタ、僕と踊って頂けますか?」
「ラ、ライアン!? はいっ! 勿論お受けいたしますっ!」
「ふっ。相変わらずの笑顔だな、ロゼッタは。それとどんだけダンスが上手くなったか楽しみだ。」
「ふっふっふ! ライアンも驚くぐらいダンス成長しましたからっ!」
ライアンから手を引かれた場所はバルコニーだった。
冷たい夜風がザァーと吹いてダンスで熱っていた顔や身体が楽に感じた。
(冷たい風が気持ちいいな~、ライアンも人混みから離れたかったのかな?)
ちらりと真横にいるライアンを見やると彼も夜風にあたかったのか、一息ついているように感じた。
「さぁ! ライアンっ! 私とダンスして下さいっ!」
「そうだな、どれほど上手くなったか楽しみだよ。前の時は足は容赦なく踏むわ、頭突きまで食らわせられたからな。」
「うっ……! その話は封印して下さいー……!」
「いーや。ずっと覚えておく。ほら、ロゼッタ手を。」
「あ、はい…!」
前の舞踏会ではバルコニーでバージルとダンスだったが今回はライアンとのダンスになった。
(今度は踏まないよう気をつけなきゃっ!)
「……! ロゼッタやるじゃないか。」
「えへへ、いっぱい練習しましたから~! でもライアンの方がお上手です! またご指導お願いしますねっ!」
「ああ。このまま曲に合わしてラストスパートまで踊るぞ。」
「はいっ!」
予想外な相手だったライアンとロゼッタは音が終わるまで踊り明かしてしまうのだった。
◇◇◇
お城の舞踏会は何事も起こらず無事に終わりロゼッタ達はグディエレス家へと戻る事となった。
馬車に長いこと揺られながらだったが、気がつけば屋敷へ戻り寝支度をし皆自室へと向かった。
ロゼッタの自室前でライアンとライリーと少しだけ語る事となった。
「ロゼッタ、今日は僕との相手ありがとうな。楽しかったよ。」
「ふふふ。ライアンからありがとうや楽しいって聞けて嬉しいですっ! あのまた….…私と踊って下さいますか?」
「当たり前だろ。つーか、兄貴何で泣きそうな顔なんだ?」
「ライアンばっかりズルいじゃないか~! 俺もロゼッタと踊りたかった…!」
「は? そこかよ!? はぁ~……ロゼッタまた兄貴とも踊ってやってくれ。」
「あっははは……ごめんなさい、ふふふふ! 私ライアンとライリーお兄様と家族で良かったなって心の底から思っちゃいました! ライリーお兄様また私とお相手お願いします!」
「ロゼッタ~……! 勿論だっ! さぁ今日は二人とも疲れただろう? もう寝なさい。」
流されるまま私は自室へと押し込まれライアンはライリーによってズルズルと引っ張られて行ってしまった。
(おやすみなさいって伝えそびれちゃったな~……。でも明日に会えるよね!今日は素敵な日だったなー。ヘルトさんは今回の舞踏会には姿がなかったからそこがちょっと心配だ…。)
ベッドへ入り寝ようと1時間ほどゴロゴロとしたがまだ舞踏会の熱が覚めず全然眠れそうにないロゼッタだった。
空気を変えれば寝やすくなるかと思い窓際まで向かった。
寝静まった外を見やると不思議なことに屋敷の出入り口の所に火の灯りがポツポツと見えた。
「……誰? こんな夜遅くにこのお屋敷に用事の方なんておかしいよね?」
柱時計を見やると時刻は午前2時だ。
こんな夜更けに行動する人達を不審に思ったロゼッタは直ぐに一人でも着替えられる黒いワンピースと目立ちにくい茶色の外套を羽織り動きやすいブーツにも履き替えた。
足音を立てないようにしながら少しずつ灯りのある方へと近づいていく。
ギリギリ気付かれない草木に紛れ声のする方へ耳を傾けた。
「……ヘルト! もう行くぞ。」
「わかっていますよ。ライアンも酷い人ですね~、ロゼッタ様達が寝静まった時に動くなんて。」
「うるさい。ほらとっとと今夜こそ“アレ”を解読してしまうぞ。」
(ライアンさん? ヘルトさんまで……“解読”って何のことなの……?)
馬に乗り二人はある場所へと向かい駆け出していってしまった。
(わ、私もついていこうっ!馬なら私も乗れるし二人の後を追いかけてみよう。一体何がどうなってるの……。ライアンさん貴方はヘルトさんの味方なの……?)
夜風のように吹き荒れるザワザワとした不安がロゼッタの心を掻き立てて止まなかった。
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