ダンスを学ぶはずが、家庭事情に乱入

翌朝すっきりとした気持ちのまま起きれたロゼッタはバージルのお屋敷へ行くために支度をしていた。



ロゼッタが身にまとったのは柔らかく淡い緑に白の花柄を織り出したドレス。

袖口は窮屈さをなくした広がった物で、ドレス裾にはレースと銀糸が編まれていた。

髪型はふわりと巻いて貰い後ろに少しだけ結ったハーフアップだ。



(可愛いドレスっ!どのドレスも可愛いのばっかりで汚してしまわないか心配だ…!)



ロゼッタの屋敷へとバージルの迎えがきたのかガヤガヤと玄関ホールで声が響いていた。



(なにかあったのかな?とりあえず行ってみよう。)



玄関ホールへと向かうとギョッとする光景がロゼッタの前に広がっていた。



真っ赤に輝く色にゆらりと巻いたショートカットの可愛らしい水色のドレスを身にまとったロゼッタと変わらない歳の女の子が一人一人に全力で握手をしていたのだ。

ライアンとライリーだけじゃなくオリビアや周りにいた侍女や執事までにもだ。



ロゼッタが現れた事に彼女は気づき、ダッシュでこちらへと駆けつけてきた。



「あー!!貴女がもしかしてロゼッタちゃん?きゃー!!想像以上にめっちゃ可愛いっ!あたしメアリー・ディラルド宜しくねっ!」



興奮が抑えきれず握手だけじゃなくギュッと勢い良く抱きしめてきてロゼッタは困惑で頭がいっぱいいっぱいだった。



(め、メアリーさん!ディラルドってことはご家族さんっ!?)



「メアリー様…?あの、く、苦しいですっ…。」



見た目以上に力の強いメアリーはギチギチとロゼッタの首を絞めかけていて慌てて離れ謝ってくれた。



「ご、ごめんっ!嬉しくてついつい力加減忘れちゃった~。ふふ、あたしの事誰?って顔してる!あたしはね…バージル兄様の妹で本当はバージル兄様がロゼッタちゃんのお迎えに行く予定だったんだけど急遽行けなくなっちゃって。それであたしが志願してきたんだ~!あ!でも安心してお昼ぐらいには戻るって言ってたからっ!」



「バージル様の妹様なのですかっ!お会い出来て嬉しいですっ!ご挨拶が遅れてすみません、私はロゼッタ・グディエレスと申します。わざわざ志願してまでこちらに来てくださってありがとうございます!」



「ロゼッタちゃんったらそんな堅苦しく喋らなくても大丈夫っ!あたし達そんなに年齢離れてないしね!ほら時間も勿体無いし、ちゃちゃっと行こう~!」



手をギュッと握り馬車へと一緒に向かおうとした。



「そ、それじゃあライアン、ライリーお兄様行って参りますっ!わわっ!メアリー様!速いです…!」



「ああ、気をつけるんだぞー!」



「楽しんでおいでー!」



二人の声はロゼッタの耳に届いたようで届かぬまま馬車は駆けていった。



           ◇◇◇



馬車はガタガタと激しく揺れ乗る事1時間辿り着いたのはお屋敷という可愛らしい表現を優に超えたお城であった。



白く美しいどごまでも高い城壁に青くするどく尖った屋根、まさに王子様と王女様が住まうお城だ。



(お、王子様だからそりゃお城だよね!?)



「ロゼッタちゃん、こっちこっち!お昼まで時間あるし街に行ってみよう~、良いお店いっぱい紹介してあげるからっ!」



「え?いいのですか!?わぁ~!馬車から街にも行ってみたいな、と思っていたので嬉しいです!」



唖然とするロゼッタだったがメアリーからの素敵なご提案にキラキラと目を輝かせた。

メアリーからははぐれたりすると危ないからと手を握ってくれ二人で仲良く手を繋いだまま街へと向かった。



街は人々の活気に溢れ賑わっていた。

カラフルなオレンジ色の石畳の道を少し歩けば美味しそうな匂いをただよわせる屋台やキラキラと輝く宝石を取り扱うお店もあり観ていてウキウキと楽しい気持ちになる。



「おっ!メアリーちゃんじゃねぇか!今日はお友達と一緒かい?よかったらこれ食べな~!」



「そうっ、今日はね友達と街を少し観て回ってるのー!え!いいのっ?おっちゃんありがとうね~!はい、これロゼッタちゃんの分!」



美味しそうな匂いをただよわせていた屋台のおじさんから串に刺さった、じゃがいもを揚げた美味しそうなものをメアリーは差し出してくれた。



「私にもいいのですか!?ありがとうございますっ!美味しそうです~!」



「立ちながら食べるのもなんだし、あそこに座ろっか!ほら行こうー!!」



メアリーからまた手を引かれ人混みから少し離れた所にある石造りのベンチに二人で腰掛けホクホクな出来立てのじゃがいものにかぶりついた。



「んん~!やっぱおっちゃんの作る揚げじゃがは美味しいっ!ロゼッタちゃんも気に入ってくれるといいなー!どう!?美味しいでしょ!?」



「メアリー様すっごい美味しいですっ!このカリカリの部分がまたいいですね!こんなに美味しい物を下さってありがとうございます!」



「ふふんっ!でしょでしょ!それよりロゼッタちゃんさっきも言ったけどそんな堅い喋り方じゃなくても大丈夫だからねっ!よーし、次はどこ行こうか!」



「だ、ダメですよっ!年齢関係なくメアリー様は高貴なお方ですし、無礼にあたりますっ!」



首と手をブンブン左右に振りダメだと伝えたがメアリーは不貞腐ふてくされれた顔をした。



「ええー、でもあたしは砕けた話し方でもっともっとロゼッタちゃんと仲良くなりたいなー…ダメ?お願いー!!」



キラキラな目をしてこれでもかというぐらい輝かせ懇願するメアリーにロゼッタは負けかけていた。



(うっ…キラキラ攻撃には弱いんだよね…でもいいのかな、けどこの目には勝てない…!)



「うぅ…ううーん!わ、わかった…!わかったからそのキラキラな目を向けないでー!メアリー様には恐れ入ったよー…!」



「うっし!あたしの勝ち~!ふふん、ロゼッタちゃんまだまだ修行が足りないぞっ!さぁ、ほら次はあたしのお勧めなお店に連れてってあげるっ!」



グイッと引き寄せらせメアリーのおもむくままに従いついていった。



「メアリー様、ここは?」



「ふふ、入ればわかるよ~!」



先程の屋台が並ぶところと少しかけ離れた一角にある落ち着きのある店だった。



壁はコバルトブルーで自然と目を惹かれる色だった。

中に入るとどこからか奏でられた音色が室内を静かに響かせていた。

どこから音色が出ているか探すと手に収まる小さな銀色をした自鳴琴オルゴールから音色が流れていた。



「ここは、オルゴール屋さん。なんて素敵な音色…。」



目を閉じ小さなきりきりと音を立てて回るぜんまい式の自鳴琴オルゴールから流れ出す音色に耳を傾けた。



「どう?素敵なお店でしょっ!あたし小さな頃からこのお店が大好きでロゼッタちゃんに是非知って欲しかったのっ!」



(心が落ち着く音色だ。オルゴールってこんなに小さな物で出来てたんだ。)



「うん!メアリー様教えてくれてありがとうっ!この街は素敵なものばかりですっごく楽しいっ!」



「ふふ、じゃあ一緒に買っちゃおうかっ!おばちゃんいるー?これ2つ頂戴、これお金!」



メアリーはロゼッタの手に持っていた自鳴琴オルゴールと全く同じ物をもう一つ手に取り、ロゼッタが止めさせて貰う間も無く2つお買い上げしたのだった。



ロゼッタはお金を渡そうとしたが全力で断れてしまった。



「メアリー様こんなに高価な物を貰ってもいいの?」



「いいのー!それにね、あたしロゼッタちゃんと一緒の物を持ちたいなって思ったの!

そろそろお昼ぐらいだしお城に戻ろっか、バージル兄様も戻ってくる頃合いだろうし!それに“あの方”はきっともういないよね…。」



最後にボソボソと何かを呟いたメアリーだったがロゼッタにははっきり聞こえず疑問を浮かべたままお城へと戻った。



           ◇◇◇



お城の内装はロゼッタの住まう屋敷を超えた物だった。

天井の高さ、吊り下げられたシャンデリアの数の多さに部屋は1日かけても数えきれないほどである。



メアリーの部屋でバージルを待つ事になりロゼッタはメアリーの後をついていき着いて早々室内の豪華さに驚き目をパチクリと動かした。



(うわー!!どれも輝かしい…!ベッドなんて3人、いや4人ぐらい寝れそうなぐらい大きいっ!)



「さぁ、お茶でも飲んでゆっくりしてって!」




テーブルの上には3段のケーキスタンド、スコーンやいちごたっぷりのタルト、パウンドケーキとどれも食欲をそそる物ばかりだった。



椅子に座り侍女が紅茶を淹れてくれロゼッタとメアリーの前へと差し出してくれた。



「ありがとうございます!いい香り。このいちごのタルトも美味しそう~!」



真っ赤に輝くいちごのタルトに手をつけようとした時だった。

メアリーの部屋の扉がバンっと開き高貴な雰囲気を漂わせた白髪のおばさんが入ってきた。



「メアリー様っ!わたくしとの学びを無視しなんと不躾ぶしつけな態度です。さぁ、こちらになさい。もう一度貴女にはしつけなさなければならないようね。」



「ッ…!ミ、ミケーラ様…。ど、どうして…今日はいらっしゃらないと…。」



メアリーは一気に怯えた顔に豹変ひょうへんし彼女の顔を見るなり震えていた。



(メアリーさん…?誰かわからないけどこんなにメアリーさんが怯えるってよっぽど良くない人?)



「あのっ!メアリー様は体調がすぐれないように思います。ベッドで休ませては頂けませんでしょうか?」



メアリーを連れて行こうとするミケーラの前に立ち塞がった。



「あら?貴女はどちら様かしら?」



「失礼致しました。私、公爵家グディエレスのロゼッタ・グディエレスと申します。メアリー様は見るからに顔色が悪く感じますわ。何も本日に無理に学びをする事なくてもよろしいのではないでしょうか?」



「ふんっ。貴女には関係ない事です。ほらメアリー様いきますよ。貴女、ロゼッタさんだったかしら?この部屋で待ってなさい。いいですね。」



メアリーの腕を無理やり引っ張り部屋から二人は出て行ってしまった。



(何あれ!!おかしいでしょっ!メアリーさん、泣きそうな顔してた…。少し経って戻ってこなかったら助けに行こうっ!)



メアリーがすぐに戻る事はなかった。

1時間は経っただろう。

ロゼッタは不信に思い部屋を抜けメアリーを全力で探した。


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