アイ・リッド ~瞼が開かぬ少女~
彩霞
第1話 まじない師・シェスカ
「はい、替えの手袋」
シェスカは革で出来た、右手用の茶色い手袋を目の前に座るセブルスに渡した。
「ありがとう」
彼は受け取るとすぐに右手に付けていた手袋を外し、手渡されたものをはめると、手を握ったり開いたりして感触を確かめていた。
「少しきつい気がするけど……」
小さく呟くセブルスに、シェスカは「使っていけば伸びるし、柔らかくなるから。今までだってそうだっただろ」と言い放つ。それから立ち上がって、棚の上にあった裁縫道具をテーブルの上に持ってくると、今度は彼に手を差し伸べた。
「何?」
その意図が分からなかったセブルスは、怪訝そうな顔でシェスカを見上げる。すると逆に不機嫌な顔を向けられた。
「何、じゃない。君が穴を開けた手袋を繕ってやろう、と言っているんだ。さっさと寄越しなさい」
子どもに言うような話し方に、セブルスが頬を膨らませる。
「……言い方が冷たい」
その一言に、シェスカの右頬がひくりとする。33歳にもなった大の男が、何故妻でも母でもない年下の女に、そんな言い方をするのだろうか。イラっとしてしまうが、幼いころからシェスカのほうがセブルスよりもずっとしっかり者だったのだから、仕方ないと言えば仕方のないことなのだが。
「言い方に文句を言うな。だったら、自分で
「だって、出来ないし……」
もぞもぞと言うセブルスに、シェスカは呆れたように言う。
「それならお母さんか奥さんに
「それはさすがに出来ないよっ!」
素早く反論する彼に、シェスカがぴくりと眉を動かして一蹴した。
「だから、別にこの手袋を触ったからって、石にはならないんだから、家族の誰かにやってもらえばいいじゃないか」
右手に、触れた物を石にしてしまう異能があるセブルス。
しかし、その手を常に顕わにしていたら、石にしてはいけないものまで石にする危険性があるので、彼はまじない師が作った、一時的に力を封じることができうる手袋を普段ははめている。
手袋越しに触ったものは石になることはないので、重宝しているのだが、年中付けているせいで、時折出てくる
解れたならば自分で繕えばいい。それはそうなのだが、セブルスが手袋無しで針を持ったら、途端に針が石になってしまうし、糸も同じようなことになってしまい、いつまで経っても縫えない状態になってしまう。そのため、どうしても自分では
仮に、力を封印する手袋をかけながら作業するにしても、それはやりにくいし、万一穴が塞ぎ切れていなかったりすれば大きな問題になる。だから、他者に頼るしかないのだが、セブルスは家族には頼めないというのだ。
それは手袋を触ったら、石になるかもしれない、と思っているせいである。
異能を一時的に封じる力を持った手袋は、常に異能に触れている状態だ。そのため、彼は手袋に異能の力が移ってしまい、それに触れた他の者が石になるかもしれない……などとありもしないことを想像してしまっているのだった。
「分かってるよ! 分かっているけど……」
セブルスは革の手袋がはめられた自分の手を見下ろした。
ありもしないことだが、その右手の異能がすでにありもしないことだ。だから、不安なのだ。
「頼みたくない……」
消え入りそうな声で呟くのを見て、シェスカは長いため息をついた。
「……分かったって。ちょっと言いすぎた。ごめん」
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