誘い
どうやら僕は迎え入れられたらしい。十字架のお兄さんに名前を尋ねられた。僕の名前を告げると、外人みたいだと笑われた。半分外人であることは隠すことにしよう。その半分の外人は、外人に値しない外人だからだ。
十字架のお兄さんの名前はケイというらしい。名字さえ言わないし、ケイの前後に何かあるのかも知らないままだ。これでいいのだろうか。少なくともおじさんは気にしていない。
「君、くらい付けて呼べよ」
名前の他に言われたのはこれだけだ。
ベースのお兄さんはヒデ君、ドラムのお兄さんはカズ君というらしい。ケイ君は金色のロング・ヘアを指でもてあそびながら、ヒデ君とカズ君の自己紹介を眺めている。僕はヒデ君にたずねた。
「その髪型はビリー・シーン?」
ヒデ君は照れ臭そうに笑っている。優しい人なのかもしれない。
ヒデ君が伸び放題のロング・ヘアを後ろで束ねているのと対照的に、カズ君はスキン・ヘッドだ。ケイ君が言う。
「こいつは学校で中途半端に坊主にされるのが嫌だから、毎日自分で剃ってるんだよ」
カズ君も初めて会った時の仏頂面からは想像できない人懐っこい笑顔を浮かべた。
「クソガキ、こいつは何なんだよ?親か?」
ケイ君がおじさんを睨んだ。
「保護者であり、友達だ」
おじさんとはいつの間にか友達になっていたらしい。おじさんは続ける。
「お前ら、飯食ったか?」
三人は目を見合わせた。
「俺んちに来いよ。どうせ家にも帰らないんだろう?酒の一つくらい出してやるよ」
僕は呆れた。
「保護者じゃないの?」
「外で酒飲んでパクられたら、バンドは解散だ。俺の家には警官はいない」
おじさんが笑顔を浮かべると僕だけでなく三人も力が抜けたようだ。ケイ君は精一杯声を尖らせてたずねている。
「煙草はどうだ?」
「全室喫煙可だ。楽器は店に置いておけよ」
三人は窮屈そうに後部座席に座り、おじさんはいつもと同じく音楽に聴き入りながらハンドルを握る。仕方ないから僕は、車で流れているミスター・ビッグを聴いていた。おじさんがつぶやく。
「悪くない気分だ」
僕はため息をついた。
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