胸キュン戦隊イケメンジャー2022 ~第六の戦士、〇〇ピンクは二刀流!?~

無月弟(無月蒼)

第六の戦士、〇〇ピンクは二刀流!?

 皆さんはご存じだろうか。悪と戦う、5人のヒーローの存在を。


 ここはある学校の校舎裏。 一人の女子を、悪者達が囲うようにして立っていた。


「おーほっほっほ! わたくしは悪役令嬢ですわよー! ヒロインをいじめますわよー!」

「えーん、やめてー!」


 悪役令嬢の魔の手が、ヒロインにのびる。しかしそんな中、 赤や青、黄色といった色とりどりのヒーローたちが現れた!


 ドンッ!


「お前、コイツに手を出してんじゃねーよ」


 壁ドンをしながら迫力のある鋭い目をする彼の名は、俺様レッド!


 クイッ。


「やれやれ、あんまり手間を掛けさせるな」


 顎クイをしながら冷たげな眼をするのは、クールブルー!


 ぽんっ。


「そういう所も可愛いけど、ちょっとやり過ぎかな」 頭ポンをしながら爽やかな笑顔を浮かべるは、王子様イエロー!


「覚悟してよね、おねーさん♡」


 身を屈めた状態で上目遣い。幼く愛くるしく、それでいて時々攻めの姿勢を見せる、ショタグリーン!


「さあ、悪い子にはお仕置きをしないとね」


 凛々しい顔をしながら悪役令嬢をひょいとお姫様抱っこしたのは、女性メンバーの宝塚ホワイト!


「「「「「天下御免の胸キュン戦隊、イケメンジャー!」」」」」


 5人はいずれも、目を見開くほどのイケメン揃い。

 彼らは悪役令嬢からヒロインを守るために戦う、乙女ゲームの攻略対象キャラをモチーフにした戦士達。


 美麗な顔が隠れてはいけないからと素顔で戦い、胸キュン技で相手をキュン死にさせてやっつけると言う、作者が東映に土下座して謝らなければならないふざけた戦隊ヒーロー。 『胸キュン戦隊イケメンジャー』なのである。



 ◇◆◇◆



 胸キュン戦隊イケメンジャー。イケメン揃いの彼らには当然ファンが多く、学園のアイドル的存在。

 ファンの女の子達は危険を顧みず、彼らの戦いを間近で見ながら、声援を送っている。


 だけど、だけどだよ! そんなイケメンジャーが、今日は大ピンチなの!


「くそ、何なんだよコイツは」

「まさかイケメンジャーハリケーンが通じないなんて」


 レッドとブルーが顔を歪ませる。

 イケメンジャーハリケーンと言うのは敵をボールみたいにパスしながら、壁ドンや顎クイと言った様々な胸キュン技を繰り出し、最後はキュン死にさせると言うイケメンジャーの必殺技なんだけど、今回の敵には通用しなかったの。

 だってさあ。


「ギギ。ガガガ。体重量ル、体重量ル」


 彼らが戦っているのは、悪のロボット体重計ロボ。勝手に女子の体重を量ってはそれを暴露してしまうと言う、恐ろしいロボットなの。

 そして厄介なのはロボット故に感情が無くて、イケメン達の胸キュン技にも全然キュンキュンしてくれないってこと!


「そんな、イケメンジャー様達が劣勢だなんて」

「負けないでイケメンジャー!」


 ギャラリーの女子達が、悲痛な声を上げる。だけど。


 ふっふっふ。いよいよ私の出番ね。

 え、さっきから喋ってる私は誰かって? 実は私、冒頭で悪役令嬢にいじめられてたヒロインなの。


 乙女ゲームで言う所の主人公。普段はイケメンヒーロー達に守られてる女の子なんだけど、本当を言うと、守られヒロインになんかなりたくない。


 戦士達から守られる裏で、その戦士達と一緒に戦う。そんな二刀流ポジションを持つヒロインがいてもいいじゃない。

 今度は私が、皆を助けるんだ!


「そこまでよ、体重計ロボ!」

「ギギ、何奴⁉」

「私はイケメンジャー第六の戦士。美少女ピンクよ!」


 ピンクのコスチュームに身を包み、ピンクのフルフェイスヘルメットをかぶった私は、ビシッとポーズを取る。

 ふふっ、決まった。そう思ったけど。


「待って。第六の戦士なんて、聞いてないんだけど」

「お姉さん、誰?」


 イエローとグリーンがそう言うと、他のメンバーもうんうんと頷く。更にはギャラリーからも。


「美少女って。あの子顔隠してるじゃない」


 うう、痛いところを突かれる。

 そうなの。イケメンジャーはその美しいお顔が隠れないよう素顔で戦っているんだけど、私はフルフェイスヘルメットで顔を隠しているの。

 だってそうしないと正体がバレて、危ない事をするなって止められるじゃない。


「あんな顔隠すような子がイケメンジャーだなんて、あたしは認めないわ」

「大方イケメンジャーとお近づきになりたい痛いファンが、勝手に言ってるだけじゃないの?」


 はっ、なんだか雲行きが怪しくなってる。待って待ってー!


「ち、違うよ。私は本当に、六人目の戦士なんだから。そりゃああわよくば、レッドやブルーに『よくやったな』って言われたり、イエローに『偉いね』って頭ナデナデされたり、グリーンくんに『お姉ちゃん大好き』って言われたり、ホワイトお姉様と親密な関係になって、あんな事やこんなことをして、キャッキャうふフナ展開を妄想して、キャーッてなったりしたけど……はっ!」


 しまった。つい余計な事までぶちまけてしまって、冷たい視線が刺さる。


「……と言うのは冗談で」

「「「今更遅いわー!」」」


 ううっ、ギャラリーが総ツッコミしてくる。

 更にレッドが、呆れた顔でこっちに近づいてきた。


「おいお前。脳内ピンクとか言ったな」

「の、脳内ピンク⁉ 違う、私は美少女……」

「どうでもいい! とにかく、邪魔だからどっか行ってろ」


 まるで虫を追い払うように、シッシッと手を払われてしまう。


「じゃ、じゃあせめて、ホワイトお姉様を私にください。お姉様と二人で新戦隊、『暴姫君戦隊キュンシスターズ』を結成しますから。仲間になってくれたら、きび団子あげます!」

「ホワイトを引き抜いてんじゃねー! だいたいなんだそのとち狂った名前は! 伝統ある戦隊ヒーローの名前を、バカにしてるのか!」


 えー、変かなあ。案外本家でも、似たような名前があるかもしれないよー。


「名前はともかく、ピンクちゃんみたいな妹ができるのは悪くないかも。たっぷり可愛がってあげるよ」

「ほ、本当ですかホワイトお姉さま!?」

「ホワイト、バカ言ってないで、あの体重計野郎を何とかするぞ」


 そう言えば。

 体重計ロボはこのコントみたいなやり取りを、黙って見ていてくれていた。

 けどイケメンジャーの攻撃は、アイツには効かなかったんだよね。だったら。


「皆さん、私に考えがあります。もう一度アイツに、イケメンジャーハリケーンをお見舞いしてください!」

「お前、なに仕切ってんだよ。だいたいあの技はもう破られて……」

「大丈夫! 私を信じてください!」

「分かったよ」


 しぶしぶと技の配置につくメンバー達。

 まずはレッドの、壁ドンが炸裂する。


「お前は俺の言うことだけきいてりゃいいんだよ」


 キュンとするようなワイルドな美声が響き、ギャラリーかはキャーっと歓声があがる。

 しかし体重計ロボに、全くときめいた様子はない。

 けど、今こそ私の出番。集まっていたギャラリーに向かって叫んだ。


「皆さん。あのロボ、二回もイケメンジャーハリケーンを食らえるんですよ。羨ましいと思いませんか?」

「え? そりゃあ羨ましいけど」

「あ、今度はブルーに顎クイを、イエローに頭ぽんぽんをされてます。アイツだけずるいって、ムカつきませんか?」

「む、ムカつくわね」

「体重計のクセに、生意気よ!」

「そのくせときめいてないだなんて、何様のつもり!?」


 ギャラリーの女子達の嫉妬が、徐々に募っていく。

 これこそが私の狙い。女子は時として、体重計にだって嫉妬するのだ。


 そして実は私、そんな嫉妬のエネルギーを、強力なパワーに変えるスキルを持っているのだ。


 ふふふ、桃色の戦士は、爆弾のエキスパート。

 私の必殺技を、受けてみろ!


 体重計ロボに向かって、ビシッと指をさす。


「必殺、桃色爆弾リア充爆発しろ!」


 瞬間、大爆発が起こった。


「ギャアアアア!?」


 断末魔を上げながら、木っ端微塵になる体重計ロボ。


 嫉妬のパワーを文字通り爆発させる。それが私、美少女ピンクよ。

 え、ヒロインっぽくないって? それは言わないお約束。


 するとレッドが目を丸くしながら、体重計ロボをやっつけた私を見る。


「すげーな、本当に倒しちまった。お前、面白れー女」


 はうっ! レッドの「面白れー」、頂きました!

 もうこれだけで、キュン死にしちゃいそう。


 けど死ぬわけにはいかない。私はこれからも、第六の戦士として、戦っていくんだから。


「じゃ、じゃあ私はこれで。また戦いになったら、駆けつけるから」


 名残惜しいけど正体がバレたらいけないから、早目に退散する。

 すると駆け出した私の背中に、レッドや

 ギャラリーの暖かい声かとんだ。


「サンキュー、脳内ピンク。最初は変なやつだと思ったけど、助かったぜ」

「意外とやるじゃない脳内ピンク!」

「体重計ロボをやっつけてくれて、ありがとう脳内ピンクー!」


 みんなの声援を受けて。脳内ピンクはこれからも戦い続ける。



 ……って、脳内ピンクじゃなくて、美少女ピンクだってば!


 表向きは、悪役令嬢にいじめられるか弱いヒロイン。

 だけど陰では、正体を隠してイケメン達と共に戦う第六の戦士。

 そんな二刀流生活を、私はやりとげてみせるから!


 ◇◆◇◆



 脳内ピンクの活躍で体重計ロボを倒した後、レッドとホワイトはこんな話をしていた。


「ところでレッド、あのピンクちゃんの正体だけど、ヒロインちゃんだよね」

「ああ。あのアホ、ヘルメットつけただけで誤魔化せると思っているんだからスゲーよ。まあ、気づいてないフリしておくか」

「了解。けど、追加戦士がヒロインちゃんだったとは意外だね。てっきり彼が帰ってくるかと……」

「やめろ!」


 ホワイトの言葉を制したレッドが、渋い顔をしながら眉をひそめる。


「アイツのことを話すんじゃねーよ。ヤンデレブラックのことは」



 To be continued ?

 KAC2023に続く?

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胸キュン戦隊イケメンジャー2022 ~第六の戦士、〇〇ピンクは二刀流!?~ 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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