CC: Hologramic Life (シー・シー:ホログラミック・ライフ)

げこげこ天秤

プロローグ 2042年を生きる君たちへ

 2016年度の慶應義塾大学のAO入試では、次のような問いが出題された。



 -------------------------------


来年1月1日から人類が鳥のように空を飛べるようになると仮定します。現在の法律および社会通念は人が空を自由に飛ぶことを前提としていないため、さまざまな混乱が生じると考えられます。どのような問題が起こるかを予測し、その解決策とあわせて400字程度で述べてください。


 -------------------------------



 あなたならどう答えるだろうか?



 ――空が無法地帯となるため、法整備が必要。



 行きつく回答としてはこんなところだろう。ちなみに、この出題の背景を邪推するなら、当時ドローンに関する法整備が十分になされていなかったことが考えられる。首相官邸にドローンが落ちたのも、2016年4月の出来事だ。



「確かに、正論。……けれど、詰らない答えだね」



 だから、は筆をることにした。せっかくだから、400字という制限は取っ払おう。設定も細かくしよう。まずは、空を飛べる理由だ。たとえファンタジーを描くとしても、空を飛べるようになる理屈は必要だろう? ……例えば、生命工学の発展により〈反重力遺伝子〉が生み出されて、それを人体に組み込むことで飛べるようになるというのはどうだろう。


 さあ、どうなる?


 ちょっと突飛な設定かもしれないが、思考実験としては良い題材だと思う。例えば、〈天才になれる遺伝子〉があったとして、あなたは自身に組み込むだろうか? という表現が嫌なら、ICチップなら? 例えば、外国人の言ったことや書いたことをを瞬時に翻訳してくれるICチップ。それも嫌ならワクチン接種は? 病原菌に打ち勝つためにワクチンを体内に入れる。――どれも本質的にやってることは同じだ。いずれにせよ、受容する人間と拒絶する人間に分かれるだろう。


 さて、〈反重力遺伝子〉のケースにも、このアナロジーを当てはめてみよう。受容できる人間、そうでない人間の二極化がおこる。そして、僕のたどり着いた答えはこうだ。――社会は分断される。


 人間は争う。肌の違いで、宗教の違いで、信条の違いで、経済的豊かさの違いで。ましてや遺伝子レベルで異なる種族だ。〈反重力遺伝子〉に順応した新人類と、拒絶した旧人類。――だから、法整備が必……



「果たして、どうだろう? この戦いは、古いタイプの人間を克服するチャンスじゃないかな? 空を飛べる人類は、新たな新天地を得て、文字通り次なる高みを昇る。旧人類との闘争は、人類という種族を発展させるための必要悪!!」



 だから敢えて、は地にしがみつく奴らをと呼ぼう。逆に彼らは我々のことを非人間化物だと呼ぶだろうが、それでいい。ある意味では、我々はもう人間ではないのだから。



「それでいい。そうやってお互いにを見る。おのが罪は、信じた物語によって正義に変わる。――さぁ、。スタートボタンを押す時だ」



 自分の名前の欄には、と記入しよう。


 さて、出だしは……そうだな。





 ――2016年1月1日、東京は燃えた。そして君たちは、未だ醒めぬ夢のなかで、今日も生きている。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る