11 ハリエットとの出会い

「フットサム王子をお起こしするのは当番制でした。

 そしてその日は自分が当番でした。

 寝台の上には、痩せ細り、王子の体液やら何やらで汚れた少女がぐったりとしていました。

 うっすらと開けた瞳が自分を見た時、その美しさに自分の心臓が跳ねました。

 その自分の様子に王子はむっとしたのでしょう。

 朝は淡々と作業をこなされるのが王子の予定でしたから。

 ええ、ですから他の侍従は彼女が居ても何も言わず作業をしていたのでしょう。

 ですがその時自分は、このままではこの少女は死んでしまう、と思ったのです。

 そこで精一杯、この少女を助けつつ、王子を怒らせない方法を考えました。

 王子にとって少女は何なのか。おそらくは玩具なのだろう。『そろそろ壊れそうだ』と仰いましたから。

 そこで自分は、半ば賭けでこう言いました。『少し手入れすれば、まだ使えますよ』と。

 少しでもフットサム王子がその『玩具』が壊れることが勿体無い、と思っていればこの言葉に乗るかもしれない。

 別のものでいい、と思ったなら自分に叱責が飛ぶだろう、と思いつつ。

 ありがたいことに、前者でした。

 何処で手に入れたのか、という問いに王子は傭兵の生き残りだ、とあっさり答えました。

 王子にはそういうところもありました。

 確かに予定を遮られると怒りますが、こちらの質問には頓着なく答えるのです。

 王子は我々も人とは感じていないので、答えたところで何でもないと思っていらしたのでしょう。

 自分はそれをいいことに、率直にこの少女が王子を殺す危険は無いのか、彼女が王子と結んだ契約は、等々を聞き出しました。

 彼女に充分な食事を与え、湯浴みをさせ、清潔な衣服を着せたら、思った通り、いえそれ以上に、自分が夢見た美しい少女の姿になりました。

 そして王子はその仕上がりに満足し、自分を彼女付きにしました。

 これは二つの意味で非常にありがたいことでした。

 一つは、王子直属でないことで、自分自身のストレスが減ること。

 二つ目は、何と言っても、この美しい少女の世話ができることです。

 無論、夜には王子の寝室に送り出さねばならないし、苛立った王子に彼女が殴られることもありました。

 ですが、何もされないよりましです。

 彼女はそもそも殴られるにしても、訓練ができていたせいか、非常に上手くかわしていました。

 王子は彼女の顔を気に入っていたので、顔は決して殴りませんでした。

 専らその腕を取って壁に叩きつけたりするのが多かったのです。

 とは言え、彼女、ハリエット嬢自身からその素性や好みやして欲しくないこと等を聞き出すのは、至難の業でした。

 何せ基本的に口が固いのです。

 それは訓練によるものでしたので仕方がありません。

 それでも一年二年と経つうちに、ぼつぼつと自分のことを話してくれる様になりました。

 ええ、彼女にしても、自分のことを目的に使える駒と踏んでくれたのでしょう。

 望むところでした」

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