14 美しさは力

「引っ立てよ」


 アンネリアは命令する。

 気になっていた、パーティ会場の後ろに居た二人組。

 一人は黒衣の騎士らしいが、もう一人。


「逃げはしない」


 黒衣の騎士はマントでもう一人をかばう様にして立っていた。

 淡い色の金髪の少年か、とアンネリアは見た。

 ただよく顔は判らない。

 その髪がばらりと長く顔を隠していること、そして少年というには、線がやや細い様に思えたのだ。

 アンネリアにしてみれば、自身の周囲は筋肉が命、という様な鍛えた者ばかりである。

 なのにこの国に来てからというもの、彼女の目からしたら果たして男か女か判らない様な者も多いのだ。


「逃げはしない。だから前方に行く。ハリエット嬢をめがけて投げたことは否定しない。だが俺は王太子派でも無い」

「では何派だ?」


 それには答えず、黒衣の騎士は、少年らしき者をかばいつつ、前へと進み出て用意された席に着いた。


「其方達が何かは判らぬが、まだハリエット嬢とその協力者の話が終わっていないからな」

「感謝する」


 黒衣の騎士は横に連れを座らせ、自身のマントを取ると相手に掛けた。

 重い、と連れはつぶやいた。

 ――高い?

 ふとアンネリアは思う。

 やや裏返った様な高い声がした様な気がした。


「では服のことはまあ良いとしよう。アイアン・ダッスルの話の続きを」

「はい」


 アイアンはドレスの辺りで止まった話の続きを始める。


「それからというもの、フットサム王子は何かと彼女を外に連れ出し始めました。

 ただ、何処の誰とも知らない女を人目のある外に出すのは、という声がさすがにあがる様になりました。

 そこで王子の懇意の下級貴族の中で、独身で困窮しているランジア子爵と彼女を養子縁組させました。

 腐っても子爵ですから、宮中に出入りするのもおかしくはない、という形が一応取れました。

 それが辺境伯令嬢のおいでになる半年前のことです」

「なるほど、では私が来たのは、まだハリエット嬢にしても社交界に出てさほどの時間が経っていない頃だったのだな」

「その通りです。ただその半年の間に、王子はハリエット嬢をかなりの時間連れ歩き、若いにもかかわらず、やや禍々しいまでの印象を与える美しさを、宮廷に見せつけたのです」

「禍々しいまでの、か。本当に其方はハリエット嬢に心酔しているのだな」

「無論です。

 彼女が美しくなかったら、あの人を物にしか思えなかった王子は、仕事が済み次第彼女をもゴミの様に殺していたことでしょう。

 そして彼女自身の逃がしたかった相手にしても、生き残るチャンスを与えられることはなかった。

 飛び抜けた美しさというのは、それだけで力なのです」 

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