はじまりの夜

べる

リスタート

「ハァ、ハァ、、、ハァ、、」

逃げなければ。喰われる。止まるな、足!

日も暮れ、青い闇が降りた街を走り続ける。


孤児院を追い出され、もうどのくらい彷徨っているだろうか。腹が減った。疲れた。

追い出されはしたものの、

「やっと自由になれる」「僕はもう自由だ」

「院長先生から呪いの言葉をかけられずに済む」

とも少し思っていた。しかし、いざ放り出されると行くあてがないことに気づいた。孤児院ではダメな奴と言われ続け、外にも知り合いなどおらず、いかに孤独かを感じた。自分にとってあの孤児院が世界の全てであったことを思い知らされる。


走る。走る。あてもなく。迫り来る月夜の獣から逃げるように。すれ違った人々の悲鳴が後ろから聞こえる。もう、そこまで来ているのだ、奴が。


走り続けるのにも限界が来て、なんとか隠れられる場所はないかと橋の下に転がり込む。息を落ち着けながら河川敷に寝転がる。見上げた空には蒼月が飲み込まれそうなほど美しく輝いている。

自由を求めていたはずなのに。自由になった途端に襲いかかる不安。孤独。

居場所を探して走り出したが、そんなもの見つかる保証もない。そもそも僕がいていい場所なんてあるのだろうか・・・。

そんな思考ごと飲み込むような月に吸い込まれるように意識は薄れていった。


目を覚ますと辺りはすっかり明るくなっていた。時計を持っていないので正確な時刻は分からないが、昼頃だろうか。人の往来もある。

「ガルルルルルー」

その時突然聞こえた唸り声に飛び上がる。何者だ!?と見回すと野良犬のようだった。犬は嫌いではないが、それでもかなり大きい犬だ。この場から離れるのが得策だろう。それにどちらにせよ、夜が来る前にあの獣から逃げておかなければ。


犬を刺激しないようにそっと立ち上がり、辺りを見回す。しかし、そんな動作は無意味だと思い出す。孤児院しか知らない僕がいくら周囲を見回したところで目的地も、居場所も無いのだ。再び途方に暮れ、立ち止まりそうになった時。僕の中にいる何かが足を動かした。うまく説明出来ないが、本能で理解した。僕ではない、僕の中にいる何か。それが何か分からぬまま、少年は未だ満たされない腹の音を鳴らしながら、川に沿って歩き出す。風が吹く街に向かって。『何か』を信じたのか、単純に行きたい場所など無かったからそのまま足を進めたのか。彼の決断の根拠は知る由もない。


この選択が少年にとって吉と出るか凶と出るか。彼の新しい旅が始まった。


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