ホットミルクの思い出

バージルと離れてすぐライアンと出会えたはいいがライアンの顔を見て全てを理解したロゼッタは本能に従いその場から一目差に逃れようとしたが結局捕まってしまい散々怒られてしまった。

舞踏会からお屋敷へと戻ってからも兄二人からのお説教が続いていた。



(この状況は絶対、刑事ドラマ的なやつでよくある尋問だ…!)



「ロゼッタ、僕が怒っている理由はわかっているな?」



「はい…。私が勝手に離れたからですよね。でもそれにもちゃんと訳がありましてー…というかライアンだって離れていったからお互い様な気もしないこともないような…。」



ぶつぶつとぼやくロゼッタに対しライアンは容赦なく頬をつねった。



「僕がなんだって?」



「りゃいひゃん、いひゃいれす…。」



(元はと言えばヘルトさんが急に現れるからだよっ!どうして、こんなに早く私の元に現れるのっ!)



居もしないヘルトに対しロゼッタは怒りと頬を引っ張られてるせいで可笑しな顔へとなってしまう。



「まぁまぁ、ライアンそのぐらいにしてあげなさい。ロゼッタにも何か事情があったんだろう。」



「それで僕がいない間どこで誰と何をしてたんだ?」



「えーと、まずヘルト・ラヴァート様に話しかけられてその後、色々あってバージル・ディラルド様とダンスしましたっ!バージル様ってすっごく優しくて素敵な方だったんですよ!」



(バージルさんとはもっと仲良くなりたいな~!そういえばバージルさんって何歳なんだろ?今度会えたら聞いてみようっ!早く会って色々お話ししてみたいな。)



先程の出来事はロゼッタにとってうつつを抜かすほど至福の時間だったのだ。

けれどロゼッタから語られた二人の彼の名に兄二人は血相を変えた。



(もしかしてヘルトさん事はまずかったのかな…?でも、もう言っちゃったし仕方ないよね…?)



「ロゼッタ…。」



「お前なぁ…!」



「は、はい。なんでしょう…?」



「「どうしたら王子二人に話しかけられるんだっ!」」



ライアンだけじゃなくライリーまでもが同じことを言い、ロゼッタはやはりまずい事をしたのかと冷や汗が止まらなかった。



「あは…あはは~、何ででしょうか?私にもわかりません…!」



「確かバージルってあの“冷徹王子”だよな?ロゼッタはそいつと踊ったのか?」



「はいっ!断らせて貰ったのですが、やれば大丈夫だ!って引っ張って下さって…でもそのお陰でダンスが楽しめて幸せな時間でした。」



ダンスを踊ったという事がどうやら快く思っていないらしいライアンは頭を抱えていた。

ライリーはといえば放心状態だ。



(王子様と踊る私がやっぱり悪かったのかな!?身分とかが関係しているとか…?)



「あ、あの…やっぱりこの私が王子様とダンスなんてしちゃダメだったという事ですよね…!」



「違うんだロゼッタ。踊る事は別に構わない。構わないんだが、ダンスを誘うには理由があって…。」



ライアンは事細かく舞踏会のダンスの誘い方について説明をしてくれた。



舞踏会でのダンスを誘う理由には以下の項目である。



“1回目は“あなたに興味を抱いています。



”2回目は“あなたに対して恋心を抱いております。



”3回目は“あなたさえよろしければ結婚して頂けませんか。”



以上である。



「え?えー!!なんでそんな重要な事は伝えてくれなかったんですかっ!もっと早く知りたかったです!」



「…だから次の舞踏会までには説明をしようと思っていたんだ。まぁ今度から気をつけるんだぞ。」



「わかりました。あ、それとまだお伝えしなきゃいけないことがっ!」



話は終わりだと放心状態のライリーごと部屋を出ようとしていたライアンにバージルと後日ダンスを学べる事を伝えた。



「…わかった。断ろう…今すぐ手紙を出して断ってやるからロゼッタは何も気にするな。」



どうやらライアンはバージルに対しあまり良く思っていないのか紙とペンを用意するよう侍女へと指示を出しかけていた。



「ま、待ってくださいー!私、バージル様にダンスを教えて頂きたいです!それにバージル様とはもっとお話もしてみたいんです。ダメでしょうか…?」



「ロゼッタはそんなにそいつの事が気になるのか?はぁ…わかったよ。断りの手紙を出すのはやめる。けど僕も念のためついていくからな。」



「ッ…!ライアン、ありがとうございますっ!じゃあバージル様のお屋敷にお伺いしても宜しいのですねっ!」



ご満悦というのが伝わるぐらい顔をほころばせたロゼッタにライアンは温かい眼差しを向けた。



「どうやったら経った少しの時間で身分の高い王子とそこまで仲良くなるんだ…。はぁ、じゃあそろそろ兄貴と僕は部屋に戻る。ロゼッタゆっくり休むんだぞ。」



「はいっ!おやすみなさいライアン、ライリーお兄様!」



放心状態のライリーを引っ張って出て行ったライアンを見送りロゼッタは窓際の椅子に腰掛け夜空に輝く月を眺めながらふと考えた。



(ダンスを誘うのを口実にアプローチかぁ…洒落てるな~。あれ、じゃあヘルトさんやバージルさんが私にダンスを誘ったのはそうゆう事…?それとも気のせい?)



「早くバージル様とお会いしたいな。ヘルトさんは今後どんな行動をしてくるかわからないけど結婚しないように気をつけていけばきっと大丈夫だよね…?」



考えてみようと試みたが二人の心は分かるはずもなくすぐに考えるのをやめてしまうロゼッタだった。



           ◇◇◇



舞踏会から2日が経った頃、バージルから手紙が送られてきたのだ。

内容は明日お屋敷へご招待致します、というものだった。



ロゼッタはうきうきの気分で足取りも軽くしながらライアン達へ報告をしに行ったが二人は深刻な顔をして話し合っていた。



(何かあったのかな?も、もしかしてバージル様の元へ行くな!って事!?)



「お兄様方ッ…!どうか!!お慈悲を…!」



涙目になりながら必死に祈るロゼッタの姿にお互い顔を合わせながら二人は困惑した。



「何を言っているんだ、お前は。」



「…へ?バージル様のお屋敷へ行く事をやっぱり却下する話をしていたのではないのですか?」



「違うんだロゼッタ。その事はこの際構わない。だがライアンが同行する事が出来なくなってしまってな、それで俺達は話していたんだ。」



「そうだったんですね!てっきり言う事を聞かないお前は二度とこのお屋敷から出さないぞー!って怒られるんじゃないかってヒヤヒヤしましたー…。私一人でも大丈夫ですよっ!」



手をひらひらと上下にさせ気楽に話すロゼッタに対して二人はいぶかしげな表情をした。



(何かあるのかな?私一人だと危ないから?色々やらかしてしまいそうだからかな?)



「ライアンが大学に急遽行かなくなってしまってな、それでロゼッタ一人で行かせるべきか話していたんだよ。」



「あの、確かに私はまだ15歳で幼くて周りをちゃんと観れるほどしっかりしたわけでもないです。それでも幼い頃からの人生の下積みって大切だと思うんです。色々経験して土台を固めてやっとそこでちゃんとした人になるというか…。だから私一人で行かせてください。お願いします。」



二人に対し頭を下げ伝えた言葉はロゼッタの本心だ。

ずっと甘えて生活するのはダメだとわかっているのだ。



「ロゼッタ…。わかった、そこまで言うなら僕はついていかず大学へまた戻るよ。僕はもうしばらく大学を休む予定だったけどこの分じゃ大丈夫そうだしな。兄貴もそれでいいか?」



「ああ。俺もそれで構わない。それにしても成長したな、ロゼッタ…!お兄様は嬉しいぞー!!」



泣きながら抱きしめてきたライリーに驚きつつも嬉しさでロゼッタも抱きしめ返したのだった。



湯浴みを終え明日に備え早く眠りにつこうとベッドへ入ったがロゼッタは遠足に行く子供のようにドキドキが止まらず微塵みじんも眠れそうになかった。



「あー!どうしよー!!全然眠れない…何か温かい物を飲んだら寝れるかな?」



柔らかなベッドから降りた。

毛布をごっぽり被りながらシロクマのユキくんを抱き、ゆっくりと扉の方へ歩んで行き扉をギィィーと少しだけ開け、辺りを見たが廊下には夜中のせいか誰一人おらず燭台しょくだい蝋燭ろうそくの小さな炎だけが悠々と燃えていた。



「こ、怖いー…こう見るとお化け屋敷みたいな、あははは…。大丈夫、大丈夫!こ、怖くないぞー!」



そろりそろりと抜け出し厨房へと向かおうとしたが書斎から灯がついているのが目についた。



(誰かいる?)



扉に近づこうとした時だった。

勢いよくバンっと扉は開きロゼッタのおでこを直撃したのだ。



「…ッダァ!!痛い…。」



「すまない!大丈夫か!?足音が聞こえたから誰かと思ってしまったんだ。それよりこんな夜更けにどうしたんだ?」



(あれ…この声、ライリーさん?)



しゃがみ込んだまま上を見上げるとライリーが分厚い本を持っていた。



「だ、大丈夫ですっ!それが明日が楽しみで眠れなくなってしまいまして、温かい物でも飲めば寝れるかな~?って徘徊してました。」



くしゃりと優しく笑ったライリーは入りなさいと伝え書斎室へと案内してくれた。

書斎にはたくさんの本がありロゼッタすらも読めない文字の本までもが保管されていた。



「ほら、これで打ったところを冷やしておきなさい。俺は厨房へ行ってホットミルクを作ってくるから大人しく待ってなさい。」



ライリーから洗面器で濡らして冷えたタオルを渡してくれ書斎を後にして出て行ってしまった。



(なんでもやって貰ってばっかりじゃダメだっ!)



ロゼッタはぶつけたおでこを少し冷やし、すぐにライリーの元へと駆けていった。



「おや、ロゼッタ?そんなに慌ててどうしたんだ?お腹でも空いていたのか?」



ロゼッタが追いかけくるなんて思ってもみなかったライリーは心底驚いた顔をした。



「ぜぇ…ふぅー!!違い…ます…!はぁ、厨房って思ってたより遠いですね…!じゃなくてなんでも頼ってばかりはダメだと思って!私がお持ちしますよ!」



用意してくれたカップ2つのホットミルクとクッキーを乗せた台を受け取ろうとしたがライリーは渡してくれなかった。



「ありがとう。でも危ないからこのまま俺が運ぶよ。ロゼッタはそうだな、これを持ってくれるか?」



ライリーから渡されたのはカラフルなキャンディーの入った可愛らしいガラス瓶だった。

二人は厨房から書斎へと戻り温かく甘いホットミルクを口にした。



「ライリーお兄様、ありがとうございました。手伝うつもりが結局全部運んで貰って…。このホットミルクとっても美味しいです。」



ライリーが作ってくれたホットミルクは優しい味だった。

隠し味に蜂蜜はちみつが入っていてポカポカと身体が温まり、心までもが温かく感じた。



「大丈夫だ。それに火傷でもしたら危ないからな。ロゼッタは覚えていないかも知れないが昔にもこうして二人ホットミルクを飲んだ事あるんだぞ。」



「そうなのですか!私もっとそのお話しついて聞きたいですっ!」



(幼い頃のロゼッタさんってどんな方だったんだろ!)



「そうだな、あれはまだ俺が15歳だった頃か。ロゼッタはまだ幼い4歳だったな。叩きつけるような酷い雷雨があった日の夜更けに、泣きながらお前はたまたま書斎にいた俺の元へ来たんだ。怖くて眠れない泣き止まないお前へ温かいホットミルクを作ったんだよ。」



懐かしみながら語ってくれるライリーへと耳を傾け場面を想像した。



「美味しそうに飲んでさっきまであんなに泣いていたのが嘘みたいに止まったんだ。そして笑顔でお前は“ライリーお兄様、ありがとうっ!”って言ってくれたのが今でも鮮明に覚えているよ。」



「昔の“私”にそんな事があったのですね。きっとこのホットミルクが怖さを消し去って温かい気持ちにしてくれたんだと思います。ライリーお兄様、お話しして下さりありがとうございました。」



曇りなく喜びを頬に浮かべ話してくれたことへの嬉しさと感謝を告げた。

カップを包み込むように持ちまだホットミルクの温かさを味わい幸せな気持ちが溢れる。



「こちらこそ聞いてくれてありがとう。やっぱりロゼッタのその笑顔は今も変わらないな。

さぁほら、それを飲んだらもう寝なさい。明日に響いたら大変だ。部屋まで送っていこう。」



ライリーの指示通りホットミルクを飲み干し部屋まで送って貰った。



「はいっ。それじゃあ、ライリーお兄様おやすみなさい。あまりご無理なさらないでライリーお兄様もゆっくり休んでくださいね。」



「ああ。ありがとう。ロゼッタもゆっくり寝るんだぞ。ユキくんロゼッタの事を頼んだ。それじゃあ、おやすみ。」



ライリーはロゼッタとぬいぐるみのユキくんをくしゃりと交互に撫で部屋を出ていった。



「ロゼッタさんのお話を聞けてよかった…ふぁー、さっきまであんなに眠くなかったのに…急に眠くなってきちゃったー。」



ベッドに入ってすぐにロゼッタは心地よい眠りの世界へと入っていった。


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