聖者の森(2)

「っ!」

 目を開ければ、そこは天井。

(……ゆ、夢? どっからだ?)

 頭の芯が鈍く痛む。

 ユリアスはベッドに寝かされていた。

(ここは?)

 気怠いが、動ける。

 ベッドから起き上がり、部屋を出ようとすると、扉が向こうから空いた。

 思わず身構えると、

「ユリアス!」

「リシャール? お前、どこ行ってたんだ! いきなり消えやがって!」

「消えたのは、ユリアスの方ですっ」

「は?」

「私はすぐに神殿に出られました。ユリアスがずっといなかったんです」

「どうなってる……」

 ユリアスとリシャールの認識には、大きな隔たりがあるらしい。

「ちょっと整理させろ。俺たちがマザーに会う為、聖者の森に向かった。これは本当か?」

「はい。そしていざ到着すると、聖者の森の狭さに驚きました」

「よし。そこまでの認識は共通か……。俺は森に飛び込み……」

「私がその後を追いかけたんです。私は神殿に行き着きました。しかしユリアスは、いませんでした」

「ここはどこだ?」

「ドルイドの神殿です。私はドルイドに許可を求め、逗留を許されました。あなたが神殿にやってきたのは、一週間後のことです」

「うそだろ……」

「残念ながら本当です。あなたは足下も覚束なく、目はうつろで、「オヤジ、オヤジ……」と呟いていて、倒れました。息はあったので、私が借りている部屋に運びこみ、ドルイドの協力をえて、看病しました。それでもあなたは今日まで……一週間近く、眠り続けたんです」

「どうなってる……」

「ユージェニーさんの仰っていた、惑わし、でしょうか?」

(つまり、湖や焼ける家はすべて幻か?)

「……おい、泣いてるのか?」

 リシャールは目尻に輝くものをぬぐった。

「正直、ここで旅は終わりかと思ったんです。これは安堵の涙です……」

「……心配かけて悪かった」

「今、食事を持って来ます」

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