第七話 歓迎


2時間ほどかけて、アルベルトと俺は村の付近にやって来ていた。


「あれが俺の村だ。言ったとおり近かっただろう?」


「そうだな…」


力なく俺は同意する。正直これで近いなんて距離感がぶっ壊れているとしかいいようがない。俺にとってはかなり遠かったんだが…。すぐ着くと思っていたのでアルベルトには休憩なんていらないと強がったが、素直に休みたいというべきだった。


村は頑丈そうな木の柵に囲まれており、その周囲で屈強な男たちが見張りをしている。敵からの攻めへの警戒はばっちりなようだ。


そんなことを考えながら俺はハッとした。


警戒をしているということはこの世界では未だに戦争が絶えないということなのだろうか。


「アルベルト、やっぱり戦争は頻繁に起こるのか?」


「頻繁ってほどではないな。最近は平和になってきたからたまに起きるぐらいだと思う。村の警備は念のためってところだな。」


そうなのか。俺は少し安堵した。戦争が頻繁に起こっているような世界だったら、異世界に転移せずにそのまま死んだほうがましだっただろう。だが戦争が完全に無くなったわけではないそうなので、武器の扱い方を学んだり、基礎的な運動能力をつけておく必要はありそうだ。最終的に、自分の身は自分で守らなければならないだろう。もうあんな無様な死に方はしたくない。


村の入り口が見えてきた。徐々に近づいていく俺たちだったが、アルベルトが急に立ち止まる。


「どうしたんだ?」」


「このまま村に帰ろうと思ってたんだが、いきなりお前さんを連れて帰ったらみんなびっくりするだろう?だから少しここで待っててくれ、村の人たちに話をつけてくる。」


「わかった。頼むから見捨てないでくれよ。もしそうなったらお前の村を襲うからな。」


「はっはっは。やれるもんならやってみろ。まあ、どのみちお前のことを見捨てたりなんかしねえけどな。」


笑いながら、彼は村の入り口に向かった。なにやら見張りと話をしている。


正直、すんなり村の人々が俺を受け入れることは期待できない。村というものは身内のコミュニティを大切にし、よそ者に対して冷たいと聞いたことがある。それに加えて、俺の場合はこの世界とは別の世界からやってきているのでよそ者というレベルすら超越してしまっている。異世界から来たということを話してはないが、バックグラウンドが謎の異国風の顔をした男を村に招き入れたいものがいるだろうか。


そんなことを考えていると遠くからアルベルトの声が聞こえてきた。


「おーい!村に入ってもいいってよー!」


いいんかーい。俺はあやうくズッコケそうになった。ありがたいが、いくら何でも決めるの早すぎないか。村の人々は俺が想像していたより寛容なようだ。


村の入り口は柵の間にゲートのようにして作られていた。俺は少し緊張しながらもアルベルトと村に入った。村に入った途端、物珍しそうなものを見つけた村人たちはいっせいに俺たちに寄って来た。そして口々にアルベルトに質問をする。


「アルベルトさん、この子はだれだい?」


「どこから来たの?顔立ちがここいらの人間とは違うけど...」


「アルベルトさんの知り合いかい?」


突如集中砲火を浴びたアルベルトは慌てて村人たちをなだめる。


「ちょ、ちょっと、落ち着いてくれ。そんないっぺんに聞かれても答えられねえよ。」


結局、アルベルトが村人に俺のことを紹介することになった。


俺は村の真ん中にあるステージのような所に立たされる。アルベルトが誰か連れてきたらしいという知らせはすぐに村中に回り、すでに多くの村人がステージの周りに集まっていた。人々は好奇の目で俺を見ている。


なんでこんなことになった...ここまで大事になると思っていなかった俺は思わずため息をつく。まあ、これがおそらく村の人々に俺の存在を知らせる一番手っ取り早い方法のだろう。


アルベルトの声がする。


「みんな集まったか?それではこれより新たに我らが村の一員となる男、ケンについてさせていただく!」


村人たちからわあっと歓声が上がる。


俺はどんな表情をすればいいかわからない。


その後、アルベルトは俺との出会いを語り始めた。


「こいつの石器の投擲能力は恐ろしく高かった!俺は盗賊かなんかかと思ったんだ。だからこいつの姿を見たときは腰が抜けそうなくらい驚いたぜ。」


客観的に見て、驚いてはいたが全く腰が抜けそうにはなってなかったぞ。彼は少し誇張をする癖があるようだ。


そして彼は俺が悲惨な過去を持っていると話し、それについて聞いてはならない村人に伝えた。村人たちはとても神妙な面持ちでそれを聞いていた。


全然悲惨な過去など持っていないので何か申し訳ない気持ちになる。


アルベルトの大げさな紹介は30分ほど続いた。


「以上でケンについての説明を終わる!ありがとう!」


まるで自分が主役かのような話しぶりで彼は俺について紹介を終え、手を胸に当てて小さく礼をする。観客からは大きな拍手が送られる。


かくして、俺はアルベルトの村の一員になった。















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