寄せ集めの楽しみ

白鷺雨月

第1話一人の楽しみ

「じゃあ、行ってくるわね」

 そう言い、妻の貴美たかみはマンションを出でて行った。

女友達と集まって、映画に行くとのことであった。その後、夕食も食べてくるというので夕食は一人でとることになった。



 僕は久しぶりの一人の時間を楽しむ。

 配信サービスで気になっていたミステリーをコーラを友に楽しむ。

 妻はミステリーがあまり好きでなく、見るのは恋愛ものばかりだ。

 今日も見に行くのは恋愛ものだということだった。好きなミステリーやホラーはこういう機会でもないと見るもことができない。

 映画を二本も見るとすっかり夕方になり、ベランダから外を見るとすっかり暗くなっていた。


 存分に映画を楽しんだ僕は空腹を覚えたので、夕食をつくることにした。

どうせ一人なので、好きなものを好きなように食べようと思う。

 冷蔵庫を開け、卵を二個取り出す。

 卵をボールにわり、中身をいれる。

 そう、一品目は玉子焼きを作ろう。

 そうだ昨日買ったカット葱があったな。

 葱をパラリとボールにいれる。

 味の決めては本だし。

 それをサラサラといれる。

 後はボールの中の卵をよくかきまぜる。

 カチャカチャと音をたてるのが、かなり楽しい。

 玉子焼き器をとりだし、サラダ油を多めにひく。卵と油の相性は抜群だ。

火をつけ、玉子焼き器を温める。

 十分に熱せられた玉子焼き器に卵液を半分流し込む。

 じゅわじゅわといい音をたてる。

 少し固まってきたところでフライ返しで手前にひき、四角のかたちにかためる。

 まずは小さめの玉子焼きをつくる。

 手前にそれを置いたまま、残りの卵液を流し込む。

 またじゅわじゅわと卵液が焼かれていく。

 両端が泡立ち、いい匂いがキッチンにたちこめる。

 そうそうこの出汁が焼ける匂いは最高だ。

 玉子焼きがうまくやけるとかなり感動する。

 小さな達成感にみたされる。

「よっと」

 一人そう言い、玉子焼きを手前にひき、焼き固めていく。

 僕はにやりと笑う。

 これはかなりうまくいった。

 理想的な長方形の玉子焼きができあがった。

 僕はその葱いりの玉子焼きを皿にもりつける。


 二品目はウインナー焼きだ。

 冷蔵庫からいわゆる赤いウインナーを取り出すとまな板にならべる。

 ウインナーの数は六本。

 まず斜めに包丁で切れ目をいれていく。

 次に逆方向に包丁で切れ目をいれる。

 そうすると網目の切れ目ができあがる。

 再び玉子焼き器にサラダ油を多めにいれ、火をつける。

 新しいフライパンを出すのは面倒だし、洗いものは増やしたくない。

 すぐに玉子焼き器は熱くなり、サラダ油がパチパチとはね出す。

 そこに切れ目を入れた赤いウインナーを投入する。

 赤ウインナーに焦げ目がつき、網目のかたちに開いていく。

 母親はよくこの赤ウインナーはタコのかたちに焼いてくれたものだ。

 今日の僕は編み目にしてみた。

 今度はタコさんウインナーに挑戦してみようかな。

 赤ウインナーの編み目がいっぱいにひろがり、焼きあがるとこれを玉子焼きが乗っている皿にもりつける。

 これが僕のワンプレートだ。


 キッチンの棚からパックのご飯を取り出し、レンジにいれる。

 このパックご飯はよくできている。

 レンジで温めるだけで炊きたてと同じようなご飯ができあがる。

 まったくこれを発明して開発者には頭が下がる。こんな便利なものを世にだしてくれたのだから。

 熱々っと一人言いながら、レンジからパックのご飯を取り出し、茶碗によそう。

 ああ、湯気までうまそうだ。


 さて、汁物はなんにするかな。

 インスタントの味噌汁やワカメスープなんかもいいんだけど、今日は妻の前だと絶対にやらないあれをつくろう。

 とろろ昆布と鰹節のパックを用意する。

 とろろ昆布をお椀にたっぷりちぎっていれる。つぎ一パックの鰹節をお椀にいれる。

 そこに醤油を一まわし。

 この醤油がポイントだ。

 あまり多すぎると塩辛いし、少ないと味気ない。

 僕はこれ昆布汁と呼んでいる。

 ここにポットのお湯を注ぎ入れれば完成だ。

 この昆布汁は湯豆腐にも使える。

 湯豆腐の出汁を少しいれ、濃いめにつくり、そこに豆腐を入れて食べると格段にうまい。

 それもそのはずだ。

 昆布と鰹節のうま味をそのまま食べているのだから、うまくないはずはない。


 さてさて、僕はテーブルに自らつくった品々をテーブルに並べる。

「いただきます」

 一人そう言う僕は玉子焼きに箸をつける。

 それを茶碗のご飯にのせ、一緒に口にいれる。葱のシャキシャキ感がいいアクセントだ。ほんのりと出汁の味がまたいい。

 次に赤ウインナーを口にいれる。

 肉がじわりと崩れ、口の中にあの独特の味が広がる。妻の貴美はこの風味が苦手なので我が家ではこの赤ウインナーを食べるのは僕だけだ。

 まさに一人だけの楽しみだ。

 この味は思い出の味なのだ。

 看護師をしていた母が忙しいなか、よく作ってくれたものなのだ。

 遠足や運動会のお弁当にもよく入っていた。

 毎日忙しいのに赤ウインナーだけはタコさんの形にしてくれた。

 赤ウインナーの他にちくわを煮たものや惣菜屋さんで買ってきたコロッケなどがよく食卓に並んだ。

 子供の時はもっと手の込んだものを食べたかったが、今こうしてあの時と同じような食事をとっている。

 社会人になって僕は初めて母の苦労がわかったような気がする。

 忙しいなか、それでも赤ウインナーをタコのかたちに切ったのはきっとそこだけは手を抜かないという母のこだわりだったのだろう。


 久しぶりに一人の楽しい時間を終えた僕は食器を洗い、妻が帰るまでまた映画を見ることにした。

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寄せ集めの楽しみ 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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