第7話

家に帰り着き、風呂に入る。

「今日は疲れたな……」俺は湯船に浸かりながらそんなことを考えていた。「あの人もしつこかったしな」

そして今日の出来事を順に思い返していく。

「それにしてもなんで俺とあいつの関係を知ってたんだろう?」

いくら考えてもその答えが出ることはなかった。

翌日、俺はいつも通り学校へ行った。

教室へ入ると、俺を見る周りの目が気になる。やはりまだ慣れないものだ。

自分の席に着く。机の中を見ると手紙が入っていた。

周りを見渡す。誰も俺の方を見てはいなかった。

俺はそっと手紙を取り出した。

『放課後屋上に来てほしいです。佐々木美咲より』

「まじか……」俺は頭を抱えた。

昨日のことを思い出していた。

「俺のこと好きじゃないんだよな?」

「ああ、違う」

「ならなんでこんなことを?」

「お前に告白されたからだ」

「俺が?」

「ああ」

「いつ?」

「去年だ」

「……」

つまりこいつはずっと前から俺が好きだったということだ。それなのに俺は――

「なあ」そこで一つ疑問が生まれた。

「お前って、男に興味あるの?」

「どういう意味だ?」

「だって、お前みたいなやつがわざわざ男の俺のことが好きだなんておかしいじゃないか?」

「……」

「だからその、お前は男が好きなのかと思って」

「勘違いするな」

「え?」

「確かに俺はお前のことは嫌いではない。むしろ好ましく思っている。ただ、それだけだ」

「よくわからん」

「今はそれでいい。いずれわかる時が来る」

「そうか」

「それより返事はどうなんだ?」

「え?」

「返事だよ」

すると彼女は少し顔を赤らめているように見えた。

「あー、えーと」

「やっぱり嫌なのか?」

そこで俺は覚悟を決めた。

「いや、その、えーと…….OKです」

「そうか」彼女はホッとした表情を浮かべた。

「それでその、付き合うってどうすればいいんだ?」

「とりあえず一緒に帰ればいいんじゃないか?」

「え?」

「デートしたり、手を繋いだり、色々するんだろ?」

「ま、まあ、そうだけど」

「じゃあそうするか」

「わかった」

それからしばらく沈黙が続いた。

キーンコーンカーンコーン、チャイムが鳴る。

「ほら、授業が始まるぞ」彼女は立ち上がり歩き出す。

「あ、おい!」慌てて追いかける。

こうして俺たちは付き合い始めた。

しかしこの時の俺は知らなかったのだ。彼女の秘密に……。

昼休み、いつものように弁当を食べ終えると、俺は屋上へ向かった。

ドアを開けるとそこには佐々木がいた。

「よう」

「こんにちは」

「なんか久しぶりだな」

「そうですね」

「そういえば、なんで俺を呼んだんだ?」

「それは――」

その時だった。

「拓海くん」突然、後ろから声をかけられた。振り向くとそこにいたのは相川さんだった。

「君は確か隣のクラスの」

「そうそう、相川彩香っていうんだ。よろしくね」

「はあ、こちらこそ」そう言って軽く会釈をする。

「ところで二人はどんな関係なのかな?」

「それは――」

「クラスメイトですよ。それ以上でも以下でもないです」

「そっかぁ~」すると彼女はニヤリと笑った。

「ねえ君、私と勝負しない?」

「はい? 勝負ですか?」

「うん! どっちが早く拓海くんを捕まえられるか」

「ちょっと待ってください。なんで俺があなたとそんなことを?」

「あれ? もしかして自信がないのかな~?」挑発するように言う。

「いや、そういうわけでは――」

「じゃあ決まりね♪」と言って彼女はどこかへ行ってしまった。

俺はその後を急いで追う。

「あの人、なんなんだよ一体……」

「すみません、ご迷惑をおかけして」申し訳なさそうな顔で言う。

「別に気にしなくていいよ」

「あの人は誰なんでしょうか?」

「さあ?」

「そういえば、今日はよく話しかけてきますよね?」

「うん。俺もなんでだろうって思ってるんだけど」

「何か心当たりとかはないんですか?」

「特にないけど」

「なら、どうしてでしょう?」

「わからん」

そしてまた会話が途切れた。

「なあ、俺たちってどうやって知り合ったっけ?」

「覚えていないんですか?」

「すまん、まったく」

「去年の入学式の日、私が迷子になっていた時に助けてくれたんですよ」

「そんなことあったか?」

「はい、ありましたよ」

「悪い、全然記憶にないわ」

「そうですか……」彼女は寂しそうな顔をした。

「もうすぐで着きそうだな」学校を出て10分ほど歩いただろうか。

「そうですね」

すると、佐々木がいきなり立ち止まった。

「ん? どうかしたか?」俺は彼女に尋ねる。

「……」彼女は無言のまま動かない。

俺はもう一度尋ねようとした時、彼女が口を開いた。

「拓海くん、私のこと本当に好きですか?」

俺は首を傾げる。なぜ今になってそんな質問をするのかわからない。

「ああ、もちろんだ」

「……わかりました。ありがとうございます」

「何がだ?」

しかし彼女は答えなかった。

ただ、少しだけ悲しげな顔をしていたような気がした。

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