序章
第1話
「ふわーあ…」
「のんきにあくびしてる場合かよ…」
鉄格子を挟んで、男が二人、向かい合う。
「だって眠いじゃん? 何日ここに閉じ込めるつもりだよぉ!」
「もう少しの辛抱だ。」
ここは、ナノ王国の最南端にある、小さな建物。
ここに来る人間は、限られている。
どうしてか。それは、ここにくるには、いくつかの条件を満たしていないといけないからだ。
まず、男であること。女はここではなく、最北端に送られる。
次に、成人であること。と言っても、ここでの「成人」は、16歳以上なので、ここにいる人間の年齢はまちまちだ。
最後に、人間としての誇りを失ったものであること。
この二人の男は、それらの条件を満たしている。
この国は、『人間至上主義』を重んじている。人間以上の高等生物はいない。人間こそ正義だ。という考え方の国だ。
人間としての誇りを失うということは、人間以外の生物に情けをかけるということ。
人間以外の生物に情けをかけるということは、人間以外の生物と同類の扱いをしてもいいと思われるということ。
つまり、他の生物に情けをかけた人間は、人間として扱われないということ。
そんな人間が集まるのが、この場所。
通称、「地獄」。
「…うるせえな!」
「ぐっ!」
「おい、大丈夫かよ!」
近くを通りかかった看守が、一人の男を、鉄格子越しに蹴飛ばした。
ここにいる男は、大体自由には動けないが、町民からくじで選ばれる数人の男のみ、看守として自由に動ける。
だが、看守なんて名目で、ストレス発散のために歩き回っている人間と思っていた方がいい。
「何すんだ! お前それでも知性あんのか!」
「うるせえ! 人間以下の生物が人間様の言葉をしゃべんじゃねえ! 動物なら意味わかんねえ言葉発して俺らに従ってたらいいんだよ!」
そう言って、もう一人の男も蹴る。そうして看守は去っていった。
「…大丈夫か?」
「そっちこそ…」
蹴られたところをさすりながら、二人はまた向かい合った。
抵抗ができないことをはがゆく感じた男は、鉄格子を思い切り叩いた。
無論、そんなことをしても意味はないのだが。
「それにしてもさー、ここにきたら拷問とか? 人間がいかに素晴らしいか教育されるとか? そんなことされるんじゃねえかって思ってたんだけど、そんなことねえな。」
この男はビクト。さっきあくびをしていた男だ。すらりとした高身長で、クセのある赤髪が特徴だ。いつも物事を楽観的に捉える男であり、こんな状況すらも楽しめる。
「どうせ人間以下にそんなことしたって意味がねえって思われてんだろ。あの国王もどうかしてるぜ。」
この男はデフィ。さっき鉄格子をたたいた男だ。こちらも高身長で、ストレートの青髪だ。冷静に判断ができ、感情的にならない。
「なあデフィ。俺らここから出たら、人間以外の動物とも楽しく過ごせる世界をつくろうって言ったじゃんか。」
「ああ、言ったな。そんなの無理だけどな。」
「まだわかんねえだろ? でさ、俺、考えたんだ。この国は、国王が動かしているようなもんだろ? だったら、国王になって、この国を変えればいいんじゃねえのか?」
「…は?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます