湖国草子
甲路フヨミ
天槻着任編
第1章 旅立ちの刻(とき)
出会いは冷たい泉の中で(一)
つい先日まで豪雪に固く閉ざされていた
枝々では小鳥がにぎやかにさえずり合い、風にはじける新芽の香りが心地よい。
深い谷間に
奥山にも、春は忘れずに訪れてくれる。
山を下りれば、そこは
山道を上りつめると、目の前の景色が厳しく変わる。
柔らかな新緑の木々は影を潜め、代わって荒々しい山肌が深い谷間に向かって落ち込んでいる。道は
私は、手にした
この谷の泉で、師の求めに応じて澄んだ水を汲むのが私の仕事だった。透き通った香りのこの深山の
「
「それも四人ですって!」
「まあ、四人も?」
「どんな方かしら。私たち、お目にとまれるかしら?」
愛らしい頬に手を当てて、水杖がうっとりとつぶやく。
私は、そんな親友のしぐさに思わず微笑みながらも言った。
「あまり期待しちゃだめよ、水杖。この社には五十名ものお
それに、と後の言葉を心でつぶやく。
私たちの運命がかかってくるのよ。
そう言う代わりに、行ってくるね、と声をかけ、少しショボンとした友の顔を気にしながらも、私はいつもの山道を歩き出したのだった。
豊かさの元はそれだけではない。
自ら城を出ては農村に交わり、親しく
しかし、長濱国はびくともしなかった。
それは、今も続いていた。
三年前の秋、私は親友の
お
良き相性の
深山霊峰のふもとで日々の厳しい
私も、水杖も、すでに候補としての名乗りは済ませていた。どちらかが……運が良ければ両方が……いつ選ばれても不思議はない。覚悟はすでに決めていた。
だけど私は、水杖ほどこの知らせに関心を持つことができなかった。むしろ、今日の客人が恒例の、ご城主様の
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