TWO MAN CELL

だのん

第一部 新興国家アストロン

第1話 アルティス、発つ

アルカリ村の夜は、いつになく静か。



ベクレ家の跡取りであるアルティス・アンシェル・ベクレは、かがり火を焚いて自分で建てたテントの周りを囲む。かがり火は風に揺らめき、あたり一帯を明るく照らす。

火の勢いがもう少し強かったら、テントに火がついてしまうだろう。



そしてアルティスはバイクの荷台から父の遺したボロボロの銃を取り出すと、それを強く握りしめて感傷に浸った。



そう、それは昨日の事......

平和なアルカリ村にやってきた、突然の悲劇。



アルティスの家族は、皆命を奪われた。



父のディアマンテ、母のクレア、そして妹のナナ。アルティスにとって、最愛の人を一瞬にして葬り去った爆音と肌に感じた爆風を、アルティスはいまだ鮮明に覚えている。

思い出したくないのに、何度も頭の中で再生されるあの情景は、アルティスの脳裏に焼き付いて離れない。



彼は、「愛する人の死」という人間最大の恐怖に打ちひしがれてしまったのである。



人はみな、心が傷つき壊れると、心の拠り所を求めるもの。もちろんアルティスも例外ではなく、心底愛する父親の形見と、孤独の旅で傷ついてしまった心身ともに癒そうとしている。



ふと肌寒さを感じて。我に返るアルティス。銃を無造作に荷台に戻し、テントの中に潜り込む。



アルティスは「俺は...」と声を漏らす。その先の言葉は、今の彼では言えないことであった。



また一段と、風が強くなってきた。吹き付ける風は荷台の銃をはたき落として、火花を散らす。銃の暴発だ。アルティスはその音に、思わず体を丸める。



たった一発の空を切り裂く弾丸が、仮に方向が違って自分の肉体を切り裂くことになったら。アルティスは爆発の音が忘れられないまま、一夜を明かした。




テント越しの光を受けてアルティスは目を覚ます。

重いまぶたを擦り、水筒の水を頭からかぶるためにテントの外に出る。



遠くに人影が見えた。アルティスと同じ年頃の、メガネをかけた青年。

彼の名前を、アルバート・エクサルトといった。



アルバートはアルティスを見つけるや否や、足早にアルティスのもとに向かってくる。



「おはよう。やっと見つけたよ」

それが、久しぶりに聞いたアルバートの声であった。



アルティスは気怠そうにテントをたたみながら、「心配かけて悪かったな」と返す。



アルバートは鞄に手を伸ばして、竹の皮で包んだおにぎりを出し、それをバイクのシートに置いた。



「朝ごはん。食べてないでしょ」



アルバートはその言葉を残して、その場を去っていった。



アルティスはその姿を見届けると、テントを片付ける手を止めて、竹の皮を乱雑に引き裂いておにぎりをほおばる。



なにせ、アルティスにとって久々の食事だ。昨日朝ご飯を食べたきりで空腹を満たしてこなかったアルティスの喜びは、計り知れないものだっただろう。



おにぎりをあっという間に平らげ、テントもたたんだアルティスは、荷物をバイクの荷台にまとめてゴムひもを括り付け、バイクのエンジンを吹かせる。




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