大陸最強の魔物狩り

魚谷

序章

 ユリアンは後ろを振り返りながら、父親が追ってきてないかを確認した。

 両手で、一枚の絵を抱えていた。

 それは父のお気に入りの絵。

 生意気盛りの子どもと、頑固親父が一つ屋根の下にいれば、ぶつかるのは当たり前で、今し方、大喧嘩をしてきたばかり。

 理由は忘れた。

 いつも通り、くだらないことだ。

 家事をさぼるな、戦いの訓練にもっと身を入れろ、片付けをしろ、まったくお前という奴は――。

 父さんがいるから、ユリアンは生きていられる。

 でも。

(すぐに頭ごなしに怒ることないだろ、あのクソ親父!)

 ユリアンはいつも釣りをする湖のそばで、息を切らしながら座り込んだ。

 いい天気で、湖の水面が日射しを受けてキラキラと輝く。

(釣り竿を持って来れば良かったな)

 そんなことを考えながら、ここで顔を真っ赤にした父親を待つつもりだった。

 でもいつまで経っても父親は姿を現さなかった。

 ユリアンは仰向けに寝転がり、日射しの気持ち良さにあくびをし、眠りに落ちていく。


 空がたちまち分厚い黒い雲で覆われ、太陽を飲み込んでいく。

 全てが闇に包まれている。

 そんな中でも、それだけは偉容な存在感を放つ。

 首なしの黒い馬に跨がる、漆黒の鎧をまとった騎士。

 騎士は空をかけ、まっすぐユリアンの家へ駆けていく。

 ユリアンはそれをぼけっとしながら見ていたが、あるものに気付く。

 その騎士は右腕に、父親の首を持っていたのだ――。


「っ!」

 ユリアンが飛び起きると、夢で見た通り、重たく黒い雲が空に垂れ込めていた。

 夢じゃない、現実だ。

 嫌な予感に震え、来た道を戻っていく。

 漆黒の騎士が自分の家へ向かうなんて馬鹿なことあるわけないのに、鳥肌がとまらない。

 家を飛び出した時以上に、心が揺らいでいた。

 と、木々の間から黒い煙が見えた。

 家の方角からだ。

 心臓がバクバクしても足を止めず走り続ける。

 そのうち、雨粒が頬をうつ。

 家へついた時にはすでに土砂降りで、そして家だったものの前でユリアンは足を止めた。

 家は燃えていた。

 雨の中でも、紅蓮の炎の勢いはまったくおとらず、ユリアンの目の前で家が崩れる。


「父さ――――――――――――ん!!」

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