12 花を育てて行く侍従
「使える駒、でいいのか?」
アンネリアはつらつらと淀みなく話すアイアンの姿に軽く目を眇めた。
「はい」
「ハリエット嬢にはそれだけの魅力があったということか?」
「所謂男女の仲的なことなら否、です。
自分はただ、ともかくこの美しい少女ができるだけ健やかに育ってくれることが楽しみでした。
人によっては、こういう見方をすることに嫌悪感を抱く方も居られるかもしれませんが、美しい花を咲かせるのが趣味の方も居るでしょう。
その様な感覚です」
「なるほど。では続けてくれ」
自分と感覚が合う合わないの問題ではないし、何はともあれそのおかげでこのハリエット嬢は生き延びたのである。
そして彼女自身もそれに対しては感謝している。
ならよかろう、とアンネリアは思う。
「充分な食事、清潔な衣服と風呂、あとは彼女がこの宮中でただの玩具として捨てられない様に、できるだけの知識を教えておきたいと思いました。
自分は彼女より二つ上ですので、自分が教師から学んだことを、王子が連れ回したいと思う時間でなければ余裕のある彼女に、できる限り教えました。
彼女もまた、自分の立ち位置を判っていました。
王子の玩具から愛人という立場くらいに上がらないことには、いつ何があっても判らないと。
もともと身体の動きは良い彼女にはダンスや淑女らしい仕草を教えるのは難しくはありませんでした。
これは貴族の生まれであっても、身体の使い方を知っているか否か、で変わってきます。
彼女は常に自分がかつて身につけた腕を落とさない様にしておりました。
飾りの様に置かれた丸い盤に、沢山のダーツで絵を描く様は素晴らしいです。
星とか三日月とか。ただ中心を狙うのは当然ということで、自分の好きな場所に投げて絵を描くのです。
しかしこういうものは、常に訓練をしていないとすぐに腕が落ちるものです。
時には自分を組み手の相手になさることもありました。
非常に軽いのに、自分はなかなか勝つことができません。
いえ、今でも勝てないのです。身軽さが違います。
なるほどこれが砂漠の国の暗殺者の腕なのか、と自分は感心しております。
やがてフットサム王子もどんどん美しくなっていくハリエット嬢を、着飾らせて外に出して見せびらかしたい、という欲望が芽生えてきました。
自分の方には、彼女に似合うドレスを、と命じてきました。
金に糸目はつけない、と付け加えて。
彼女は王宮御用達の仕立屋ではなく、街で評判の良い、しっかりした仕立てをする職人を自分に頼みました。
そして彼女自身でざっと形を絵にして見せ、『この様な感じで作れないか』と仕立屋に提案しました。
命令ではありません。提案です。
仕立屋にも何かしらそれに惹かれるものがあったのか、できる限り彼女の要求を取り入れたものを仕立てて来ました。
現在もそうなのですが、ハリエット嬢のまとうドレスは、彼女の考えが基本に入っております」
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