15 彼の望みと不審な短銃

「ですから自分はハリエット嬢があの王子の元で嫌な気持ちにならない様に、心をひたすら砕いてきた、と思っています。

 無論自分の思い込み過剰かもしれませんが。

 そしてもし彼女がずっと探している恋人が見つかったら、いつでも逃げても構わない、と思っておりました」

「それは何とまあ、献身的な!」

 アンネリアは驚いた。

 自分が守り育ててきた花が他の真に愛する男の元に去ってもいい、と本気で思っている男が居るなどと考えたことが無かったのだ。


「それはまるで、父親? いや、父親ですら、娘が本気で恋した男にそのまま渡してやる、なんてことはそうそうできないと思うのだが?」

「彼女の場合は再会そのものが生きる目的です。

 本当にその相手という男が死んでいたならば、おそらくは既に自死を選んでいたでしょう。

 それこそ最初の時点で王子を脅した様に。それ程の思いはやはり自分にしてみたら、美しいと思ってしまうのです」

「其方は実に耽美主義者だな」

「何とでも仰ってください。自分の理想の美を具現した少女が本当に現れたのですから」

「その美しい身体が王子に汚されていることは何とも思わないのか?」

「彼女の美しさは、その王子に汚される日々を自身で何ってこと無い、と撥ね除けるところにもあると思っております。

 そもそも身体は汚されたとしても、心が全く王子に対しては無いことは判っています。

 そんな気持ちを持った彼女を見るのが自分にとっては幸福なのであって、自分が触れたら終わりでしょう」

 なるほどこれほど自覚している者は珍しい、とアンネリアは思う。

「ではそろそろ切り口を変えよう。この短銃のことだ」

 フットサム王子を殺したこの銃だが、一体誰が用意した?」


 先ほどハリエットから回収したそれを取り出す。


「と仰いますと」

「私は小さな頃から領内で護衛騎士達の兵器武器火器等もそれなりに見てきた。

 国境の海を挟む領地の主の家に生まれた以上、把握しておくべきことだ。

 ――で、この銃だ」


 この様に、とハリエットとアイアンに突きつけてみせる。


「こんなもの、私は見たことが無い。

 帝国の正規軍七旗の装備品でも、間諜仕様のものでも。

 一体誰がこれを開発した?」

「……」


 少しの間、二人は黙った。


「女の手のひらに入る大きさの二発装填。

 こんなもの見たことが無い。

 非常に小さく、女の細腕でも反動無しに撃てそうな代物だ。

 無論ハリエット嬢には細くとも強い筋肉があるのは判る。

 が、そうでなくとも、この様に手の中にすっぽり入る短銃を私は初めて見た。

 誰だ? こんな技術を持つ者は。

 この国にそんな優秀な技術者が存在するのか?」

「はい」


 のほほんとした声が、貴族の集団の中から上がった。

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