ヘルトと共に図書館へ
陽がガラス窓から差し込みロゼッタは虚ろながらも目を覚ました。
「んんー……あれ…? もう朝か。」
目をゴシゴシとかき覚めない頭と身体を動かしながら湯浴みをすればスッキリするかと思いロゼッタは部屋から出てバスルームへとおぼつかない足で歩んでいく。
「おや? これはこれはロゼッタ様ではありませんか?」
真後ろから知らない男の声が聞こえロゼッタはまだ夢の中なのか?と思い至った。
が、しかし夢の方がよかったと思える相手がロゼッタの目の前に現れたのだ。
(あれ?この人って確か…!)
「僕の事覚えてますでしょうか? “ヘルト”です。あの舞踏会ではロゼッタ様とダンスをさせて頂きたかったのですが、上手いこと合わず仕舞いでしたね。もし良ければ次の舞踏会ではお相手お願い致します♪」
(ヘルトさん!?なんでこのお屋敷に!?どうゆうこと?)
「な、んで……貴方がここにいらっしゃるのですか……?」
急なベルトの登場に緊張と恐怖で蒼ざめ心臓が早鐘のように打った。
それを落ち着けるためナイトドレスを強く握った。
「ん?あー! そんな不審がらないで下さいよ~。貴女のお兄さん、ライアンと僕は友達でしてね。彼は昨晩遅くまで勉学に勤しんでいたのですが……それのせいか明け方に体調を悪くされてしまいましてね。なので彼をここまで僕が送らせて頂いたのです。」
(ライアンさんとヘルトさんが親友…?嘘…!?と、とにかくライアンさんの部屋に行かなきゃ!その前に着替えなきゃダメだよねっ!?)
よくよく考えればナイトドレスの姿のままへルトの前へ現れた事に恥ずかしさが勝りロゼッタは一言謝りまた自室へとすぐに駆け戻った。
(と、とりあえず整理しよう…。まずライアンさんとヘルトさんは親友でしかもおんなじ大学に通ってるって事!?もうー!!ライアンさんこんな重大な情報なんで言ってくれなかったの…!)
頭を抱え一瞬悲鳴を上げそうになったが声を出すと周りが心配するだろうと少しだけ冷静になる。
「一先ず、着替えてからライアンさんの部屋に行こうっ! 体調が悪くなったって言っていたし。ライアンさん大丈夫かな。」
オリビアに着替えを手伝って貰い不安を募らせながら急足でライアンの部屋へと赴いた。
◇◇◇
「ライアン、大丈夫ですか!? 体調を悪くされたと伺いましたが……!」
ロゼッタは部屋へと入ることを少し躊躇ったがライアンの安否を確認する事を優先し、勢いよく扉を開けた。
「ロゼッタ……! 急に入ってきたからびっくりしたじゃないか。悪いな、ヘルト騒がしい妹で。」
「ふふふ、そんな事ありませんよ。ロゼッタ様そんな所に突っ立ってないでこちらにきて一緒にお茶でもしませんか?」
ライアンはまだ体調が優れないのかベッドに横になっており、ヘルトは近くの椅子へと腰掛け二人でどうやら話をしていた様子だった。
「さ、騒ぎたくもなりますよ! ライアン今日は無理せずゆっくりと休んでください。いえっ! それよりヘルト様はお帰りにならなくても宜しいのですか?」
遠回しに早く帰ってくださいとアピールしたがヘルトは眩しいほどの笑顔で居座ると言い出した。
(うっ……!ヘルトさんが屋敷にいるだけで生きた心地がしない…!)
「僕は少し横になれば大丈夫だから。そうだロゼッタ。ヘルトに街を案内してやってくれないか?ヘルトもこの前街を案内してほしいと言っていただろう?」
(なっ……!なんでそうなるの!?)
予想外の事を口走ったライアンの言動にロゼッタ目を
「おやっ! ライアン、それは良い提案ですね♪ロゼッタ様宜しくお願いします! さぁ、ほら行きましょう~。」
ヘルトは手をポンっと打った後、ウキウキとはしゃぎながらロゼッタの手を引きライアンの部屋から出てしまう。
(ライアンさん…!助けてー!この人を私に預けないで下さい~…!)
勿論ロゼッタの苦難の心の声が届くはずもなく結局ヘルト共に街へ出る事になってしまった。
(これはチャンスかも?だってヘルトさんについて色々知れる機会だし。うん、そうだっ!こうなったらヘルトさんの事色々知ろう!)
どんよりと落ち込んでいた気持ちを無理やり
「ヘルト様っ! まず何か見たいものはありますか?」
「見たいものですか? ライアンからこの街のマートン図書館が素晴らしいと伺ったのでそちらにまずは行ってみたいです♪」
「ああ! 図書館いいですね、私も一度しか行けてなかったので色々見たいなと思っていました!それじゃあヘルト様時間も勿体ないですし、行きましょう!」
馬車を使いカイザラル国一番といわれるマートン図書館へと足を運んだ。
(前にも一度だけ来たけど落ち着く場所だな~!)
木で出来た大きな扉をくぐると息を呑むほどの広さだった。
バロック様式で出来たマートン図書館には天井や壁に施された装飾と木彫にも目を奪われるほど美しく中でも目を引くのが螺旋階段だ。
3階建てと大きな広さなため階段は幾つかありそのうちの一つに大きな螺旋階段が施されていた。
「これはこれは……!予想していた以上に大きい図書館ですね! ロゼッタ様少し見て回ってきても宜しいでしょうか?」
図書館の広さに驚きを隠せないヘルトは本への好奇心が勝ったのか、ソワソワとしていた。
「いいですよっ! 私も色々見て回りたいと思っていましたので。また閲覧室でお会いしましょう!」
「はい。それではまた後で!」
二人はバラバラに行動し興味のある本へと足を運んだ。
(魔力について詳しく調べたいなっ!まずは本を探さなきゃ!ヘルトさんの事はまた後で色々探ってみよう。)
「えーと、どれがいいかな~! 初心者でも分かるような……これとか良さそうかも。」
ロゼッタが手に取ったのは幼い子でも簡単に理解出来る学本だった。
他にも魔力について詳しく書かれた本も数冊持ち閲覧室へと向かった。
「あ……。まだヘルトさんは本を選び中なのかな?先に読ませて貰おう。」
居心地の良い閲覧室はまさに本を集中して読める最適の場所だ。
まだ朝な為陽当たりが良く窓際の場所を選んでよかったと思い、幸運な事にロゼッタの周りにはあまり人もおらずゆっくりと読める空間であった。
※《魔力》 それは貴族のみが受け継がれる力だ。
種類は以下である
【火、水、緑、土、風、光、闇】但し【闇】のみは詳細不明。
力の強さは上位貴族によって変わる。
(こんなに魔力に種類あるの!? それに【闇】だけは詳細不明ってどうゆうことだろう……? もしかして、私のこの力が闇だったりするのかな?わからない。ヘルトさんは闇だから私の魔力を欲しがったのかな?)
モヤモヤとした気持ちの悪い考えがロゼッタの頭の中をぐるぐると混乱させた。
だがその混乱をかき消すように不意にヘルトはロゼッタの前へ現れた。
「ロゼッタ様? 大丈夫ですか?」
「あ、ヘルト様……! 本は見つかりましたか?」
「ええっ! 立ちながら読んじゃいました~!ロゼッタ様は、魔力について学んでいらっしゃったのですね……。」
机に並べていた本を見やったヘルトはどこか薄暗い顔をしたがすぐにニコニコと笑いロゼッタの向かいあって椅子に座った。
「立ちながら読まれたのですか!? 何を読まれていらっしゃったのですか? はい! 魔力の根本的なものがわかっていないのでそれを学ぼうと思いまして。」
「読んだ本はそうですね~、まぁ歴史関連です♪ロゼッタ様は魔力についてあまり知っていらっしゃらなかったのですね。実は僕、魔力を持っていないのですよ~。」
(ん……?ヘルトさん魔力ない? え!? ライアンさんと一緒って事……?)
ケラケラと笑いながらサラッと爆弾発言をした彼にロゼッタは目をパチパチと瞬き驚いて声も出なかった。
「だから僕は魔力がない代わりに大学に行って学べって言われてしまいましてね。
僕の兄弟2人いて、兄と弟がいるのですがその二人がまぁ、出来が良くて魔力も水、緑と強くて何も魔力も持たない僕は出来損ないって言われちゃいましたよ~!」
「あ、だからライアンと大学に出逢って仲良くなった。という事だったのですね。」
「はいっ、正解です♪ まぁ魔力が全てではないですからね~。それとすみません、ロゼッタ様ちょっと急用が出来てしまいまして、また次の舞踏会で今度こそは僕と踊ってくださいね! 確か開催される場所はバージル殿のお城だったはず…。それでは今日は少ししかお話し出来ませんでしたが楽しかったです♪ それでは~。」
ヘルトはそそくさと図書館を出て行ってしまいロゼッタはポツンと一人残された形になった。
(何か急ぎの事が出来ちゃったのかな?でもちょっとだけ安心した私がいちゃった…。ヘルトさん貴方はほんとにこの世界を壊そうとしている人なの?)
ヘルトの魔力に興味なさげに笑う姿が本来の彼だと思いたいロゼッタだが心のどこかにまだ引っかかりを感じるロゼッタだった。
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