英雄達の遊戯

@ASSARIASAKI

第1話 最初の英雄

 騙されているな。

 と、地球が誕生して以来の『最初の英雄』はそう直感した。

 理由でも理屈でもなく、世界を幾度となく救ったものとしての勘がそう告げていた。

 『最初の英雄』は、自分の勘を何よりも信用していた。

 



 荒廃したボロボロのコロシアムの中にはざっと数えて100は超えるであろう英雄が集められている。

 剣に杖というありふれたモノはもちろん、銃や本、それにドラゴンからスーツを着た者まで、ありとあらゆる世界の英雄が集結していた。

     (そういう世界……か)

 英雄が集まっている世界。

 文明だけが廃れているの世界。

 何度見てきたのかわからないレベルのありふれた世界。

 いくつもある、ただの世界の一つ。

     (さて、こいつらはどうやってぶっ殺すかな)

 そう考え始めようとした途端

「ハローエブリワン!」

 という声がコロシアムに響き渡った。

 誰から発せられるわけでもなく、ひとりでに音は声となって放たれる。

「これにて『世界滅亡券』をめぐる正当な殺し合いの参加受付を締め切らせていただきます。それに伴って、お集まりいただいた英雄の皆様にはルール説明を始めさせていただこうと思います!」

 拡声器を使っていないにも関わらず、やけに大きく響くその声は、ルール説明を始めた。

 しかし『最初の英雄』はそれを最後まで聞かなかった。




「__そして殺し合い、最終的に生き残った英雄の勝ちとなります!では皆さん、ご健闘を!」

 会場は血の海になっていた。

     (何人か逃げたな)

 『最初の英雄』の武器は、己の拳。

 殴って殺す、単純明快。

 剣も銃も魔法も兵器もあれもこれもそれも、壊す。

「ま、全部不意打ちだけどな」

 甘い。話を馬鹿正直に聞くやつがいるのか。

 ボケーっとしている奴を片っ端から、殴る。

 これだけでいったい何人が死んだのか。

 自分に対して逃げ腰な奴らも気に入らない。

 こんなの達が英雄をやっているとは、落ちぶれたものだ。

 そう考えながらも、拳は止まらなかった。

     (ただ、骨があるのもいるらしいな)

「そんで、残ったのはお前だけか。『メイドさん』よぉ」

一対一タイマン。……最高のシチュエーションでございますわ、『最初の英雄』様」

 『最初の英雄』の前には女性が一人立っていた。

 エドワーディアン風のメイド服に身を包み、目を閉じた状態。

 しかし、何故か隙を感じさせない。

     (瞬きもなく、ずっと見られている)

 そう思わせるほどだった。

 英雄になって数万年、こんな生き物見たことない。

 生き物だとは思えない。


  ズガン

 『最初の英雄』と『メイドさん』の拳がぶつかり合う。

「見切るか」

当然モチのロン。……全くの不足無し、たまりませんわ」

 衝撃波が空気をビリつかせる。

     (くそいてぇな。まるで鋼だ)

 追撃は『メイドさん』から始まった。

 右足で腹を狙って蹴りを入れてくる。

 衝撃を受け流しながら後ろに吹っ飛ぶが、体勢を整えながら軽く後ろにステップを踏みつつ着地する。

 前を見ようと顔を上げると、すぐそこには『メイドさん』の左手が飛んできていた。

 ちなみに

     (は?)

 というのは、比喩ではない。




驚愕びっくり。……ロケットパンチをご存じでしたか、流石は『最初の英雄』様」

「…お前、人間じゃねーんだな」

 アッパーを打つ感覚で人の左手を粉々に砕く。

 ニコリ、と微笑みを崩さない『メイドさん』の左手首よりも上は何もなくなっている。

思考うーん。……ロボットと言えば簡単なのですが、困りまし」

 律儀に自分の正体を明かそうとする『メイドさん』を無視して、距離を詰め拳を頭に叩き込む。

 これまで破壊できなかったモノはなかった拳は

  メキィ

 という音を立てて『メイドさん』の頭を、凹ませた。

     (おい、流石に硬すぎないか?)

 そしてそのまま

考案思いつきました。未来からやってきた最新の人造英雄、でいかがでしょう」

「…あぁ、未来ね」

     (そりゃあ、俺が)

 左腕から突き出した鋭利な刃物に首を落とされ、それ以上の何かを考えることはできなかった。

 それと同時に、何かの思惑に気付く可能性の芽は早々に摘まれてしまったのだ。


 古い英雄は、要らない。

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